スティーブン・スピルバーグと『E.T.』――43年経っても色褪せない名作の魅力と今
はじめに―なぜ今『E.T.』が話題なのか
スティーブン・スピルバーグ監督による不朽の名作『E.T.』が、公開から43年を経てもなお世界中から愛され続けています。2025年10月10日には日本テレビの「金曜ロードショー」で特別放送が決定し、当時のファンはもちろん、新しい世代にも改めてその感動が届けられることとなりました。この記事では、公開当時の背景や社会現象となった影響、スピルバーグ監督自身の思い、そして今54歳となったエリオット少年(演:ヘンリー・トーマス)の現在にも触れつつ、『E.T.』がなぜここまで語り継がれる作品となったのかを、やさしい筆致で読み解いていきます。
スピルバーグ監督の少年時代と『E.T.』の誕生
『E.T.』は単なるSF映画やファンタジー作品としてだけでなく、スティーブン・スピルバーグ監督自身の子供時代の経験や思い出が色濃く投影されたパーソナルな作品です。スピルバーグ監督は両親の離婚を経験し、孤独と向き合う中で空想上の友人を心のよりどころにしていたといいます。この体験が、地球で孤独に過ごすエリオット少年と、そこに現れた異星人E.T.の「奇跡の出会い」を通じて、友情や家族、成長の物語へと形を変えました。脚本は元「ピープル」誌の記者、メリッサ・マシソンが担当し、スピルバーグ監督が『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の撮影中に語ったアイデアを元に、温かくも切ない物語が紡がれました。
『E.T.』のストーリーと革新的な映画表現
物語は、地球で偶然出会った孤独な少年エリオットと、地球探査中に取り残されてしまった異星人E.T.が通じ合いながら心を通わせ、「本当の家族」や「大切な友だち」について気づいていく過程を描きます。物語の根底には、誰もが心の奥底で持つ「孤独」への共感や、「理解し合いたい」と願う温かな気持ちが流れています。
技術面でも『E.T.』は当時としては画期的でした。CGが普及していなかった1980年代、E.T.のリアルな動きや愛らしさは、アニマトロニクスという機械仕掛けの特殊効果技術を使って創り出されました。このクリーチャーデザインを手がけたのはカルロ・ランバルディ。アナログ技術の粋と子供たちの自然な演技が融合し、観客はE.T.を生きた存在として感情移入できました。
社会現象となった『E.T.』―宇宙人像を変えた衝撃
映画は1982年に公開されるや否や、全世界で7億9730万ドル以上という当時の歴代1位となる興行収入を記録し、公開から約1年間に渡ってブームが続きました。特筆すべきは、それまで「宇宙人」と言えば“地球侵略”の怖い存在というイメージが強かったのを、『E.T.』が「友だちになれる地球外生命体」と捉え直すきっかけを作ったことです。「E.T.」というワード自体が一般名詞化するほど社会に広がり、老若男女すべての人の心に新たな宇宙人像を定着させました。
音楽が運ぶ感動――ジョン・ウィリアムズの魔法
『E.T.』にはもうひとつの「主役」、それが映画音楽界の巨匠ジョン・ウィリアムズの壮大で美しいスコアです。エリオットやE.T.が自転車で月を横切って飛ぶ有名な場面はもちろん、友情や別れの瞬間に流れるメロディは、観る者の心を一層強く揺さぶります。映画は第55回アカデミー賞で作曲賞・音響効果賞を含む4部門を受賞し、ウィリアムズの音楽も後の映画史に残る名シーンを引き立てました。
「スター・ウォーズ」へのオマージュと映画史の中の『E.T.』
当時不動の人気を誇っていたスター・ウォーズシリーズを抜き、世界の映画興行収入No.1になった『E.T.』には、実はスター・ウォーズへのオマージュがこめられたシーンが複数存在します。エリオットがE.T.にスター・ウォーズのキャラクターのフィギュアを見せる遊びの場面や、仮装パーティでヨーダが登場する場面など、映画ファンには嬉しい遊び心が散りばめられています。一方で、ルーカスとスピルバーグの友情や、同時代の映画文化の融合・発展も感じられるポイントとして注目されています。
吹替と日本の放送文化――浪川大輔さんの起用秘話
1982年公開当時の日本語吹替では、エリオット役に当時12歳の浪川大輔さんが抜擢されました。スピルバーグ監督が自ら「この子なら」と指名したという逸話があり、少年の繊細な気持ちをそのまま反映した名演が話題になりました。今回の金曜ロードショーでも浪川さんがエリオットの声を担当し、日本のファンにとっては当時の記憶が鮮やかに蘇る機会となっています。
43年後の現在――54歳になった「エリオット少年」はどうしている?
『E.T.』でエリオットを演じたヘンリー・トーマスさんは、2025年現在54歳。映画完成時わずか10歳だった彼は驚くような自然体の演技で世界を魅了し、「子役スター」として瞬く間に有名になりました。その後も映画やテレビドラマで俳優としてのキャリアを築き続け、「ホーンテッドマンション」や「ドクター・スリープ」など多くの作品に出演しています。
エリオット役が人生に与えた影響について、ヘンリー・トーマスさんは「世界中から愛される作品に関われたことは幸せだ」と語り、今でもファンから「エリオット」と呼ばれます。一方で、子供時代の名残を残しつつ、大人の俳優として深みのある役柄にも挑戦、円熟味を増した姿が印象的です。物語の中でエリオットが成長していったように、俳優としての彼自身も「大人になった自分の物語」を感じさせてくれます。
43年目でも変わらないメッセージと日本の映画ファンへの贈り物
E.T.がエリオットと見つめ合う「I’ll be right here(ぼくはここにいるよ)」というセリフは、43年経った今も世界中の人の心に響き続けています。友情や家族、違いを超えて理解しあおうとする思いやり――それはいつの時代も失われてはいけない人間の根本的な感情です。
世界の映画史に燦然と輝く『E.T.』が、時を越え「金曜ロードショー」に帰ってくるこの機会は、世代を超えて語り合える、家族で感動を共有できる特別な夜を提供してくれるでしょう。いまだ見ぬ人も、久しぶりに観る人も、スピルバーグ監督のあたたかなまなざしと物語の力に、ぜひ改めて触れていただきたいと思います。
まとめ――なぜ『E.T.』とスピルバーグは不朽なのか
- スティーブン・スピルバーグの少年期の思いが物語に深い人間味・普遍性をもたらしている
- アナログ特撮・名優たちの生き生きした演技・ウィリアムズの音楽という映画ならではの表現
- SFやファンタジーとしてだけでなく、家族・友情・成長という誰もが共感できるテーマ
- エリオット少年役・ヘンリー・トーマスさんのその後も「人生は続く」ことを私たちに示している
- 日本語吹替、スター・ウォーズとのリンクなど日本や世界の映画文化全体に与えた影響も大きい
スティーブン・スピルバーグと『E.T.』が43年経っても色褪せない理由は、「誰もが孤独を知り、友情とつながりを求める」という普遍的なテーマを、時代を超えて温かく描き切ったからに他なりません。今夜の金曜ロードショーが、また新たな感動と出会いのきっかけとなりますように。