太陽系外からの旅人「アトラス彗星(3I/ATLAS)」、きょう地球に最接近 緑に輝く恒星間彗星の正体とは

太陽系の外からやってきた恒星間彗星「3I/ATLAS(アトラス彗星)」が、きょう地球に最接近しました。
とはいっても、その距離は約2億7000万キロメートル(約1.8天文単位)と、地球から太陽までの距離のほぼ2倍にあたる遠さで、地球に衝突する心配はまったくありません。

それでも、この彗星が大きな注目を集めているのは、「太陽系外から飛来した、3例目の恒星間天体」だからです。宇宙の深い闇からやってきて、二度と戻ってこないかもしれない“旅人”を、いま私たちは見送ろうとしています。

「3I/ATLAS」とは? ― 3番目の恒星間天体

3I/ATLASは、2025年7月1日に、南米チリにあるATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)の自動望遠鏡によって発見された彗星です。
発見当初は、太陽から約45億kmも離れた位置にあり、20等級という非常に暗い星のような姿で写っていました。

名前のうち「ATLAS」は、この観測プロジェクトの名称にちなんで付けられたものです。
また、先頭の「3I」は、3番目の恒星間(Interstellar)天体という意味で、太陽系外から飛来した天体であることを示します。

  • 1I/ʻオウムアムア:2017年に発見された最初の恒星間天体
  • 2I/ボリソフ:2019年に見つかった2番目の恒星間彗星
  • 3I/ATLAS:今回のアトラス彗星(3番目の恒星間天体)

このように、太陽系外から飛来する天体が見つかるのは、観測史上でもまだ3回目しかありません。そのため、3I/ATLASは世界中の天文学者にとって、非常に貴重な観測対象となっています。

いつ、どれくらい近づいたのか ― 地球最接近の距離とタイミング

3I/ATLASは2025年10月下旬に太陽へ最接近し、その後太陽系の内側を通過していきました。
そしてきょう12月19日、地球から約1.8天文単位(約2億6900万~2億7000万km)の距離まで近づき、最接近を迎えました。

この距離は、「地球から太陽までの約2倍」に相当し、地球に影響は一切ない安全な距離だと、NASAなどの機関も強調しています。

アストロアーツによると、太陽への最接近を終えたあと、12月19日15時ごろ(日本時間)に地球最接近のタイミングを迎えるとされています。
最接近のころがもっとも明るく見かけも大きくなるため、観測の「ベストシーズン」となりました。

どんな姿に見えるのか ― 緑に輝く尾を持つ彗星

3I/ATLASの特徴として、多くの観測報告で挙げられているのが、淡い緑色の輝きです。
ハワイ・マウナケア山頂のジェミニ北望遠鏡が11月下旬に捉えた画像でも、ほのかに緑がかったコマ(彗星の頭部)が確認されています。

アストロアーツの観測では、18日未明の時点で、アトラス彗星はしし座の方向にあり、星々の間をみるみる移動していく様子が撮影されました。
画像処理を施した写真には、彗星特有の淡い緑色の輝きと、極端に長くはないものの、はっきりとした存在感のある尾が写し出されています。

この緑色は、彗星のまわりに広がったガスが太陽光を受けて発光しているためだと考えられています。
現在の明るさは、おおよそ11〜12等級とされ、肉眼で見るのは難しいものの、適切な機材を使えば撮影を楽しむことができます。

どこに見える?観測の条件と方角

アトラス彗星(3I/ATLAS)は、しし座の領域を西に移動中で、主に未明から明け方の空で観測できる位置にあります。
ただし、明るさは11〜12等級、またはそれ以下になっており、双眼鏡や小型望遠鏡だけでは捉えにくいレベルです。

  • 観測に適した時間帯:深夜~明け方
  • 見える方角:しし座付近の空
  • 必要な機材:口径の大きめの望遠鏡+長時間露光ができるカメラなど

アストロアーツのスタッフは、天体撮影ソフトウェアを用いて彗星を自動追尾し、300秒露出で12枚の画像を撮影、処理を行うことで、その姿をとらえました。
一般の観測者にとってはハードルが高い対象ですが、天体写真家にとっては腕の見せどころといえる存在です。

「人工物ではないのか?」という議論と、その否定

宇宙から突然飛来し、太陽系をかすめて去っていく――。
そんなドラマチックな軌道を描く3I/ATLASについては、一部で「エイリアンの宇宙船ではないか」といった憶測も取り沙汰されました。

しかし、現在までのところ、天文学者たちは「自然な彗星である」という見解で一致しています。
観測データから、3I/ATLASは明確な双曲線軌道をとっており、太陽の重力圏を脱出するのに十分な速度(毎秒約30km、時速約21万km)で飛行していることがわかっています。

