結核のいま:「若い外国出生者」の増加、二極化する令和の患者像、高齢者に潜む“隠れ結核”

2025年現在、日本はすでに結核「低まん延国」と呼ばれる水準(罹患率10以下)を継続しており、人口10万人あたりの罹患率は8.1、2024年の新規結核患者数は10,051人となっています。一見落ち着いているようにも見えますが、今、結核の現場では新たな課題が浮かび上がっています。それは「若い外国出生者の結核増加」、そして「高齢者の隠れ結核」という、まったく異なるふたつの顔――患者像の二極化です。さらに、疾患の認知や医療現場の対応にも新しいアプローチが求められています。

若い外国出生者に結核が急増中――統計が物語る新たな主役

近年、結核患者のなかでも「20代を中心とした若い外国出生者」に顕著な増加が認められています。2024年の時点で、20歳代結核患者のうち約90%は外国出生者であり、日本全体の結核患者に占める外国出生者の割合も、2000年の2.1%から2024年には約20%にまで増加しました

  • 海外から仕事や留学のために来日した若年層の間で発症例が増えています。
  • 特にフィリピン、ベトナム、ネパールなど、高まん延国からの来日が多いことも背景の一つです。
  • 2024年には外国出生の新規結核患者数が1,980人に達し、20~29歳ではその90%が外国出生者という統計結果が出ています

政府も流入増加への対策として、フィリピン・ベトナム・ネパール等の中長期滞在者を対象に、2024年度から「入国前スクリーニング」を導入しました。これは来日前に結核の有無を確認し、罹患があれば治療を済ませてから入国する制度です。しかし、入国後数年で発症するケースも相次いでおり、健診や健康管理の徹底が重要とされています

なぜ若い外国出生者の結核が増えているのか?

下記の背景が指摘されています。

  • 母国の「高まん延」状況: 出身国で若年時にすでに感染し、発症前に日本に来る。生活・労働環境の変化やストレスで発症しやすい。
  • 日本の出生率低下: 国内出生の若年層が減少し、相対的に外国出生者の割合が上昇している。
  • 健康診断受診の機会減少: 外国出生者は日本人よりも定期健康診断を受けにくい傾向があり、発見が遅れやすい。

日本全体として結核患者自体は減少傾向ですが、若年・外国出生者への拡大が今後も続くとみられ、感染拡大防止のためには職場健診や学校健診など、外国出生者を含めた健診体制の拡充が求められています

「高齢者の結核」も根深い――二極化する令和の患者像

もうひとつの大きな特徴が、高齢者層への集中です。2024年に新たに登録された結核患者のうち、65歳以上は6,468人で、全体の64%を占めます。うち、80歳以上は4,295人と過半数に迫る割合です。平均年齢は66.9歳(中央値76歳)であり、結核は「高齢者の病」ともいえる状況です。

  • 現在の高齢者は、「日本がまだ結核高蔓延国だった時代」に一度結核菌に曝露し、時間が経った現在、加齢や抵抗力の低下によって発症するパターンが多い。
  • いわゆる「再活性型結核」とも呼ばれています。

高齢者の罹患率は減少ペースが鈍化しており、医療・介護現場での注意喚起も続いています。今後高齢化社会がさらに進むことで、医療・福祉との連携もますます重要となりそうです

見逃されやすい「隠れ結核」とは――心不全や肺炎に紛れる危険

高齢者の結核は、しばしば典型的な症状が現れにくく、「隠れ結核」の形で発見が遅れがちです。特に心不全や誤嚥性肺炎といった高齢者に多い疾患に紛れ、医療現場で見落とされやすいことが問題視されています。

  • 発熱や痰、咳などの結核の典型症状が出にくく、「全身倦怠感」「食欲低下」など曖昧な症状にとどまることも多い。
  • 心不全や誤嚥性肺炎と考えられている症例の中に、実は結核が隠れている場合がある。
  • 誤診・発見遅延により、重度化・院内感染などのリスクが高まる。

病院や施設では、「経過が長引く肺炎」「治療でなかなか改善しない症状」の背景に結核が隠れていないか、適切な検査を実施することが改めて求められています。

地域格差と社会的背景――都市部に多い患者、増える多国籍化

地理的には大阪府(罹患率12.8)が全国で突出して高く、大阪市西成区・あいりん地区など、社会経済的弱者が集まりやすいエリアで患者数が多い傾向がみられます。対策を強化しているものの、地域差は依然として残っています。

また、外国出生患者の出身国も多様化が進んでおり、アジア各国のみならず、アフリカや南米からの患者もみられるようになっています。この多国籍化への対応も今後の課題です

対策の最前線:「早期発見」と「多文化対応」がカギ

国や自治体、医療現場では、結核の早期発見のための健診、啓発活動が引き続き進められています。

  • 企業や学校での定期健康診断の徹底(感染症法に基づき義務化)
  • 外国出生者・高齢者への重点的な注意喚起
  • 地域コミュニティや支援団体と連携した情報発信とサポート
  • 多言語・多文化に配慮した医療アクセスや相談体制の整備
  • 医師・医療従事者への教育(高齢者の非典型例に備える)

結核は今も決して過去の病気ではありません。「発熱や咳が長引く」「どうも体調が優れない」「高齢者で原因不明の全身衰弱」など、思い当たる場合は早めの受診につなげることが大切です。若い世代・外国出生者にも、結核の知識と訪問診療や健診の利用促進が不可欠です。

まとめ:身近な感染症を「自分ごと」として――一人ひとりにできること

結核は今も日本の身近な感染症の一つです。若い外国出生者、高齢者、それぞれの世代・背景・生活環境にあわせた対策が強く求められています。もし身近に結核の可能性や心配がある方がいれば、医療機関への早めの相談や地域保健所へのお問い合わせをおすすめします。

ひとりひとりが正しい知識と関心を持ち、偏見や差別をなくしながら、結核を「自分ごと」として考え、共に予防に取り組んでいきましょう。

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