本屋大賞作家・宮島未奈「成瀬あかり」シリーズ、ついに完結へ 最新刊『成瀬は都を駆け抜ける』がランキング首位に

2024年の本屋大賞を受賞し、一躍「令和を代表する青春小説」として注目を集めた作家・宮島未奈さん。そのデビュー作から続く「成瀬あかり」シリーズが、最新刊『成瀬は都を駆け抜ける』の発売でついに完結を迎えました。

シリーズ完結編となる本作は、発売直後から大きな反響を呼び、オリコンのBOOKランキング1位を獲得。さらに、シリーズ累計発行部数は200万部を突破し、文芸書のベストセラーランキングでも上位に食い込むなど、その勢いはとどまるところを知りません。

京都を舞台に、唯一無二の主人公が「都」を駆け抜ける

最新刊『成瀬は都を駆け抜ける』の舞台となるのは、千年の都・京都です。

これまで滋賀県・大津の膳所(ぜぜ)を主な舞台に、型破りながらもまっすぐな女子高校生・成瀬あかりの挑戦の日々を描いてきた本シリーズ。完結編では、成瀬が滋賀県立膳所高校を卒業し、京都大学に進学した「大学1年生」の1年間が描かれます。

新潮社の紹介によると、本作には短編6編が収録され、2025年4月から翌年3月までの成瀬の大学生活が、季節の移ろいとともに綴られています。

  • 一世一代の恋に破れた同級生
  • 「達磨研究会」という少し不思議なサークル
  • 簿記系YouTuber

といった個性豊かな人々が成瀬の前に次々と現れ、「京都を極める」という新たな目標に向かう彼女の日々を彩ります。

これまでと同様、本作でも成瀬の行動は常識にとらわれない大胆さに満ちていますが、その根底にあるのは、「自分が信じた道をまっすぐに行く」という一貫した姿勢です。読者は、変わりゆく環境の中でも揺るがない成瀬の魅力と、彼女と出会った人々の変化を、温かくユーモラスな筆致で味わうことができます。

「成瀬あかりシリーズ」とは デビュー作からの歩み

本シリーズは、宮島未奈さんのデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』から始まりました。

滋賀県・膳所を舞台にしたこの作品は、地元の商業施設やローカル番組、びわ湖マラソンなども題材にしながら、どこか風変わりで、しかし誰よりも真剣に生きる少女・成瀬あかりの高校時代を描き、大きな話題を呼びました。

『成瀬は天下を取りにいく』は、2024年本屋大賞および坪田譲治文学賞など多くの賞を受賞し、文芸界に鮮烈な印象を残しました。

その後、続編『成瀬は信じた道をいく』が刊行され、成瀬の大学受験期から大学入学直後にかけてのエピソードが語られます。 そして今回の『成瀬は都を駆け抜ける』で、京都大学1年生としての1年間を描き切ることで、シリーズ全体が完結する構成となっています。

この三作を通じて、成瀬の中学2年から高校、そして大学へと続く成長の軌跡が連なり、一人の人物の「青春」の全体像が立ち上がってくる仕掛けです。

シリーズ完結への道筋 友情と別れがもたらしたターニングポイント

新潮社が公開しているインタビューでは、宮島さんがシリーズの構成やターニングポイントについて語っています。

とくに大きな節目として挙げられているのが、『成瀬は天下を取りにいく』最終話「ときめき江州音頭」で描かれた、幼なじみの島崎みゆきの東京への引っ越しです。

島崎は、幼少期から成瀬を一番近くで見守ってきた存在であり、読者にとっても成瀬の魅力を「翻訳」して伝えてくれる重要な語り手でした。その島崎が滋賀を離れ東京の大学へ進学し、シリーズ第二作以降は物理的な距離が生まれることになります。

この「距離」が、成瀬の物語に新たな奥行きを与えました。二人はお笑いコンビ「ゼゼカラ」としてM-1グランプリを目指した仲ですが、人生の進路が分かれ、それぞれの場所で成長していきます。

『成瀬は都を駆け抜ける』では、京都で暮らす成瀬のもとから、離れた場所にいる島崎へと突然の速達が届く場面が描かれるとされています。 シリーズを通して読んできた読者にとって、この「手紙」がどのような意味を持つのかは、大きな見どころのひとつです。

「ともに生きていく」成瀬像 家族三世代の物語へ

インタビューでは、シリーズ全体の「締めくくり」として、成瀬の家族三世代を描く構想も語られています。

最終巻に収められた一編「そういう子なので」では、成瀬の母・美貴子の視点から物語が語られ、「ぐるりんワイド」というローカル番組を再登場させつつ、「ありがとう西武大津店」へとつながるような、大津と京都を結ぶ物語になっているといいます。

