明治大学図書館が江戸時代の貴重資料をデジタル公開

明治大学図書館は2025年10月10日、中世ヨーロッパと江戸時代後期の貴重な特別資料をデジタルアーカイブで公開しました。この取り組みは、歴史的・文化的価値の高い資料を広く一般に公開し、教育研究の発展と社会貢献活動の充実を目指すものです。

明治大学図書館振興資金による資料収集

今回公開された資料は、「明治大学図書館振興資金」を活用して取得されたものです。この資金は、学術資料の継承や特色あるコレクションの維持・拡充、図書館環境の整備を目的として2018年度に設立されました。設立以来、累計約2500万円の寄付を受けており、貴重な資料の収集と保存に役立てられています。

公開された中世ヨーロッパの貴重資料

中世ヨーロッパからは、『ブリタニア列王史』の初版本が収蔵されました。この書物は中世ヨーロッパで広く写本として流布した作品で、ブリテン島の歴史を題材としており、後世の文学作品にも大きな影響を与えた重要な文献です。

今回収蔵されたのは1508年に出版された初版本で、全文がラテン語で記されています。印行を手がけたのは、パリの印刷工房主であったヨドクス・バディウスです。バディウス印行の図書の標題を飾る有名な木版画の商標も、デジタルアーカイブで確認することができます。

江戸時代後期の戯作文学コレクション

江戸時代後期に関しては、当時流行した戯作文学から全9点の資料が収集されました。内訳は黄表紙4点、合巻2点、洒落本1点、滑稽本1点、浄瑠璃1点となっており、江戸文化の豊かな文芸活動を伝える貴重な資料群です。

特に注目されるのは、山東京伝曲亭馬琴という江戸時代を代表する戯作者の作品が中心となっている点です。山東京伝の『帰咲後日花』(黄表紙)や、曲亭馬琴の『驛路鈴與作春駒』6巻(合巻)などが含まれており、当時の庶民文化や出版文化を研究する上で極めて価値の高いコレクションとなっています。

江戸文藝文庫の更なる充実

今回収集された江戸時代後期の戯作類コレクションは、明治大学図書館が誇る特色あるコレクション「江戸文藝文庫」に組み込まれる予定です。これにより、同文庫がさらに充実し、江戸時代の文学研究や文化研究において、より多角的な資料提供が可能になることが期待されています。

明治大学デジタルアーカイブの全体像

横断検索が可能な統合システム

明治大学デジタルアーカイブは、2023年10月2日に公開されたシステムで、図書館、博物館、大学史資料センターが所蔵する資料を横断的に検索・閲覧できる画期的なプラットフォームです。公開時点で合計2,481件、画像数約68,000点のデジタル画像が閲覧可能となっており、今後も継続的に資料が追加される予定です。

多様な資料群の公開

デジタルアーカイブには、図書館から約1,070件、博物館から約660件、大学史資料センターから約750件の資料が登録されています。

図書館からは、特色あるコレクションや貴重書・準貴重書の一部が公開されており、今回の中世ヨーロッパと江戸時代後期の資料もこの一環として追加されました。

博物館からは、刑事部門の十手などの捕者道具や刑法典、江戸時代の絵図、商品部門の時田昌瑞ことわざコレクション、考古部門の旧石器時代から江戸時代までの考古資料などが公開されています。特に江戸時代の警察制度や庶民生活を知る上で貴重な資料が多数含まれています。

大学史資料センターからは、明治期のキャンパス風景や歴代役職者の人物画像など、明治大学の歴史を伝える資料が公開されています。

「知の架け橋」としての役割

明治大学デジタルアーカイブは、大学が長年にわたる教育研究活動を通じて収集・蓄積してきた歴史的・文化的資料を広く社会に公開することで、教育研究の発展と社会貢献活動の充実を図っています。全学的なデジタルアーカイブシステムとして今後さらに充実を図り、明治大学と社会を繋ぐ「知の架け橋」を一層強化していく方針です。

