末日聖徒イエス・キリスト教会、変化と多様性の時代へ――新会長就任と世界的動向

世界の宗教としての末日聖徒イエス・キリスト教会

末日聖徒イエス・キリスト教会(The Church of Jesus Christ of Latter-day Saints)、かつて「モルモン教会」とも呼ばれていたこの宗教は、アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティに本部を置き、2022年12月時点で全世界に1,700万人以上の会員を擁する大規模な信仰共同体です。アメリカでは670万人以上の会員数に達し、キリスト教の教派として第4位の規模を誇ります。2021年以降も拡大を続け、特にアフリカやアジア、南米を中心にその多様性と国際性を強めています。独自の宣教師制度によって、常時6万人を超える若者が世界中で奉仕しており、地域社会との関わりやボランティア活動にも積極的です

教会の指導体制と“預言者”の役割

教会の最高指導者は「預言者」と呼ばれる大管長であり、12使徒定員会と呼ばれる高位幹部たちとともに教会運営のあらゆる意思決定を担います。預言者は、信仰上の模範であると同時に全世界の教会組織を統括し、時代ごとの課題に指針を示します。近年では、創始者ジョセフ・スミスや2代目ブリガム・ヤングの時代と異なり、指導者自身が「完全ではない」ことや、時には誤りも自認する謙虚さを持つことが、公式な場でもたびたび強調されています。その姿勢は、会員が信仰と実生活をより柔軟に捉えるべきだという現代的な考え方とも一致しています

グローバル化と多様性――“知られざる多様な信徒”

新会長が就任する2025年、教会はかつてないほど多様化しているといわれます。かつてアメリカ西部を中心とした“家族宗教”という印象が先行していましたが、現在ではアフリカやアジア、ラテンアメリカなど、あらゆる地域に独自の文化と背景を持つ信徒が増えています。例えば、ナイジェリア・アバ神殿やジンバブエ・ハラレ神殿、ケニア・ナイロビ神殿など新興国への建設が相次ぎ、現地出身の指導者が神殿会長やメイトロン(女性指導者)として活躍しています

また、日本国内でも2025年には東京神殿・札幌神殿の新たな会長会が組織され、地域社会から選出された日本人指導者たちが信仰と奉仕にあたっています。会員一人ひとりの背景や人生経験が重視され、家族や地域との連携もより深まっています

総大会:預言者を悼み、新時代を迎える節目

毎年春と秋に開催される総大会(General Conference)は、世界中の信徒や指導者が一堂に会し、預言者や使徒たちのメッセージに耳を傾ける一大行事です。2025年10月の総大会では、前任の預言者(大管長)を悼みつつ、その業績を振り返る時間が設けられました。会員たちは指導者の死を深い悲しみとともに見送り、次なる預言者の指名と時代の移り変わりに大きな期待を寄せています

この総大会には、会員でない人々も招かれ、12使徒定員会などの幹部が司会進行を担当します。スピーチや音楽、世界各国からの報告を通じて、会員の結束と希望が語られました。家族や個人、地域教会の各単位でライブ中継を視聴し、信仰とコミュニティの重要性を再認識する機会となっています

変革の時代:「法」と「愛」が交わるところ――多様な課題への対応

時代の大きな変化とともに、教会も数多くの社会的課題に直面しています。とりわけ近年の注目点は、ジェンダーとセクシュアリティに関する姿勢の変遷です。例えば、第二副管長のダリン・H・オークスは、LGBTQ+を含む性的少数者との対話と包摂の重要性を強調するようになっています。教会の正式な教義や婚姻観は比較的保守的なままですが、近年はセクシュアル・マイノリティの権利と尊厳にも理解を深めようとする動きが目立ちます。

「法」と「愛」――教義や規範は必ずしも“時代に合わせてすぐには変わらない”ものですが、指導者たちは人間同士の尊重と支援のあり方を模索しています。会員のなかには自らが性的少数者であることをカミングアウトしつつ、信仰共同体にとどまる人も増えてきています。対話や相互理解の場が徐々に広がり、教会は変化の波の中でバランスを取ろうとしているのです。

日本における最近の人事――東京・札幌神殿会長会

日本でも2025年9月、新たな東京神殿会長会・札幌神殿会長会がそれぞれ編成されました。会長やメイトロン、補佐役には、地域社会で信頼を築いてきた日本人指導者が就任しています。

  • 工藤雅道 氏(東京神殿会長)は、企業キャリアを持ち信仰と実務を兼ね備えたリーダー。
  • 工藤あゆみ 氏(メイトロン)は教育現場の経験も活かし、女性会員のケアにも尽力。
  • 川根泰史 氏(東京会長補佐)は、英会話クラスから信仰に出会い、ALT会社勤務の経験豊富な信徒。

札幌神殿でも布陣が刷新され、各地で新しい信仰リーダーたちが教会運営や地域社会との懸け橋として活動を始めています。家族やボランティア、多様なキャリアの中から選ばれる背景は、教会の成熟と多層性を象徴しています

“多様性”と“包摂”を模索するグローバル教会へ

世界に“家族”と“信仰”のつながりを届けてきた末日聖徒イエス・キリスト教会ですが、現代は国境、文化、価値観を越えた多様性の時代にさしかかっています。かつてはアメリカ西部の一部信仰共同体というイメージが強かったものの、今やアフリカ・アジア・ポリネシアなど新興の活動拠点に新しい文化や価値が持ち込まれ、教会そのものが“世界宗教”への大きな一歩を歩んでいるのです。

教義や歴史の重厚さを守りつつ、各地域の事情を尊重し、差別や葛藤に向き合いながら変化を続ける末日聖徒イエス・キリスト教会。「愛とは何か」「共同体の役割とは何か」を問い続けるそのあり方は、これからも多様な人々の心の拠り所となっていくでしょう。社会の変化とともに、これまで以上に開かれた教会像が問われる時代の到来です。

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