このエピソードは、『成瀬は都を駆け抜ける』のラストであると同時に、シリーズ全体を締めくくる役割も担っており、成瀬という人物が、「家族」や「ふるさと」とどう向き合ってきたのかを示す重要な章となっています。

「成瀬はともに生きていく」という特集タイトルにも示されているように、宮島さんが描いてきたのは、特別な能力を持ったヒーローではなく、「ちょっと変わっているけれど、誰かと一緒に生きることを諦めない」一人の若者の姿です。読者は成瀬に自分自身の一部を重ね、彼女のそばにいる人々の視点を通して、「ともに生きる」ことの喜びや難しさを感じ取ることができます。

ランキングでの存在感 ミステリランキングでも関連作が話題に

年末恒例となっている各種ミステリランキングでも、2025年は宮島未奈さんの作品や関連する文芸書が大きな注目を集めています。

ランキングでは、あるミステリ作品が三冠を達成した一方で、文芸部門のベストセラーとして、シリーズ完結編『成瀬は都を駆け抜ける』や、人気ライトノベルシリーズ『転スラ(転生したらスライムだった件)』などが名を連ねました。[ニュース内容3より] これにより、ミステリ好きの読者層と一般文芸の読者層の双方から、宮島作品への関心が高まっています。

さらに、『成瀬は天下を取りにいく』は、すでにコミカライズも進んでおり、今後もさまざまなメディアで成瀬あかりの姿に触れる機会が増えていきそうです。

なぜ「成瀬あかり」はこれほど愛されるのか

シリーズ累計200万部という数字は、単に話題性だけで読まれているわけではなく、作品そのものの「読み継がれる力」を示しています。

成瀬あかりが多くの読者に愛される理由として、次のような点が挙げられます。

  • 常識にとらわれない行動力:突飛に見える行動にも、彼女なりの筋が通っている
  • 地に足のついた「地方」の描写:滋賀・京都という具体的な土地の空気が、生活感をもって描かれる
  • 周囲の視点から描かれる「成瀬像」:本人だけでなく、家族や友人たちの視点が重なることで、多面体のような人物像が立ち上がる
  • 「目標」に向かうひたむきさ:「二百歳まで生きる」「天下を取る」「京都を極める」といった大きな目標を、どこかユーモラスに、しかし本気で掲げる姿

このバランスが、「ちょっと変わっているけれど、なぜか放っておけない」「一緒に歩いてみたくなる」キャラクターとしての魅力を生み出しているのでしょう。

読者にとっての「大団円」 それぞれの場所で続いていく物語

新潮社のプレスリリースは、『成瀬は都を駆け抜ける』を「最高の主人公に訪れる大団円」と表現しています。

ただし、その「大団円」は決して、すべてがきれいに片付き、未来が保証されるという意味ではありません。むしろ、滋賀と京都、そして東京と、登場人物たちがそれぞれ別々の場所で生きていくことが当たり前になっていく中で、「それでもつながりは続いていく」という静かな確信が描かれている点にこそ、このシリーズの温かさがあります。

成瀬あかりの物語は、本としてはここで一区切りを迎えます。しかし、読者が本を閉じたあとも、「この先、彼女はどんなふうに歳を重ねていくのだろう」と想像したくなる余地が、たっぷりと残されています。

それは、私たち自身の人生が、はっきりした「最終回」を持たないまま、日々を積み重ねていくものだからかもしれません。だからこそ、成瀬のまっすぐな生き方は、フィクションでありながら、どこか現実の隣にあるように感じられるのでしょう。

これから「成瀬あかり」を読む人へ

今回の完結編『成瀬は都を駆け抜ける』からシリーズを知った方は、ぜひ、

  • 『成瀬は天下を取りにいく』
  • 『成瀬は信じた道をいく』
  • 『成瀬は都を駆け抜ける』

という順番で読んでみてください。

滋賀・膳所から京都、そしてそれぞれの新しい生活へ――。場所も時間も変わっていく中で、一人の少女が何を大切にし、どのように世界と向き合っていくのか。その全体像が、ゆっくりと、しかし確かな手触りをもって伝わってきます。

すでにシリーズを追いかけてきた読者にとっては、完結編は「さよなら」ではなく、「これからもよろしく」と挨拶を交わすような一冊になるでしょう。成瀬あかりは、これからも私たちの心のどこかで、変わらず自分の信じた道を駆け抜けていくはずです。

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