京都・嵐山の新たなごみ対策「食べられるスプーン」が話題に 観光客と地域が一緒に取り組む環境保全
古都京都を代表する観光地の一つである嵐山は、その美しい景観で知られている一方、増加する観光客による食べ歩きのごみが深刻な課題となっていました。竹林の小径や渡月橋周辺では、ポイ捨てされたアイスクリームの棒や串料理の容器など、散乱したごみが目立つようになっていたのです。こうした状況を受け、京都市と嵐山地域の関係者が一丸となって新しいごみ対策に乗り出しました。その象徴が、今月から試験導入されている「食べられるスプーン」です。
もなかでできた「食べられるスプーン」とは
嵐山商店街が中心となって展開している「食べられるスプーン」は、もなかなどの食材を素材として作られた、そのまま食べられるスプーンです。アイスクリームやかき氷などを購入した観光客がこのスプーンを使うことで、使用後に捨てるべきスプーンがなくなり、自動的にごみが減量される仕組みになっています。
この取り組みのポイントは、観光客に無理な負担を強いるのではなく、「楽しく、美味しく」ごみ減量に参加してもらえるという点です。スプーンを食べ終わることで、環境保全への貢献と美味しさという二つの満足感を得られるため、観光客からも前向きな反応が得られています。嵐山商店街の複数店舗で配布されており、11月中の試験期間中、多くの訪問客がこの新しい試みに協力しています。
串のポイ捨て防止へ専用容器も導入
ごみ対策はスプーンだけにとどまりません。嵐山を訪れる観光客に人気の串料理のテイクアウトに伴う串のポイ捨てが、特に問題となっていました。串は先端が鋭く危険であることに加え、ごみ箱の中でごみ袋を傷つけるなど、地域のごみ回収作業の安全性を脅かしていたのです。
こうした課題を解決するために、京都市は竹林の小径や長辻通のスマートごみ箱に、串専用のごみ容器を試験設置しました。観光客が串をポイ捨てするのではなく、この専用容器に正しく捨てられるようにすることで、ポイ捨て防止と安全性向上の両立を目指しています。伏見稲荷・稲荷児童公園の街頭ごみ容器にも同様の専用容器が試験設置され、複数の地域でこの取り組みが展開されています。
買ったお店で返却 「ハートバック制度」の展開
さらに嵐山商店街では、テイクアウト商品を販売する店舗でのみごみを捨てるという「ごみは買ったお店で必ず捨てる」というルールを守ってもらうための「ハートバック制度」を実施しています。この制度に協力した観光客には、手作りされたオリジナルの「御守」が記念品として贈られます。
昨年11月に初めて実施されたこの制度は、観光客から高い評価を得ました。今年は記念品の種類をさらに充実させて実施されており、11月中の試験期間を通じて、地域ルールの定着と観光客の環境意識の向上に貢献しています。
地域全体で実施される多角的なアプローチ
嵐山地域のごみ対策は、単一の施策ではなく、複数の取り組みが組み合わされた総合的なものです。毎日15時に地域自作のテーマソングを流しながら、嵐山商店街の各店舗が店周辺の清掃活動を行う「クリーンタイム」が実施されています。昨年の初開催時には多くの観光客も参加し、好評だったため、今年は音響機器を整備してテーマソングを商店街全体で流すなど、より充実した形で開催されています。
また、嵐山地域のキャラクター「侍秀太郎」が、ごみのポイ捨て禁止や持ち帰りについて啓発活動を行っています。今年は嵐山地域のオリジナルデザインの手ぬぐいを用いたパフォーマンスなども予定されており、観光客に親しみやすい形でのマナー啓発が進められています。
祇園地域でも新しい試みが展開
嵐山だけでなく、祇園地域でもごみ対策が強化されています。祇園商店街では、11月1日からいずれの店舗のごみでも捨てることができる共通ごみ箱を20店舗以上に設置する取り組みを本格化させました。これまでの試行実施期間を経て、正式運用に移行したもので、ポイ捨て防止に効果を発揮しています。
さらに11月中は、祇園地域に設置されているスマートごみ箱の収集回数を、通常の1日2回(朝・昼)から3回(朝・昼・夕)に増やす対応も実施されています。より快適な街歩き環境を整備することで、観光客のごみ投棄行動を適切に誘導しようとする工夫です。
「ポイ捨てをしたい訳ではない」 観光客のニーズに応える
今回のごみ対策の背景にあるのは、観光客に対する重要な気づきです。京都市と地域関係者は、観光客の多くは元々ポイ捨てをしたいわけではなく、むしろ環境への配慮を望んでいることに気付きました。問題は、適切にごみを捨てるための環境や仕組みが不足していることにあったのです。
「食べられるスプーン」や串専用容器、共通ごみ箱の設置といった施策は、こうした観光客のニーズに応える形で設計されています。観光客が自然と環境配慮できる仕組みを作ることで、強制的なマナー啓発ではなく、観光客自身がごみ減量に主体的に参加できる環境を実現しようとしているのです。
全市的な連携体制の構築
これらのごみ対策は、単なる一時的な試験導入ではなく、京都市全体のアプローチの一部です。市は、テイクアウト商品を販売する事業者に対して、店舗でのごみ箱設置、店周辺の清掃、客のごみの受取などを要請し、事業者側からのごみ減量への協力も促進しています。
さらに、地域・事業者・行政の三者が連携する枠組みが構築されており、各主体が協力してごみ対策に取り組む体制が整備されています。この三層の連携は、持続可能なごみ対策を実現するための基盤となっています。
今月いっぱい続く試験期間
「食べられるスプーン」を始めとした新たなごみ対策は、11月中の試験期間として実施されています。在庫がなくなり次第終了となるため、これらの施策に参加したいと考えている観光客は、できるだけ早い時期の訪問がお勧めです。
試験期間での反応や効果を踏まえて、これらの施策が今後どのような形で継続・拡大されるかが注目されます。嵐山地域の観光客ごみ対策の新しい試みは、他の観光地でも参考にできるモデルとして、日本全国の注目を集めています。
京都観光の新しいマナー文化へ
京都は年間を通じて多くの観光客で賑わう日本を代表する観光地です。その美しさを保ち続けるためには、観光客と地域が共に環境保全に取り組む姿勢が不可欠です。「食べられるスプーン」といったユニークな施策は、観光地としての京都が、単なるごみ削減だけでなく、観光客の満足度と環境配慮を両立させるための創意工夫を示すものとなっています。
この秋の京都観光シーズンにおける嵐山の新しいごみ対策は、美しい古都を守るための「おもてなしの心」の表現であり、観光客とのよりよい関係構築を目指した一つの挑戦といえるでしょう。




