エネルギー革命とEU加盟交渉の狭間で ― 世界の注目を集めるモンテネグロ

バルカン半島に位置する小国モンテネグロが、いま国際社会で大きな注目を集めています。エネルギー分野での変革やテクノロジー分野での前進に加え、観光地として世界的メディアに取り上げられ、同時にEU(欧州連合)加盟交渉でも重要な局面を迎えているからです。さらに、加盟交渉をめぐってはフランスが一部章の進展に異議を唱えたと報じられ、政治的な緊張も生まれています。

本記事では、モンテネグロをめぐる最近のニュースを、できるだけやさしい言葉で整理しながら、「エネルギー革命」「観光」「EU加盟交渉」「ドイツやフランスなど欧州主要国の動き」という4つの視点から詳しく見ていきます。

小さな国モンテネグロとは?

モンテネグロは、アドリア海沿岸に位置する人口60万人ほどの小さな国で、かつてはユーゴスラビアの一部でした。独立後はEU加盟を大きな目標に掲げ、法制度や経済構造の改革を進めてきました。現在もアルバニア、北マケドニア、セルビア、トルコと並ぶEU加盟候補国のひとつとして位置づけられています。

2024年6月に行われたEUとモンテネグロの政府間協議では、EU法体系(アキ・コミュノテール)の35章のうち、第23章「司法と基本的権利」と第24章「正義、自由、安全」に関する暫定基準を概ね満たしていると確認されました。これは、法の支配や人権保護、治安・司法分野の基盤整備が進んでいることを示すもので、加盟への重要なステップとなっています。

1. エネルギー革命と技術革新 ― モンテネグロの新たな挑戦

近年のモンテネグロでは、「エネルギー革命」や技術革新に関する取り組みが注目されています。欧州全体が脱炭素とエネルギー安全保障の両立を迫られる中で、バルカン地域の国々も再生可能エネルギーの活用拡大やエネルギー構造の転換を進めているためです。

EUは2030年以降の気候・エネルギー目標を掲げ、加盟国・候補国に対して温室効果ガス削減・再エネ拡大・エネルギー効率改善を求めています。モンテネグロも、こうしたEUの方針に沿って電力システムの近代化やインフラ投資を進める必要があり、その過程が「エネルギー革命」として報じられています。

とくに、欧州ではロシア産ガスへの依存を減らす動きが一気に加速しており、ドイツなど主要国では、エネルギー安全保障の観点から再生可能エネルギーや原子力の位置づけを見直す議論も行われています。こうした流れは、電力網やガスインフラがつながるバルカン地域全体にも影響を与え、モンテネグロにとってもエネルギー分野の構造転換を進める強いインセンティブになっています。

加えて、エネルギー分野での転換にはデジタル化やスマートグリッドなどの技術革新が不可欠であり、モンテネグロはEUからの支援や地域協力を通じて、こうした分野の投資・技術導入を進めています。これらの動きが、「エネルギー革命」と「テクノロジー分野でのブレイクスルー」として国際的な関心を集めている背景にあります。

2. BBC「2026年に行きたい旅先」リスト入り ― 観光立国としてのモンテネグロ

もうひとつの明るいニュースとして、モンテネグロがBBC Travelの「2026年に訪れたい場所」リストに選ばれたことが伝えられています。これにより、従来から人気のアドリア海リゾートに加えて、自然・文化・持続可能な観光といった面で注目度が一段と高まりました。

モンテネグロは、美しいアドリア海沿岸の街並みや、山岳地帯の国立公園など、コンパクトな国土の中に多様な景観を持っています。とくに、歴史的な旧市街や海岸沿いのリゾート地は、クロアチアに隣接する観光地としてヨーロッパではすでに知られた存在です。

