イースター島のモアイ像は「歩いて」移動した——最新研究による謎の解明

1世紀以上続いた謎、ついに解明へ

世界遺産に登録されている南太平洋の孤島、イースター島(現地名:ラパ・ヌイ)。この島に屹立するモアイ像は、高さ数メートルから最大10メートル、重さも多いもので80トンといわれます。島の各地に点在する900体以上の巨大石像が「どのようにして製作場所から島の各所へ運ばれたのか」は、これまで世界中の研究者を悩ませてきた大きな謎でした。

近年では、20トン以上もある巨像を「現地でどのように運搬したのか」に関して、丸太や木製そりを用いた説や、転がす説、異星人によるものとする突飛な説までもが提唱されてきました。2025年10月、ついにこの謎に極めて現実的な解が与えられたとして、現地でも大きな話題となっています

最新研究が明らかにした「歩くモアイ」仮説

  • アメリカ・ビンガムトン大学のカール・リポ氏とアリゾナ大学のテリー・ハント氏のチームが主導
  • 3Dモデルやフィールド実験を活用し、モアイ輸送のメカニズムを詳細に分析
  • 島の伝承「モアイが自ら歩いて動いた」という言い伝えも科学的に裏づけ

『Journal of Archaeological Science』に掲載された論文によれば、リポ氏ら研究チームは、まず島全体に現存するおよそ962体のモアイ像を高精度3Dスキャンで調査。その特徴的な台座形状と前傾姿勢に着目し、モアイ像を“立てたまま”左右に揺らして進めるという仮説を実証実験で検証しました

驚きの実験——「歩かせて」100メートル前進!

この実験では、重さ4.35トン、前傾デザインを持つレプリカ像を製作。像の中腹にロープを三方向から括り付け、左右交互に引っ張ることで、ジグザグに進ませる方式を採用しました。
結果、わずか18人で直立したままのモアイ像のレプリカを約100メートル移動させることに成功し、その所要時間はわずか40分でした

  • 従来説のような大量の丸太や木製そりは不要
  • 左右に揺らすことで、台座前縁を軸に「一歩踏み出す」ように進行
  • エネルギー効率が高く、少人数での作業が可能

この運搬様式は効率的であり、「とても巨大で重いモアイ像も、一度揺らして動き出せば、思ったより簡単に前に進む」と研究者は語っています

モアイ像の「歩行」に適した独特の形状

最新の分析と実地実験によって、モアイ像の次のような特徴が「歩行運搬」に特化していることが明らかになりました。

  • 底面が広くD字型で、安定性を増す設計
  • 台座に対し前方へ6〜15度の前傾があり、重心がやや前に寄ることで力を加えると自然に前へ倒れる性質
  • 台座の端が丸く加工されていることで、左右に揺らしやすく、ゆりかごのように転がすこともできる

このような設計は、単なる芸術的な意図だけでなく、明確に輸送効率を考慮し意図されていたことが分かります

モアイを歩かせる道の存在

さらに、イースター島内でモアイ像が通ったとされる“古道”も、「歩くモアイ」に適した構造になっています。道幅約4.5メートル、中央が少しくぼんだ独特の形は、像がジグザグに揺れながら歩く際の支持面として最適だったことが判明しました

伝承と科学の融合——先住民の知恵が現代に再評価

イースター島の先住民、ラパ・ヌイの人々は、古くから「モアイは『自ら歩いて』集落や祭壇へ来た」と語り継いできました。これまでは神話や誇張のように受け止められてきたこの伝承が、最新の考古学的成果によって“現実の知恵”として再評価されています

従来説との決定的な違い

従来の有力説 最新研究の「歩行」説
  • 木製のそり・丸太を利用
  • 寝かせたまま転がす・引きずる
  • 膨大な人手や木材が必要
  • モアイは直立したまま、ロープで左右に揺らして歩かせる
  • 18人程度の少人数・少資材で十分に運搬可能
  • 台座や像の形状もこの方式用に設計されていた

今後の課題と展望

  • 今後さらに大型(10メートル級・数十トン級)のレプリカを用いた検証が期待されている
  • イースター島各地の古道や遺構分析で、運搬ルートや工程のさらなる復元につながる可能性
  • モアイ像に秘められた文化的・宗教的意義についても引き続き考古学的研究が進められている

今回の実験と科学的検証は、イースター島先住民の知恵と技術が極めて高度であったこと、そして「伝承からヒントを得て科学的検証へつなげる」研究の重要性を改めて示しています。現代の私たちがはるか古の遺産に新たな目を向けることで、過去の人間の営みや創意工夫の偉大さ、そして“科学と伝承”の対話のあり方を考えさせられるニュースとなりました。

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