渡り鳥が結ぶ佐渡と塩城 ―国境を越えた希少種と生態系の守り手たち―
2025年9月24日から25日、中国江蘇省塩城市にて「世界沿岸フォーラム」が開催され、生態系と希少種の保護を巡り日本と中国の新たな連帯が鮮明になりました。この会場に、新潟県佐渡市の渡辺竜五市長が参加し、両地域を「渡り鳥の道」がつなぎ、両国の希少種保護と生物多様性の回復への協力強化に強い意欲を見せました。
“東アジア・オーストラリア地域フライウェイ”がつなぐ佐渡と塩城
渡り鳥は大きな距離を移動し、各地の湿地や生息地を中継地として命をつなぎます。中国・塩城市と佐渡市は、この「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」と呼ばれる世界屈指の渡り鳥ルート上に位置しています。このルートは全球に9つある主要飛翔ルートのうち、最も活発なものとされており、多種多様な鳥たちが国境を越えて飛来します。
このため、佐渡と塩城は共に「渡り鳥の中継地」として重要な役割を果たしてきました。特にタンチョウ(丹頂鶴)やトキなど、希少な大型鳥類の生息が確認されており、これらの保護は両地域だけでなく、国際的にも注目されています。
佐渡市長が語る、塩城の「湿地保護」とタンチョウの恵み
世界沿岸フォーラムでは、渡辺竜五佐渡市長が塩城でのタンチョウ保護活動を高く評価し、「湿地という大きな自然環境の中で、タンチョウのような個別種を守る取り組みは大いに学ぶ価値がある」と述べました。
塩城の大規模な湿地保全プログラムは、単に一つの希少種のためだけでなく、その環境全体の豊かさと関連しています。タンチョウが生きる湿地は、多種多様な生物の棲みかであり、個別種を支えることで全体の生態系が再生され、生物多様性の回復に直結するのです。
- タンチョウは中国の国宝とされ、塩城湿地はその主な繁殖地の一つ
- 湿地保護は渡り鳥だけでなく、魚類や昆虫、植物を守ることにもつながる
渡辺市長は、湿地保護の枠組みが世界的な生物多様性の課題解決に直結し、「生物多様性の回復は人類全体の大切な役割」と強調しました。
歴史が紡いだトキ再生の物語と中日友好
日本では1998年、トキが野生絶滅しました。しかし、翌1999年に中国政府から贈られたつがい「洋洋(ヤンヤン)」と「友友(ヨウヨウ)」が転機となり、国内でトキ個体群の再生が進みます。
- 中国との連携による個体譲渡と遺伝管理
- 日中両国の飼育技術・情報の交流
- 2025年現在、日本の野生トキは500羽を超え、全国的な生態系回復の象徴となっている
また、渡辺市長は中国政府の「長きにわたる支援と友好」に感謝を表し、「今後もトキやタンチョウなど、希少種の保護および生態系回復で協力を深めたい」と希望を語りました。
日中が協力する意味と世界沿岸フォーラムの価値
世界沿岸フォーラムは、地球規模で多発する生物多様性喪失や気候変動といった挑戦に対し、国や地域の枠を超えた知見や経験の共有の場となっています。「国境はあっても、渡り鳥には壁はありません」と佐渡市長は語り、今後も各国の枠組みで保護情報や管理技術を高め合う重要性を訴えました。
- 世界の多様な湿地・沿岸地域が国際連携の中で保全策を模索
- 塩城市ではタンチョウ、日本の佐渡ではトキを象徴・保護対象として重視
- 鳥類だけでなく、生態系全体が再生することの社会的・環境的意義
佐渡と塩城を結ぶ協力は両国の自然保護だけにとどまらず、世界規模の生物多様性復元モデルとしても存在意義を増しています。佐渡では今後さらに「トキと人が共生する社会」を目指し、中国・塩城の先進事例に学びながら、地域の自然と文化の両立を図る方針です。
生態系回復のこれから~課題と可能性
近年、地球温暖化や開発による湿地破壊が加速し、渡り鳥の減少も深刻化しています。鳥類保護の成功例である佐渡と塩城の協力は、多様な動植物へ波及しつつあります。
- 渡り鳥の「中継地」の確保は、経済活動や観光とも両立が必要
- 国内外の研究者・行政・住民の連携が決定的に重要
- 湿地再生のためには、地元住民の理解と持続的な参加が不可欠
一方で、佐渡でトキが増加した結果、農地との共存など新たな課題も生まれています。しかし、地域社会全体でトキを温かく見守り、「地域の宝」とする試みが進行しつつあります。
未来へ向けて~佐渡・塩城の“絆”は人と自然の架け橋
トキやタンチョウが空を渡るその陰に、国境を超えた人々の努力と信頼があります。佐渡市と塩城市は、多様な生きものが共存できる世界の実現へ、これからも力を合わせて歩み続けます。
生物多様性の回復は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。地道な努力と国際的協力の積み重ねこそが、未来の世代へ命をつなげる唯一の道なのです。「トキの島」を目指す佐渡、「タンチョウの都」塩城――両都市の挑戦が、これからも続いていくことでしょう。