この運動や見た目の特徴は、これまでに知られている彗星とよく似ており、人工物を示すような不自然な加速や形状は確認されていません
また、3I/ATLASを対象とした電波観測についても、現時点で人工的な信号を示す証拠は報告されていません(公開情報の範囲内)。
こうした理由から、研究者たちは「自然起源の恒星間彗星」として3I/ATLASを位置づけています。

なぜ「恒星間天体」だとわかるのか

3I/ATLASが太陽系外から来たと判断される主な根拠は、その軌道と速度にあります。

  • 軌道が双曲線軌道になっていること
  • 太陽の重力を振り切るだけの脱出速度を持っていること(毎秒約30km)
  • 軌道をさかのぼると、太陽系の外側から飛び込んできたとみなせること

一般的な彗星は、太陽のまわりを楕円を描いて周回する楕円軌道をとります。
これに対して、3I/ATLASは一度通過したら戻ってこない双曲線軌道を描いており、まさに“片道切符”の旅人です。

このため、アストロアーツはコラムの中で、3I/ATLASを「70億年の孤独」を経てやってきた天体として紹介し、人類が再びこの天体を見るのは、恒星間宇宙船が実現したはるか未来かもしれないと述べています。

どれくらいの大きさ? ― 核のサイズと性質

3I/ATLASの核のサイズは、おおよそ直径0.6〜5.6kmと推定されています。
これは、これまでに観測されてきた彗星の核としては、比較的「しっかりした大きさ」を持つ部類に入ります。

ただし、地球にとってはきわめて遠く、直接的な脅威とはなりません。
その代わりに、私たちにとっては「別の恒星系で生まれた氷と塵のカプセル」を遠くから眺める、またとない機会となっています。

今後の軌道 ― 太陽系を去る“別れのとき”

3I/ATLASは、すでに太陽への最接近を終え、太陽系外へ向かう“帰り道”を進んでいます。
今後の運動は以下のように予測されています。

  • 2025年10月下旬:太陽最接近(近日点通過)
  • 2025年12月19日:地球から約1.8天文単位に最接近
  • 2026年3月中旬ごろ:木星の公転軌道の外側に到達

このあと3I/ATLASは、太陽の重力圏を完全に抜け出し、再び恒星間空間へと飛び去っていきます。
二度と太陽系に戻ってこないと考えられるため、今回の観測はまさに一度きりのチャンスです。

観測現場からの報告 ― 日本から見送るアトラス彗星

日本国内でも天文ファンや研究者が、3I/ATLASの観測に挑んでいます。
アストロアーツのスタッフは、地球最接近前日の12月18日未明に観測を行い、YouTubeでライブ配信しながら撮影を実施しました。

撮影には、彗星を自動追尾する新機能を備えた天体撮影ソフトウェアを用い、1枚あたり300秒の露出で複数枚を撮影し、それらを専用の画像処理ソフトでスタックして仕上げています。
その結果、星々の間をゆっくりと動きながら、淡い緑色に輝くアトラス彗星の姿がとらえられました。

観測者たちは、「尾は極端に長いわけではないが、存在感のある立派な彗星」「現代に生きる私たちに与えられた、貴重な恒星間天体との邂逅」といった印象を語っています。

私たちにとっての意味 ― 宇宙の“よそ者”が教えてくれること

3I/ATLASのような恒星間天体は、単に珍しいだけでなく、「私たちの太陽系以外の世界」を知る手がかりを与えてくれる存在でもあります。

  • 別の恒星系で形成された氷や塵の性質
  • 銀河の中でどのように天体が移動し、放り出されるのか
  • 太陽系外の惑星系の成り立ちや進化との関連

これらを知るために、天文学者たちは、わずかな光とスペクトルの情報から、3I/ATLASの化学組成表面の性質を探ろうとしています。
恒星間天体の観測が積み重なれば、「私たちの太陽系が宇宙の中でどれくらい特別なのか」「どれくらい“ありふれている”のか」といった問いにも、少しずつ答えが見えてくるかもしれません。

今回のアトラス彗星は、肉眼で楽しめるような大彗星ではありません。それでも、「70億年の孤独」を経て太陽系を訪れた、小さな旅人だと考えると、その淡い緑の光は、どこかロマンを感じさせるものがあります。

やがて3I/ATLASは、再び深い宇宙の闇の中へと消えていきます。
次に人類が、こうした恒星間天体を間近から観測できるのは、もしかすると、私たちが本当に恒星間宇宙船を手に入れた未来なのかもしれません。
いま私たちができるのは、この一度きりの通過を、できるだけ丁寧に記録し、宇宙の歴史の1ページとして刻みつけることです。

参考元