BBCのような世界的メディアに取り上げられることで、海外観光客の増加だけでなく、観光インフラや環境保護のあり方にも注目が集まります。エネルギー転換が進む中で、観光産業でもサステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)の考え方が求められており、モンテネグロにとっては経済成長と自然環境の保全を両立させるチャンスとも言えます。

EUは「グリーン・トランジション」の一環として、加盟候補国にも環境基準の整備や持続可能な観光開発を促しており、モンテネグロの観光発展はEU政策とも密接に結びついています。

3. EU加盟交渉の前進 ― 「モンテネグロと加盟条約作業を始められる」発言

政治面では、EU加盟交渉をめぐる動きがニュースの中心となっています。モンテネグロは、現在進んでいる拡大プロセスの中でも最も交渉が進んでいる国のひとつとされており、EU側でも「どの国が次の加盟国になるのか」という文脈で頻繁に名前が挙がる存在です。

2024年6月の政府間協議で、前述のとおり第23章(司法と基本的権利)と第24章(正義、自由、安全)の暫定基準をおおむね満たしたとEUが確認したことは、モンテネグロの評価を大きく押し上げました。欧州委員会は、必要条件がすべて満たされれば、2025年のできるだけ早い時期に「ファンダメンタルズ・クラスター」から本格交渉を進めたいとの期待を示しています。

こうした流れの中で、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相が、モンテネグロとのEU加盟条約(アクセッション条約)の作業を近く開始できる可能性に言及したと伝えられました。メルツ氏はドイツの保守政党CDUの党首であり、2025年に首相に就任して以降、欧州レベルでのドイツのリーダーシップ強化と、バルカン諸国の安定・統合を重視する姿勢を示しています。

バルカン地域に関する首脳会議では、ドイツのメルツ首相やイギリスのスターマー首相らが参加し、「バルカン半島はヨーロッパ大陸の安全保障が決まる場所だ」との認識が共有されています。このような場で、メルツ氏がモンテネグロのEU加盟を前向きにとらえていることは、同国にとって大きな後押しとなります。

EU加盟は、欧州委員会・欧州理事会・欧州議会の承認を経て、全加盟国と候補国が加盟条約に署名・批准するという複雑なプロセスをたどります。したがって、ドイツのような大国の政治的支援は、実務のスピードにも少なからぬ影響を与えると見られています。

4. フランスが2章に異議 ― パリによる「ブロック」の意味

一方で、加盟交渉は順風満帆とは言えません。報道によると、フランス政府がモンテネグロとの交渉における2つの章について異議を唱え、交渉プロセスを一部ブロックしたとされています。ここで言う「章」とは、EU法体系(アキ)を分野ごとに分けた交渉項目で、司法、競争政策、環境、エネルギーなど合計35章に分類されています。

フランスが問題視している具体的な章の内容は報道で詳しくは示されていませんが、「2章をめぐってパリと対立している」「フランスがモンテネグロの交渉の先行きにストップをかけた」といった形で紹介されています。これは、EU加盟交渉が個々の加盟国の政治判断に左右されうることを象徴する出来事です。

EU拡大政策では、加盟候補国側が改革を進めるだけでなく、既存の加盟国側にも拡大を受け入れる政治的意思が必要です。フランスは、過去からEU拡大に慎重な立場をとることが多く、加盟候補国の法の支配や民主主義、経済構造に対する厳しいチェックを求めてきました。今回のモンテネグロに対する「2章のブロック」も、そうした流れの中で理解することができます。

ただし、EU全体としては、2020年代を通じて「拡大の再活性化」を掲げており、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、西バルカン諸国などを将来的な加盟候補として視野に入れています。モンテネグロはその中でも交渉の進展度が高いため、フランスとの調整がつけば、再び交渉が前向きに進む余地は十分あると見られています。

