さだまさし、「風に立つライオン基金」10周年 命と平和を守る“小さな志”がつないだ10年
シンガー・ソングライターのさだまさしさんが設立した「風に立つライオン基金」が、今年で10周年という大きな節目を迎えました。国内外の被災地支援や、命と平和を守る活動を続けてきたこの基金は、今もなお多くの人々の“小さな志”をつなぎながら歩みを進めています。
12日には、命や平和のために尽くす人々をたたえる表彰制度「風に立つライオン オブ・ザ・イヤー2025」の贈賞式が都内で開かれ、さださん自身も会場に姿を見せました。そこで語られたのは、10年を迎えた基金への思い、そしてこれからの支援の在り方に対する静かな決意でした。
「風に立つライオン オブ・ザ・イヤー」とは? 命と平和を守る人々をたたえる賞
「風に立つライオン オブ・ザ・イヤー」は、国内外で命や平和に奉仕する個人や団体を表彰する取り組みです。日々、表舞台にはなかなか出てこないものの、困難な現場で地道な活動を続けている人たちに光を当て、「あなたの活動を見ています」「応援しています」と伝えるための場でもあります。
今年の贈賞式では、国内活動を対象とした「鎌田實賞」に、岐阜県で新生児医療に携わる小児科・新生児内科医の寺澤大祐さんが選ばれました。生まれたばかりの小さな命に向き合い、日々最前線で医療に取り組むその姿勢が評価されました。
また、海外での活動を対象とする「柴田紘一郎賞」には、シリアや周辺国で支援活動を行うNPO法人「ピース・オブ・シリア」が受賞しました。紛争や不安定な情勢が続く地域で、人々の暮らしと尊厳を守るための地道な支援に取り組んできた団体です。
こうした個人や団体の活動は、派手なニュースにはなりにくい一方で、「誰かの命」「誰かの明日」を大きく支えています。贈賞式は、その“見えにくい善意”にスポットライトを当てる、大切な機会となりました。
10周年を迎えた「風に立つライオン基金」とは
風に立つライオン基金は、さだまさしさんが2015年8月10日に設立した民間の公益団体で、「命」や「平和」を守るために奉仕・慈善活動を行う人々を応援し、災害に苦しむ人々への支援を続けてきました。
基金の公式サイトでは、その理念を次のように掲げています。
- 私たちは、小さな「志」の集合体です。
- 災害に苦しむ人を支援します。
- ささやかで偉大な活動を行う人を応援します。
- 大切な人の笑顔を守るための「平和」について考え、活動します。
2017年には、その活動の公益性が認められ、内閣府所管の公益財団法人として認定されました。寄付や募金、多くの人々から寄せられる思いを「追い風」として、全国の被災地や支援の現場へと、その力を届けています。
「まだ力不足。でも、たどり着いた10年」さだまさしの本音
贈賞式で、さださんは自身が立ち上げた基金について、率直な気持ちを語りました。
基金が10周年を迎えたことについて、「まだ力不足のところが多々ある」と反省もにじませながら、「基金を創設してもう10年という思いと、まだ10年という思いがある」と複雑な胸中を明かしました。
設立当初については、「最初は本当にお金がなくて」と振り返りながら、資金も人手も十分とは言えない中で、支援を必要とする場所にできる限りの力を届けようとしてきた日々を、穏やかな表情で回想したと伝えられています。
それでも、さださんは諦めませんでした。コンサートやメディアを通じて基金の存在を伝え、少しずつ賛同者の輪を広げていきました。その積み重ねが、10年という一つの節目へとつながっていったのです。
「一番大事なのは心」お金以上に大切にしてきたもの
さださんが、被災地や支援の現場に向き合うとき、何より大事にしてきたのが「心」です。
これまで日本各地の被災地に足を運び、支援活動を続けてきた経験を振り返りながら、「一番大事なのは心です。心が折れてしまったら何も始まらない」と語りました。
支援というと、「どれだけお金を送れるか」「どれだけ物資を届けられるか」が注目されがちです。しかし、さださんは「お金だけじゃない。忘れないで、声をかけ続けることが大事」という思いを強く持ち続けてきました。
被災地では、時間が経つほどに報道も減り、世間の関心も薄れていきます。そのなかで、「自分たちは忘れられてしまったのではないか」と孤独を感じる人も少なくありません。だからこそ、さださんは、長い時間をかけてでも「忘れていません」「応援しています」と伝え続けることに、特別な意味を見いだしてきました。
支援ライブを開いたり、現地を訪ねて対話を重ねたり、あるいはメッセージを届けたり。そこに流れる根底の思いは、「あなたたちは一人ではない」という、ごくシンプルで温かい言葉です。
「応援していることを伝える」その声が支えになる
被災地支援について、さださんは「一番大事なのは心。応援していることを伝えるのが大事」とも語っています。これは、物理的な支援以上に、「心の支援」がどれほど人を支えるかを示す言葉です。
たとえば、遠く離れた場所からでも、
- 義援金を送る
- ボランティア団体を通して寄付をする
- 現地の特産品を買って応援する
- SNSなどで情報を共有し、関心を持ち続ける
といった形で、「気にかけているよ」「あなたのことを忘れていないよ」という思いを示すことができます。
