ノーベルウイーク真っ只中のストックホルム あす授賞式と晩さん会へ向けた準備が最終盤に

スウェーデンの首都ストックホルムは、今年も「ノーベルウイーク」と呼ばれる特別な一週間を迎え、街全体が祝祭ムードに包まれています。あす行われるノーベル賞授賞式と、その後に開かれる名物のノーベル賞晩さん会を前に、会場となるストックホルム市庁舎では最終準備が進み、受賞者たちも連日、講演や記念行事に追われています。

ノーベルウイークとは? ストックホルムが一年で最も華やぐ一週間

ノーベルウイークとは、ノーベル賞の正式な授賞式が行われる12月10日を中心に、ストックホルムで行われるさまざまな公式行事や関連イベントが続く約一週間の期間を指す言葉です。この間、受賞者たちは記者会見、大学での講演、学校訪問、公式レセプション、音楽ホールでのコンサートなど、多くのスケジュールをこなします。

ストックホルムの街は、冬の暗さのなかでイルミネーションが輝き、歴史的な建物や広場にノーベル賞関連の装飾が施されます。市内ではランニングイベントやコンサートなど一般市民向けのイベントも開かれ、老若男女がノーベル賞を祝う雰囲気に包まれています。

受賞者が続々ストックホルム入り 「ノーベル日記」で伝えられる現地の様子

日本からの受賞者も、すでにストックホルム・アーランダ空港に到着し、公式日程に入っています。大阪大学が発信する「ノーベル日記」では、特別栄誉教授の坂口志文さんが空港に降り立ち、ノーベル財団が用意した専用車で宿泊先となる老舗のグランドホテルへ向かう様子が伝えられています。

今年のストックホルムは、例年よりも少し暖かいとされ、到着時には小雨があがり、落ち着いた冬空が広がっていたということです。空港では、ノーベルウイーク期間中に受賞者に付き添うノーベルアタッシェたちが出迎え、滞在中の案内や日程管理をサポートしています。

ストックホルム市庁舎とは? ノーベル晩さん会の舞台となる歴史的建物

ノーベル賞の晩さん会が開かれるのは、ストックホルムを象徴する建物のひとつ、ストックホルム市庁舎です。レンガ造りの重厚な外観と、高さ約100メートルの塔で知られるこの市庁舎は、内部にいくつもの特徴的なホールを持ち、毎年のノーベル晩さん会の会場として世界中から注目を集めます。

晩さん会のメイン会場になるのは、青いタイルの壁が印象的な「青の間(ブルーホール)」と、金色のモザイクで飾られた「黄金の間」です。青の間では受賞者や王族、招待客が一堂に会してディナーを楽しみ、その後、黄金の間に移動してダンスパーティーが開かれます。この市庁舎は普段は一般公開もされており、ノーベル賞ゆかりの場所として観光客にも人気です。

市庁舎内部の“仕掛け” 晩さん会を支える工夫とは

ノーベル晩さん会では、世界各国から招かれたおよそ1300人ものゲストが一同に会します。そのため、市庁舎の内部では、限られた空間と動線を最大限に活かすためのさまざまな“仕掛け”や工夫が施されていることが、現地取材から伝えられています。

  • 席次とテーブル配置の工夫:長く美しいテーブル配置の裏では、給仕スタッフがスムーズに動けるよう動線が細かく計算され、ゲストごとの細かな席次表が準備されています。
  • 厨房との連携:地下や別フロアにある厨房から、一斉に温かい料理を提供するため、エレベーターやサービス用の階段が巧みに使われます。どのテーブルにも同じタイミングで料理が届くよう、精密なタイムテーブルが組まれます。
  • 照明と演出:青の間の照明は、料理の提供やスピーチ、音楽演奏と合わせて微妙に変化し、会場全体に一体感を生み出す演出も行われます。

こうした“見えない仕掛け”によって、テレビで見る華やかな晩さん会の舞台裏には、多くのスタッフと緻密な準備が支えになっていることがわかります。

ノーベル賞晩さん会の料理 キーワードは「SAKE」と日本食材

今年のノーベル賞晩さん会では、料理を担当するシェフコンビが、日ごろから日本の食材、とくに日本酒(SAKE)を積極的に取り入れていることが話題になっています。ノーベル晩さん会のメニューは授賞式当日まで原則非公開とされますが、例年、北欧の食材をベースにしながら、世界各国の食文化を意識した工夫が凝らされています。

