自衛隊観閲式、70年の伝統に終止符 コロナ禍から顕在化した人手不足と安全保障環境の変化

2025年7月30日、防衛省は毎年11月に実施してきた恒例の自衛隊「観閲式」について、今後は「我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変化しない限り、実施を行わない」と正式に発表しました。70年以上続いた伝統的な行事の中止は、自衛隊の運営と日本の安全保障を考えるうえで大きな転換点となります。

観閲式とは何か? その意義と役割

自衛隊観閲式は1950年代からほぼ毎年、政府の最高指揮官である内閣総理大臣や防衛大臣が現場に訪れ、陸・海・空の自衛隊部隊の訓練成果や装備状況を一堂に披露する式典です。国民に向けた自衛隊の実力展示と士気高揚の場として、また防衛体制を内外に示す重要な行事として位置付けられてきました。

なぜ突然中止? 背景にある「人手不足」と「安全保障環境」の深刻化

今回の観閲式中止の決断は、新型コロナウイルスの影響による無観客開催や式典の縮小が続き、準備や運営にかかる負担が大きくなったことがきっかけです。さらに、

  • 人員不足の深刻化:自衛隊員の採用難や定員割れが続き、観閲式の実施に必要な部隊の配置や準備を確保しにくい状況が続いています。
  • 複雑化する安全保障環境:中国の急速な軍事力増強、北朝鮮の度重なるミサイル発射、ロシアの軍事行動など、地域の緊張が高まる中で、常時厳戒態勢を維持せざるを得ず、観閲式のための準備に割く余裕が乏しくなっています。

防衛省はこれらを踏まえ、「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境が続く限り、観閲式を実施しない」と明言し、単なる一時的措置ではなく今後の恒久的な方針として示しました。

防衛省・中谷防衛大臣のコメント

8月1日に行われた記者会見で中谷防衛大臣は、今回の中止について「少数精鋭の態勢を維持しつつ、迅速かつ継続的に警戒監視に注力していくことが求められている」と説明しました。観閲式のような大規模イベント準備は、大きな人員と時間を必要とするため、日々の警戒活動に支障をきたす恐れがあるとの趣旨です。

また、これまでの観閲式は、訓練の披露を通じて自衛隊の存在感を示す「見せる式典」でもありましたが、防衛省は今後は映像配信や観覧を通じて情報発信を続けていく方針を示しています。

国民の反応と今後の展望

この決定に対しては、伝統行事の終了に寂しさや戸惑いを感じる声がある一方、防衛省の説明を理解し、今後の防衛体制の強化に期待する声も聞かれます。日本の安全保障環境がますます厳しくなる中で、より実務に即した体制整備が求められることは明白です。

今後は新しい形で自衛隊の姿を国民に伝える方法を模索しつつ、実働部隊の体制強化と迅速対応力の向上が重要課題となりそうです。

まとめ

  • 自衛隊観閲式は2025年より当面中止されることが、防衛省から正式発表された。
  • 新型コロナ禍による準備負担増加と自衛隊員の深刻な人手不足が中止の大きな要因。
  • 中国・北朝鮮・ロシアの動向を踏まえた厳格な安全保障環境のもと、観閲式準備に時間や人員を割けない事情がある。
  • 中谷防衛大臣は「警戒監視に注力するための苦渋の決断」と説明している。
  • 今後は映像配信などによる国民への情報発信に切り替えつつ、持続可能な防衛態勢を整備していく見通し。

70年超の歴史を持つ伝統的な自衛隊の観閲式の中止は、国内外の安全保障環境の変化と自衛隊運営の現実を反映する重大な決断といえます。今後の防衛政策の進展を注視する必要があります。

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