札幌で発生件数10倍増!アニサキス症の最新動向とリスク ─ 白身魚の刺身による腹痛・嘔吐、どう防ぐ?

アニサキス症という言葉を耳にすることが増えてきました。特に2025年に入って、札幌市での発生件数がこの10年で実に10倍にも増加していると報じられ、多くの人にとって他人事ではなくなっています。
実際に、著名なアナウンサーが刺身を食べた後「腹部をぎゅっとつかまれたような痛さ」に襲われ、病院へ駆け込むというニュースが大きな関心を集めました。
この記事では、アニサキス症がなぜ増えているのか、その特徴や予防法、症状が出たときの対応まで、専門的な情報をやさしく、丁寧に解説します。

アニサキスとは?

アニサキス寄生虫の一種で、主に海の魚介類(特にサバ、アジ、サンマ、イカ、イカナゴ、タラ、さらには白身魚全般など)に幼虫の状態で寄生しています。生きたまま人が食べることで体内に入り、消化管に刺入して激しい痛み嘔吐といった食中毒症状「アニサキス症」を引き起こします。

症状の特徴と経過

  • 胃アニサキス症(最も多い)
    食後数時間〜十数時間でみぞおち付近に激しい痛みが現れます。時には「刺すような」「ぎゅっとつかまれたような」耐えがたい痛みになることが特徴です。吐き気や嘔吐を伴うことも多く、夜間に突然発症し救急外来に直行する例も珍しくありません。
  • 腸アニサキス症
    発症は食後十数時間から数日後。下腹部に激しい痛みが起き、腸閉塞や腸穿孔といった重篤な合併症を引き起こすこともあります。
  • アニサキスアレルギー
    蕁麻疹やアナフィラキシーなど、アレルギー症状も報告されています。多くは刺身や寿司などを食べた後、数時間以内で、皮膚のかゆみ・赤み、呼吸困難、吐き気、血圧低下など多彩な症状が出現します。重症の場合は命に関わるため、速やかな受診が必要です。
  • 消化管外アニサキス症(まれ)
    消化管を突き破り、腹膜や皮下へ移動することで部位によって痛みの場所が変化します。

なぜ発生件数が急増?〜増加の背景〜

  • 食文化・鮮度重視のトレンド
    日本では生魚を食べる機会が多く、特に新鮮な刺身や寿司を好む傾向が強まったことで、アニサキス幼虫が生きている状態のリスクも高まっています。
  • 温暖化の影響
    ここ数年、海水温の上昇や魚の回遊ルートの変化が指摘されており、それに伴って本来比較的リスクが低かった地域(札幌など)でもアニサキス症の発生が急増しています。
  • 検査体制・認知度の向上
    医療機関での診断技術向上や、アニサキス症についての啓発が進んだことで、今まで見逃されていた症例が「発見」されるケースも増えています。

よくある症状の現れ方と具体例

札幌市内でアナウンサーが胃の激痛に襲われ、深夜に救急外来を受診した例がニュースになりましたが、これはアニサキス症の典型的なエピソードです。多くの患者はみぞおちを刺すような激しい痛みや、身体をくの字に曲げてしまうほどの劇症のため、すぐに医療機関を受診します。

一方で、嘔吐や下痢、さらには強いアレルギー症状を伴う場合もあり、重症例ではアナフィラキシーや腸閉塞に至ることもあります。ですから、痛みが「ちょっと強いな」と思っても、刺身や寿司を食べた後なら、絶対に我慢せず、すぐ病院に行くことが大切です。

診断と治療

  • 診断は胃カメラ(内視鏡検査)が主流
    激しい痛みを訴えて病院を受診した場合、胃カメラ(内視鏡)で胃壁を直接観察し、白い糸状のアニサキス幼虫を確認・摘出するのが標準的な治療です。
  • 摘出後は速やかに症状が改善
    虫体除去によって多くは数時間以内に痛みが和らぎます。ただしアレルギー症状(アナフィラキシー)や腸閉塞が起きている場合は、応急処置や入院加療が必要となります。

アニサキス症を防ぐには?〜家庭や飲食店でできること〜

  • 加熱調理を徹底
    アニサキス幼虫は60℃以上で1分加熱、または−20℃以下で24時間以上の冷凍で確実に死滅します。刺身や寿司は家庭では冷凍処理済みの食材を利用すると安全です。
  • 目視での確認は難しいことも
    肉眼でも1〜2cmの白い糸状のものとして見つけられますが、入り組んだ部分や目立たない部位に隠れている場合も多いので過信は禁物です。
  • 新鮮=安全ではない
    鮮度が良いほど「アニサキスも生きている」リスクが残るため、「新鮮だから安心」という先入観は要注意です。
  • プロによる下処理
    飲食店では、魚の内臓や筋肉部分を丁寧にチェックし、必要な加熱・冷凍処理を徹底することで感染リスクを低減できます。
  • 食後の体調変化に注意
    刺身や寿司、マリネ、酢締めなどを食べた直後〜翌日以降に激しい腹痛・嘔吐・蕁麻疹などが現れた場合は早急に医療機関へ。

アレルギー体質・小さなお子さんや高齢者への配慮

アニサキスアレルギーには特に注意が必要です。以前アニサキス症になったことがある人、また魚介類アレルギーの既往がある人は、食事の内容や提供先に十分配慮してください。小さなお子さんや高齢者の場合、腸閉塞や呼吸器症状など重い合併症を招きやすいので、慎重な対応が求められます。

まとめ:生魚文化を守るために、正しく知って正しく防ごう

日本人にとって、刺身や寿司は日常的であり、かけがえのない食文化の一部です。しかし、アニサキス症のリスクが高まっている現在、「正しい予防策」と「症状発現時の迅速な対応」がますます重要となっています。

食卓や飲食店で安全に生魚料理を楽しむためにも、加熱・冷凍の徹底と、少しでも体調に異変を感じたら迷わず医療機関へという心構えが大事です。美味しく、そして健康に生魚文化を味わい続けていくために、リスクと向き合いながら日々の生活に役立てていただければ幸いです。

参考元