世界的登山家・野口健さんと考える「釧路湿原とメガソーラー問題」~自然と人の共生をめざして~
はじめに
北海道・釧路湿原――この日本最大の湿原は、多様な動植物が息づく貴重な自然環境を今も守り続けています。しかし近年、この釧路湿原の周辺で進む大規模なメガソーラー(太陽光発電所)建設が、地域の人々や自然保護団体を中心に大きな懸念を呼んでいます。
2025年10月23日、そんな釧路市で、世界的なアルピニスト・野口健さんによるトークショーが盛況のうちに開催されました。今回の記事では、このイベントの内容を中心に、釧路地域が抱えるメガソーラー問題、その背景、そして人と自然の共生についてやさしく解説します。
イベント概要~「釧路湿原の危機」に立ち向かう想い
野口健さんのトークショーは、釧路市生涯学習センター(まなぼっと幣舞)で行われ、200名近い市民が来場。ゲストには、猛禽類医学研究所代表で自然保護活動でも著名な斎藤慶輔さんも登壇し、地域の自然とエネルギーのこれからを巡る熱い議論が繰り広げられました。
- 開催日時:2025年10月23日 18時30分~
- 場所:釧路市生涯学習センター まなぼっと幣舞
- 主なテーマ:「自然と人との共存」、「釧路湿原とメガソーラー」、「エネルギーの未来」
- 参加者:市民や自然保護団体、メディア関係者など
釧路湿原のメガソーラー建設に何が起きているのか
釧路湿原は貴重な動植物が暮らし、渡り鳥の中継地としても世界的に注目されています。しかし、ここ数年、外資系企業によるメガソーラー施設の建設計画が相次ぎ、自然への影響や地域経済のあり方が大きく問われるようになっています。
問題点の主なポイントは以下の通りです。
- 大規模開発による湿原の景観や生態系への影響
- 森林伐採や地形改変による動植物(特に猛禽類や希少種への影響)
- 外資系企業により地域資源が域外に流出する構図
- 経済効果や雇用が地域内で十分に循環しにくい
- 地域住民への事前説明や合意形成の不足
野口健さんはイベントで、こうした自然損失の現実に強い危機感を持っていることを明言。「この素晴らしい釧路湿原の価値を守る社会的責任は、どんな企業にも等しくある」と会場に語りかけました。
トークショー 詳細レポート
トークショー冒頭、野口健さんは自身のヒマラヤなどでの自然体験をもとに、「地球の貴重な自然を守って次世代に渡すことの大切さ」を丁寧に語りました。そして、目の前の問題となった釧路湿原の現状について次のように述べました。
「釧路湿原の自然環境がこれほどすばらしいと知ったとき、その役割は単なる経済活動以上のものだと思い知った。湿原というものは、一度壊してしまえば元通りには戻らない。個人的にも、なんとかこれを止めたいという想いが非常に強い」
また、斎藤慶輔さんは湿原の希少な猛禽類や生態系への直接的な影響について科学的な視点から説明。「自然を破壊して得る一時的な利益は、地域と日本全体にとって本当に望ましいことなのか」という問いを市民とともに考えました。
釧路市民の声とエネルギー問題
トークショーでは、メガソーラー問題をきっかけに市民からも多くの意見や質問が寄せられました。
- 「再生可能エネルギーは重要だと思うが、建設場所や方法をもっと慎重に考える必要がある」
- 「釧路の誇りである自然が失われることを、本当に経済効果だけで許してよいのか」
- 「企業のモラル、行政の責任にも注目したい」
こうした意見に対し、登壇者たちは「経済活動と自然保護のバランスを探ることが地方都市の真の持続可能性につながる」とし、エネルギーの地産地消、事業の透明性、公的なモニタリング体制の重要性なども具体的に議論されました。
外資系企業と「儲かるカラクリ」問題
なぜ「外資系」メガソーラー企業が釧路に目を向けるのでしょうか?その背景には、国の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)による高額な電力買い取りや、土地コストの安さ、環境アセスメント(審査)の簡略化など複数の要素があります。
- 初期投資後は地域に雇用や利益が残りにくいビジネスモデル
- 配当や売電収益が海外に流出、地域に経済的恩恵が及びにくい
- 地方自治体への納税額や還元率の低さが課題視されている
この「からくり」についても市民や有識者から厳しい声が上がりはじめているのが現状です。トークショーでは、参加者から「釧路の地域資源を外資に売り渡してよいのか」といった質問が多く投げかけられ、地域の主体性と自治のあり方が強く問われていました。
自然と人の共存に向けて~未来へのメッセージ
野口健さんや斎藤慶輔さんは「釧路の豊かな自然は、北海道全体、日本全体にとってかけがえのない財産。これを守るのは、ここで暮らす人たちだけでなく、私たち皆の責任だ」と強調しました。「エネルギーの自立も必要だが、まずは“なぜこの場所なのか”“失われるものの価値は何か”を立ち止まって考えてから判断してほしい」と会場の全員にメッセージを送りました。
また、「経済発展と自然の共生」は対立ではなく、地域に根ざした新しいモデルを作るチャンスだと前向きに呼びかけ、「住民の声、専門家の知見、行政のリーダーシップが一つになれば、必ず違う未来がつくれる」とトークを結びました。
おわりに
釧路湿原に今、地域の未来を左右する大きな選択が突き付けられています。多くの市民が課題を自分ごととして受け止め始めた今こそ、外部資本頼みではなく、地域の魅力を活かした持続可能な発展と自然保護の道を模索していくことが求められています。
そして、全国各地の自然資源を巡る問題にも共通して、「地域住民の声がきちんと反映される仕組み」「公平で明快な経済・環境の評価」が必要です。私たち一人ひとりの選択が、かけがえのない釧路湿原と、すべてのふるさとの未来を守る力となるはずです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。