普段から日本酒を料理に使い、出汁や発酵食品など日本の調理法にも親しんでいるシェフたちは、香りやうま味を大切にしたメニューづくりを行っているとされています。日本酒は、ソースの隠し味として用いたり、魚料理やデザートにも応用されたりと、幅広い可能性を持つ食材として注目されています。

日本からの受賞者がいる今年、晩さん会の料理やドリンクの場面で、どのような形でSAKEや日本の食文化が登場するのかにも関心が集まっています。日本酒は近年、ヨーロッパのレストランでもワインと並ぶ「食中酒」として評価が高まっており、ノーベル晩さん会という世界的な舞台でも、その存在感が一層強まりつつあります。

ストックホルム市内も祝祭ムード サンタ姿で走るイベントも

授賞式を前にしたストックホルム市内では、市民も参加できるさまざまなイベントが行われています。そのひとつが、子どもから大人、さらには犬までがサンタクロースの衣装を身につけて走るランニングイベントです。冬の寒さのなかで、赤い衣装の参加者たちが街を駆け抜ける姿は、ノーベルウイークを象徴する光景として報じられています。

今年は10年ぶりに日本人のダブル受賞となり、ストックホルムに滞在している北川進さんと坂口志文さんの活躍に、現地でも大きな注目が集まっています。サンタ姿の参加者たちから祝福を受ける場面もあり、日本とスウェーデン、そして世界が一体となってノーベル賞を祝っている様子が伝えられています。

受賞者たちの多忙な日々 講演・授業・コンサート出演

授賞式前の数日間、受賞者たちは連日、非常に忙しいスケジュールをこなしています。ストックホルム大学などでの記念講演では、受賞対象となった研究内容や今後の展望について、専門家だけでなく学生や一般市民に向けてわかりやすく語る機会が設けられています。

北川さんは、ストックホルム大学での講演で、新素材「MOF(Metal-Organic Framework)」の特徴と可能性について説明しました。多数の微細な穴に気体を吸着できる性質を持つMOFによって、「空気そのものが資源になりうる」という未来像を語り、「エア・ゴールド=空気が金と同じ価値を持つ時代」という印象的な表現で、その重要性を強調しました。

また、受賞者を称えるノーベル賞コンサートにも、日本人受賞者が出席し、世界的な演奏家による音楽を楽しんだ様子が報じられています。北川さんが「ファンタスティック」と感想を述べるなど、音楽を通じた祝福の場も、ノーベルウイークならではの時間です。

授賞式と晩さん会に向けた準備 服装選びからリハーサルまで

授賞式のための服装や、晩さん会でのエスコート、入場の順番なども、受賞者にとって重要な準備のひとつです。男性受賞者は燕尾服、女性受賞者はロングドレスなど、厳格なドレスコードが定められており、現地のテーラーでのフィッティングや、当日の動き方の確認も行われます。

授賞式当日は、ストックホルム市内のコンサートホールでの式典の後、場所を市庁舎に移して晩さん会が開かれます。移動時間や着席のタイミング、スピーチや乾杯の順番などが細かく決められているため、受賞者やその家族、関係者は事前の説明やリハーサルを通じて流れを確認します。

ノーベルウイークを通じて見えるもの 科学と社会、日本と世界

今年のノーベルウイークでは、日本人研究者の活躍に加え、家族や共同研究者、長年支えてきた仲間への感謝の言葉も数多く伝えられています。北川さんは「これまでの道のりは決して自分だけのものではない」と語り、坂口さんについても、研究を陰で支えてきた妻との二人三脚の歩みが紹介されています。

ストックホルムという一つの街に、世界中から研究者、学生、ジャーナリスト、市民が集まり、科学や文化について語り合うノーベルウイーク。そこでは、最先端の研究成果だけでなく、研究を支える人々の物語や、社会にとって科学が持つ意味が、さまざまな形で浮かび上がります。

あすの授賞式と晩さん会では、ストックホルム市庁舎の内部に施された“仕掛け”と、シェフたちが紡ぎ出す料理、そして世界の期待を集める受賞者たちが一堂に会します。日本ゆかりの食材であるSAKEがどのように食卓を彩るのか、そしてノーベルウイークのクライマックスがどのような感動を生み出すのか、世界中が見守っています。

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