障害者雇用を「当事者」が語る 徳島市で講演会 ――現場から見える働くことの今

徳島市で、障害のある人の「働くこと」に焦点を当てた講演会が開かれました。
企業や行政の担当者が語る機会はこれまでもありましたが、今回は実際に働いている障害当事者が、自らの経験を語ることが大きな特徴です。
会場には、企業の人事担当者、福祉関係者、学生、一般市民など、幅広い立場の人たちが集まり、障害者雇用の「今」と「これから」について、真剣に耳を傾けました。

徳島市が掲げる「誰もが自分らしく暮らせる共生社会」

徳島市は、障害の有無にかかわらず、互いの人格と個性を尊重し合いながら暮らせる共生社会の実現を目標に、さまざまな取り組みを進めてきました。
毎年12月3日〜9日の「障害者週間」に合わせ、障害者福祉への理解を深めてもらうための啓発イベントや講演会も行われています。徳島市の講演会では、落語家・桂こけ枝さんを招いた「こけ枝のほのぼの福祉噺」など、楽しみながら学べる企画も続けられてきました。
こうした流れの中で、今回は「障害者雇用」をテーマに、当事者が自らの経験を語る場が設けられました。

講演会の企画に携わった担当者は、「制度や数字だけでは伝わりにくい、働く人の本音や喜び、不安を、当事者の言葉で知ってもらいたい」との思いを語りました。参加者に、障害者雇用をより身近な問題として捉えてほしいという願いが込められています。

当事者が語る「働くまで」と「働き続けること」のリアル

講演会では、複数の障害当事者が登壇し、それぞれの仕事や生活について話しました。
身体障害、発達障害、精神障害など、障害の種類や働き方はさまざまでしたが、共通して語られたのは、「働くことは生活のためだけでなく、社会とつながる大切な機会」だという思いでした。

ある登壇者は、就職活動の時期を振り返り、「障害があることをどう伝えるか、とても悩んだ」と打ち明けました。合理的配慮を求めるには、勇気を持って自分の状態を説明する必要がありますが、「話したことで落とされるのではないか」という不安が常につきまとったといいます。
一方で、「理解のある企業に出会えたことで、いま安心して働けている」とも話し、企業側の理解と柔軟な対応があれば、障害があっても十分に力を発揮できることを強調しました。

また、働き始めてからの苦労として、「体調の波」や「コミュニケーションの難しさ」が挙げられました。
・疲れやすく、フルタイム勤務が難しい日があること
・集中しづらい時間帯があること
・大勢の会議が続くと、情報が一度に入りすぎて混乱してしまうこと
こうした特性について、職場と相談しながら、勤務時間の調整や業務内容の工夫を行っている事例が紹介されました。

「配慮」と「特別扱い」は違う――当事者からのメッセージ

印象的だったのは、登壇者の一人が語った、「配慮は特別扱いではない」という言葉です。
「障害があるからといって、何でも甘やかしてほしいわけではありません。ただ、少しやり方を変えてもらえれば、同じように成果を出せる仕事もたくさんあります」と話し、会場はうなずきに包まれました。

例えば、口頭での指示を、簡単なメモにしてもらう会議資料を事前にメールで送ってもらう繁忙期には休憩を取りやすくするといった、小さな工夫が働きやすさを大きく変えることが紹介されました。
当事者の一人は、「周りの人たちに少しだけ気を配ってもらえると、『一人の社員として認められている』と感じられる」と話し、職場の雰囲気づくりの大切さに触れました。

企業側が抱える不安と、その乗り越え方

会場には、障害者雇用に関心はあるものの、「どう対応していいかわからない」「トラブルが起きたら不安」と感じている企業の担当者も多く参加していました。
質疑応答の時間には、「面接のとき、どこまで聞いてよいのか」「どんな仕事ならお願いしやすいのか」といった具体的な質問が次々と寄せられました。

登壇した当事者や支援者は、「わからないことは、率直に本人に聞いてほしい」と口をそろえました。
「どこまで話すかは本人が決めます。『困ったときはどうしたらいいですか?』『どんなサポートがあると仕事がしやすいですか?』と聞いてもらえると、かえって安心して話せます」という言葉に、多くの参加者がメモを取りながら耳を傾けていました。

また、徳島県内では、障害者の就労を支えるための相談窓口や就労支援機関も整備されています。
行政や支援団体による面接会や講座、セミナーなども行われており、企業側が一人で悩まず、専門機関と連携しながら雇用を進める環境が少しずつ広がっています。

徳島で広がる「学びの場」――講演会やセミナーの動き

徳島では、障害者福祉や雇用をテーマにした講演会やセミナーが、行政や支援機関、企業などさまざまな主体によって開催されています。
徳島市の障害者福祉啓発イベントでは、福祉を身近に感じてもらう工夫として、落語家・桂こけ枝さんを招いた講演会が開かれ、ユーモアを交えながら障害への理解を深める内容が好評を博しました。

また、徳島県や関連機関は、発達障害に関する講演会や、障害福祉分野の人材確保をテーマにした講座なども行っています。
高齢者雇用や求職者支援をテーマにしたセミナーでは、年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが活躍できる職場づくりの事例が紹介されるなど、「多様な人が働ける社会」への取り組みが広がっています。

こうした継続的な学びの場があることで、企業や市民が障害者雇用について知る機会が増え、当事者も自分の経験を発信しやすくなる環境が生まれています。

会場から聞こえた声――「話を聞いて、イメージが変わった」

講演会終了後、参加者の多くが「当事者の声を直接聞いたことで、障害者雇用のイメージが変わった」と感想を語りました。
企業の担当者からは、「制度の説明だけではわからなかった、日々の職場での工夫やコミュニケーションの大切さがよくわかった」「今まで『難しそう』と身構えていたが、『一緒にやり方を考えればいい』という視点を持てた」という声が聞かれました。

一方、学生や一般市民からは、「障害のある人が、悩みながらも前向きに働いている姿に勇気をもらった」「『かわいそうな人』ではなく、『同じ社会で生きる一人の働き手』として見る視点の大切さに気づいた」といった感想が寄せられました。

登壇した当事者の一人は、「自分の経験を話すことで、少しでも働きやすい職場が増えるならうれしい」と語り、「『障害者だから』ではなく、『その人らしさ』を見てもらえる社会になってほしい」と締めくくりました。

「誰もが働きやすい職場」は、すべての人の安心につながる

今回の講演会で繰り返し語られたのは、障害のある人にとって働きやすい職場は、結果的にすべての人にとっても働きやすい職場になるという視点です。
わかりやすい指示、柔軟な勤務形態、相談しやすい雰囲気――こうした工夫は、子育て中の人や介護を担う人、病気を抱えながら働く人など、さまざまな事情を持つ人にとっても、大きな支えになります。

徳島市をはじめとする自治体や支援機関は、今後も講演会やセミナー、相談窓口などを通じて、障害者雇用に関する理解と実践を広げていく方針です。
当事者の声を聞き、企業や市民がそれぞれの立場で「自分にできる一歩」を考えることが、共生社会への確かな前進につながっていきます。

今回の徳島市での講演会は、その一歩を後押しする、静かですが力強いきっかけとなりました。
障害があってもなくても、一人ひとりが尊重され、自分らしく働ける社会を目指して――徳島からの取り組みは、これからも続いていきます。

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