5. ドイツ・フランス・イギリス ― 大国の思惑とバルカンの安全保障

モンテネグロのEU加盟問題は、単に一国の制度改革の話ではなく、ヨーロッパ全体の安全保障と政治秩序に深く関連しています。

イギリスのスターマー首相は、バルカン首脳会談の場で「バルカン半島は大陸の安全が決まる場所だ」と発言し、この地域の安定がヨーロッパ全体の平和と安全にとって不可欠であると強調しました。会議には、ドイツのメルツ首相やオーストリアの首相なども参加し、バルカン諸国のEU統合への希望を維持することの重要性を共有しました。

ドイツのメルツ政権は、経済成長・安全保障・デジタル革新を政策の柱に掲げ、欧州におけるドイツの主導的役割を強める姿勢を示しています。その文脈で、西バルカン諸国の安定やエネルギー・インフラへの投資は、EU全体の安全保障戦略の一部とみなされています。

一方のフランスは、EUの制度や財政に対する負担増を懸念し、ときに拡大ペースの抑制を求めてきました。今回、モンテネグロの交渉章の一部をブロックした背景には、法の支配や汚職対策、経済改革の実効性などに対する慎重な見方があると考えられます。

このように、ドイツは前向きに加盟条約作業開始の可能性に言及し、フランスは一部章の進展にブレーキをかけるという構図になっており、モンテネグロは両国の間でバランスを取りながら交渉を進めていかなければなりません。

6. モンテネグロにとってのチャンスと課題

ここまで見てきたように、モンテネグロはエネルギー革命・テクノロジーの進展・観光の発展・EU加盟交渉という複数の重要テーマが同時進行している、非常にダイナミックな局面にあります。

  • チャンス:BBC Travelが2026年の旅先として取り上げたことで、観光面での国際的な認知度が高まり、投資や雇用拡大の可能性が広がる。
  • チャンス:EUの「グリーン・トランジション」やインフラ投資支援を通じて、再エネ・デジタル技術・輸送インフラなど、成長分野での近代化を進められる。
  • チャンス:ドイツなど主要国からの政治的支援により、EU加盟への道が具体化する可能性がある。
  • 課題:フランスが指摘する2章の問題を含め、司法・行政・経済などの改革をさらに進め、EUの厳しい基準をすべて満たす必要がある。
  • 課題:観光拡大と環境保護のバランスをとり、自然環境の破壊を防ぎながら持続可能な成長モデルを確立しなければならない。
  • 課題:バルカン地域全体の政治的不安定さや安全保障リスクに対処し、国内外の信頼を高めることが求められる。

特にEU加盟交渉では、「すべての条件が満たされることを前提に、2025年のできるだけ早い時期に交渉を進めたい」という欧州委員会の期待が示されている一方で、実際には加盟条約の策定、全加盟国での批准など、まだ多くのステップが残されています。モンテネグロにとっては、外からの期待内側の改革の現実とのギャップをどう埋めていくかが大きなテーマになっていきます。

7. これからモンテネグロはどこへ向かうのか

モンテネグロをめぐる最近のニュースは、小さな国がエネルギー・観光・EU統合という大きな流れの中で、自らの将来を切り開こうとしている姿を映し出しています。

一方では、エネルギー革命や技術革新、観光振興といった前向きな話題があり、国際社会からの関心と期待が高まっています。もう一方では、EU加盟交渉の中でフランスが2章をブロックするなど、政治的なハードルも依然として存在します。

ドイツのメルツ首相が示した前向きなメッセージと、フランスの慎重な姿勢。これらは、モンテネグロだけでなく、EU拡大そのものの行方を占う試金石とも言えるでしょう。バルカン半島を「大陸の安全が決まる場所」と位置づけたスターマー英首相の言葉どおり、この地域の安定と統合は、ヨーロッパの未来に大きな影響を与えます。

モンテネグロが、エネルギー転換と技術革新を進めながら、美しい自然と文化を守り、EUの一員としての道を歩むことができるのか。その過程を見守ることは、ヨーロッパ全体の変化を理解するうえでも大きな意味を持つと言えるでしょう。

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