デジタル化がもたらす新たな学習機会

学内外からのアクセスが可能に

デジタルアーカイブの公開により、これまで図書館や博物館を直接訪問しなければ閲覧できなかった貴重資料が、インターネットを通じて誰でも自由に閲覧できるようになりました。これは研究者だけでなく、歴史や文化に興味を持つ一般の方々にとっても、大きな学習機会の拡大となります。

高精細画像による詳細な観察

デジタルアーカイブでは高精細な画像が提供されているため、実物を見る以上に細部まで観察できる場合もあります。特に江戸時代の版本に描かれた繊細な挿絵や、古文書の文字などを拡大して確認できることは、研究や学習において非常に有益です。

教育現場での活用

デジタルアーカイブは、大学の授業や研究だけでなく、小中高校の歴史教育や博物館学習においても活用が期待されています。実物資料に触れることが難しい環境でも、デジタル画像を通じて江戸時代の文化や生活を学ぶことができます。

江戸時代研究の新たな地平

戯作文学研究の重要性

今回公開された山東京伝や曲亭馬琴の作品は、江戸時代後期の庶民文化を理解する上で欠かせない資料です。黄表紙や合巻といった娯楽小説は、当時の人々の価値観や生活様式、社会風刺などが色濃く反映されており、文学研究だけでなく、社会史や風俗史の研究においても重要な史料となっています。

出版文化の発展を知る手がかり

江戸時代後期は、版元や貸本屋などの出版流通システムが成熟し、大衆向けの娯楽出版物が大量に流通した時代でした。今回の資料群は、当時の出版技術や流通システム、読書文化の実態を研究する上でも貴重な資料となります。

視覚資料としての価値

黄表紙や合巻には多くの挿絵が含まれており、当時の服装、髪型、建築、道具類などを視覚的に確認できます。これらは江戸時代の物質文化を研究する上で、文字資料では得られない具体的な情報を提供してくれます。

図書館振興資金の重要性

継続的な資料収集の基盤

明治大学図書館振興資金は、貴重な学術資料を継続的に収集していくための重要な基盤となっています。古書市場では貴重な資料が散逸してしまうリスクもある中、このような資金があることで、学術的価値の高い資料を確実に保存し、後世に伝えていくことが可能になります。

寄付者の協力による文化保存

累計約2500万円という寄付は、多くの方々の文化財保存への理解と協力があってこそ実現したものです。こうした支援により、大学が単なる教育機関にとどまらず、文化財の保存と継承を担う社会的役割を果たすことができています。

今後の展開と期待

資料の継続的な追加

明治大学デジタルアーカイブは、今後も資料の追加が続けられる予定です。図書館、博物館、大学史資料センターのそれぞれが所蔵する膨大な資料の中から、学術的価値や社会的意義の高いものが順次デジタル化され、公開されていくことが期待されます。

研究コミュニティの形成

デジタルアーカイブの充実により、国内外の研究者や教育関係者、歴史愛好家などが、これらの資料を活用した研究や学習を進めることができます。オンラインでの資料共有は、新たな研究コミュニティの形成や学際的な研究の促進にもつながると期待されています。

文化遺産のグローバルな発信

デジタルアーカイブは、日本の歴史や文化を世界に発信する窓口としても機能します。特に江戸時代の出版文化や庶民文化は、海外の研究者からも高い関心を集めており、デジタル化による公開は国際的な日本研究の発展にも貢献することでしょう。

明治大学図書館による今回の取り組みは、貴重な文化財をデジタル技術によって保存し、広く社会に公開するという、現代の大学が果たすべき重要な役割を体現しています。江戸時代の豊かな文化遺産が、デジタルという新しい形で次世代に継承されていくことは、学術研究の発展だけでなく、私たち一人ひとりが日本の歴史と文化をより身近に感じる機会となるでしょう。

参考元