歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」――尾上右近が挑む前例なき”二刀流”、義経千本桜、新たな伝統の息吹

歌舞伎座と「錦秋十月大歌舞伎」開催背景

東京・歌舞伎座で2025年10月1日から21日まで開催されている「錦秋十月大歌舞伎」は、松竹創業130周年を飾る特別な公演です。今回上演されるのは、歌舞伎三大名作のひとつであり、多くの人々を魅了し続けてきた歴史絵巻「義経千本桜」。この演目は、悲劇の英雄・源義経を軸に、さまざまな忠臣や狐忠信といったキャラクターたちが活躍する壮大な物語として知られています。その魅力は時代を超えて輝き続け、観客たちに深い感動を与えてきました

話題の中心――尾上右近の”二刀流”挑戦

今回の最大の話題は、33歳にして歌舞伎俳優と清元(浄瑠璃の一流派)の両立、まさに”二刀流”に挑戦する尾上右近さんの存在です。 尾上右近さんは本公演で、三部制に編成された『義経千本桜』の第3部「吉野山」において、Aプロでは「清元栄寿太夫」として清元の立唄(物語を語り、踊り手を導く役割)、Bプロでは俳優として佐藤忠信=源九郎狐の大役をつとめるという、きわめて珍しい形態の登板が実現しています

清元太夫と歌舞伎俳優、唯一無二の循環を生きる

尾上右近さんは2018年に父が名乗っていた「清元栄寿太夫」を襲名し、これまで歌舞伎俳優として、また清元の語り手として両立しながら活動してきました。特に今年6月の「お祭り」では歌舞伎座で初めて清元の太夫として立唄に抜擢され、その実績をもって「義経千本桜」ではさらに存在感を発揮しています。右近さんは「自分の中の歴史の循環が歌舞伎の歴史と重なっていく実感がある。ベストを尽くしたい」と語り、舞台への熱い想いを述べています

配役と演出に宿る深い伝統と新風

「義経千本桜」は今回の公演でAプロとBプロの二通りの配役・演出が楽しめます。Aプロでは市川團子さんが佐藤忠信(=源九郎狐)を演じ、尾上右近さんが清元栄寿太夫として音楽と語りでサポートします。Bプロでは、その両者が役割を入れ替え、尾上右近さんが狐忠信を、團子さんが清元を担当する形となります。このような役替わりは、古典の様式美のなかに現代的な柔軟性や可能性を感じさせ、観客に新鮮な驚きを与えています

  • Aプロ:佐藤忠信(市川團子)、清元太夫(尾上右近)
  • Bプロ:佐藤忠信(尾上右近)、清元太夫(團子の父・清元延寿太夫)

このような伝統芸能のリレーを体現する姿勢は、歌舞伎が新たな時代に向けて柔軟に変化し続けている証です。世代を超えて受け継がれる表現、家族や同門で重ねられる歴史が、この舞台上でも息づいています

特別ビジュアル公開:「義経千本桜」の世界観を体感

本公演に先立ち公開された「義経千本桜」の特別ビジュアルも話題です。満開の桜とともに描かれた舞台上の静御前・佐藤忠信(狐忠信)の姿は、歴史ロマンの息吹そして華やかな舞台美術を象徴しています。「吉野山」の場面はとくに舞踊劇として名高く、義経の愛妾である静御前と忠臣・佐藤忠信のドラマが桜の下に展開されます。その華やかな世界観は歌舞伎の豪奢で詩的な美しさを堪能できる場面であり、ビジュアルも多くの観客の関心を集めています

中村隼人さんの語る歌舞伎座への想い

今回の関連ニュースでは俳優・中村隼人さんのインタビューも伝えられています。中村隼人さんは「周りの皆さんに支えていただいてこそ、いまの自分がある」と語っています。歌舞伎という伝統芸能は、個人の力だけで成立するものではなく、演出家、裏方、家族、師匠、そして観客といった多くの人々のサポートによって豊かな世界が広がることを、現場の声として伝えてくれています。隼人さんが語る謙虚な姿勢は、長い歴史のなかで息づいてきた歌舞伎の精神そのものを体現しているといえるでしょう。

観る人に贈る、伝統と革新の舞台

2025年10月の歌舞伎座は、伝統芸能の最前線で挑戦し続ける若き名優たちの活躍、そして演劇芸術としての歌舞伎の持つ可能性にあふれる空間となっています。
観客はAプロ・Bプロを通じて、全く異なる顔をもつ「義経千本桜」を堪能でき、また尾上右近さんの”二刀流”という快挙をしかとこの目で見届けることができます。歌舞伎ファンはもちろん、初めて歌舞伎を体験する人々も、華やかな舞台、重厚な語り、美しい音楽に引き込まれることでしょう

  • 日本伝統の物語と美の粋を体験できる「義経千本桜」
  • 若き実力派俳優たちによる新たな息吹の舞台
  • 二刀流・尾上右近の活躍、観客を魅了する圧巻のパフォーマンス

まとめ

「錦秋十月大歌舞伎」は、伝統と革新が交差する、現代歌舞伎の先端を感じられるまたとない機会です。尾上右近さんらが見せる挑戦と共演者たちの熱演、そして観客とともに創り上げる舞台芸術の醍醐味を、ぜひご自身で体感してみてください。

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