さださんの言葉には、「自分は被災地に行けないから何もできない」と感じてしまう人に対して、「それでもできることはある」と静かに背中を押す力があります。大きなことをする必要はなく、小さな行動や気持ちの積み重ねが、誰かの支えになるのだ、と教えてくれています。
高校生ボランティア・アワード――未来を担う若い世代へのエール
風に立つライオン基金の活動の大きな柱の一つが、「高校生ボランティア・アワード」です。これは、全国各地でボランティアや社会貢献活動に取り組む高校生たちを招き、その活動を発表・交流する場として開かれている催しです。
2016年にスタートし、2025年には10回目という節目を迎えます。毎年8月に開催されるこの大会は、「誰かのために」という思いで地道な活動を続けている高校生たちをたたえ、同世代同士が互いの取り組みに刺激を受けながら学び合う、貴重な機会にもなっています。
さださんは、少子高齢化が進む中でも「高い志を持っている若者がたくさんいる」と語り、「未来を担う若者たちを、その熱い志を心から応援したい」とコメントしています。この大会を支えるため、基金はクラウドファンディングなども活用し、多くの高校生が安心して参加できるよう、交通費や会場費などの一部を支える取り組みも行っています。
若い世代の「誰かの役に立ちたい」という気持ちを後押しすることも、さださんにとっては、命や平和を守る大切な活動の一つです。
チャリティーグッズやコンサートで広がる支援の輪
風に立つライオン基金の活動は、コンサート会場でのチャリティーグッズ販売などを通じても支えられています。さださんのコンサートツアー「さだまさし コンサートツアー2025 生命の樹~Tree of Life~」では、東京・大阪・名古屋の会場で基金のオリジナルグッズが販売され、売り上げの一部が支援活動に役立てられています。
さらに、基金10周年記念グッズも用意されており、会場限定の「全部入りセット」なども販売されるなど、多くのファンが楽しみながら支援に参加できる工夫がされています。
「コンサートに行って音楽を楽しむ」ことが、そのまま「誰かの支えになる」ことにつながっていく――。さださんは、自身の音楽活動と基金の活動をうまく連動させながら、支援の輪をさらに広げようとしています。
「次のバトンを受け取ってくれる人を」支援の継続に込めた願い
10周年という節目を迎えたいま、さださんが強く口にしているのが、「次のバトンをもらってくれる人を探している」という言葉です。
自らが先頭に立って走り続けてきた10年。その先も、命や平和を守る活動が絶えることなく続いていくためには、自分だけではなく、志を受け継いでくれる人たちの存在が欠かせません。
風に立つライオン基金は、そもそも「一人一人の小さな思いが、たくさんの小さな命を支えられる」という信念から生まれた組織です。誰か一人の大きな力ではなく、多くの人が少しずつ関わることで、長く続く支援が可能になります。
さださんの「バトン」という言葉には、
- 災害が起きたときに、すぐに動ける人
- 福祉や医療の現場で、日々奮闘する人
- 海外で支援活動を続けるNGO・NPOの人々
- ボランティアを志す若い世代
- 寄付やグッズ購入などで支える市民一人ひとり
といった、さまざまな立場の「次の担い手」たちへの期待が込められています。
「忘れないこと」「声をかけ続けること」が、私たちにできる支援
災害大国とも言われる日本では、毎年のようにどこかで大きな被害が生まれます。そのたびに、多くの支援の輪が広がる一方で、時間がたつと報道が減り、記憶も薄れていってしまうという現実があります。
そうした中で、さだまさしさんは、「お金だけじゃない。忘れないで声をかけ続けることが大事」と繰り返し語っています。
私たち一人ひとりにできることは、決して大きくなくてもかまいません。
- 被災地のニュースを意識して追い続けること
- 現地の物産や観光を通じて、長い目で支えること
- ボランティア団体や基金の取り組みを知り、必要に応じて参加すること
- 周りの人と、災害や支援について話題にすること
そうした一つひとつが、「忘れない」という意思表示になり、被災地や支援現場で頑張る人たちにとっての「心の支え」となります。
さださんが大切にしてきた「心」や「声」は、特別な誰かだけのものではなく、私たち誰もが持つことのできるものです。小さな思いや行動を重ねていくことこそが、「風に立つライオン基金」が掲げる“小さな志の集合体”の一員になる、ということなのかもしれません。
これからも続く「風に立つライオン」の歩み
10周年を迎えた風に立つライオン基金は、被災地支援、命と平和を守る人や団体への支援、高校生ボランティア・アワードの開催など、その活動の幅をさらに広げています。
さだまさしさんの「一番大事なのは心」という言葉は、これから先の支援の在り方にとっても、大きな指針になっていきそうです。お金や物資だけでは届かないものを、「忘れないこと」「応援していると伝えること」で支えていく――そんな優しい支援の形を、これからも問い続けていくのでしょう。
私たち一人ひとりの日常の中にも、「誰かを思う心」をそっと置いておくことができます。その心が集まる場所として、「風に立つライオン基金」は、これからも静かに、しかし力強く歩み続けていきます。


