第77回正倉院展が開幕、奈良に秋を告げる伝統の展覧会
古都・奈良に秋の深まりを知らせる「第77回正倉院展」が、本日10月25日(土)に奈良国立博物館で開幕しました。11月10日(月)まで会期中無休で開催されるこの展覧会は、約1300年もの時を超えて守り伝えられてきた正倉院宝物の魅力を、今年も多くの人々に届けます。
正倉院展とは
正倉院展は、毎年秋に奈良国立博物館で開催される、日本を代表する文化財展覧会です。校倉造(あぜくらづくり)で知られる正倉院正倉には、奈良時代に東大寺を建立した聖武天皇の遺愛品を中心とする、約9,000件もの宝物が収蔵されており、この中から厳選された品々が毎年公開されています。
77回目の開催を迎える今年の展覧会では、正倉院事務所から77件の宝物が出陳され、そのうち67件が展示公開されることになっています。注目すべきは、今回6件が初出陳となることで、これまで公開されたことのない貴重な宝物を目にする機会となります。
開催概要と観覧方法
第77回正倉院展の開館時間は、午前8時から午後6時までとなっていますが、金曜日、土曜日、日曜日、祝日は午後8時まで開館時間が延長されます。入館は閉館の60分前までとなっているため、ゆっくり鑑賞したい方は時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。
なお、今年の正倉院展は事前予約制の「日時指定券」の購入が必要となっており、混雑緩和と快適な鑑賞環境の確保が図られています。観覧券の料金は、一般2,000円、高大生1,500円、小中生500円となっており、レイト割などのお得な料金設定も用意されています。
今年の見どころと注目の宝物
聖武天皇御遺愛品の数々
今年の正倉院展では、聖武天皇の御遺愛品を中心とした北倉の宝物が多数展示されています。中でも特に注目されているのが、「国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)」に記載のある「木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)」です。この豪華な双六盤は、サイコロにあたる「双六頭(すごろくとう)」や駒である「水精双六子(すいしょうのすごろくし)」などとともに展示され、当時の貴族たちの優雅な遊びの様子を今に伝えています。
また、同じく国家珍宝帳に記載されている「平螺鈿背円鏡 附 題箋(へいらでんはいのえんきょう つけたり だいせん)」も展示され、聖武天皇が愛した品々の美しさを間近で感じることができます。
56年ぶりの六扇揃い展示
今年の展覧会で特筆すべきは、「鳥毛篆書屏風(とりげてんしょのびょうぶ)」が昭和43年(1968年)以来、実に56年ぶりに六扇揃っての出陳となることです。この貴重な機会に、完全な形で展示される屏風の壮麗な姿を鑑賞できることは、正倉院展ファンにとって見逃せないハイライトとなっています。
異国情緒あふれる「瑠璃坏」
今年の展覧会で大きな注目を集めているのが、「瑠璃坏 附 受座(るりのつき つけたり うけざ)」です。この紺色に輝くガラス器は、ペルシャ(現在のイラン)で製作されたもので、後に台脚が付けられました。シルクロードを通じて遥か遠くから日本にもたらされたこの宝物は、奈良時代の国際色豊かな文化交流を物語る逸品として、異国情緒あふれる魅力を放っています。
歴史に名を刻む名香「蘭奢待」
「黄熟香(おうじゅくこう)」は、「蘭奢待(らんじゃたい)」という雅名で知られる正倉院の至宝です。この香木は、戦国時代の覇者・織田信長や明治天皇が切り取ったことでも有名で、日本の歴史と深く結びついています。その芳しい香りと歴史的価値から、多くの来場者の関心を集める展示品となっています。
刀剣の優品と仕込み杖
刀剣類の中でも屈指の優品とされる「漆塗鞘御杖刀(うるしぬりのさやのごじょうとう)」も展示されています。これは仕込み杖として作られたもので、実用性と美術性を兼ね備えた奈良時代の工芸技術の高さを示す作品です。
東大寺大仏開眼法要の遺品
歴史的に重要な意味を持つ展示品として、東大寺盧舎那仏(大仏)の開眼法要に実際に用いられた「天平宝物筆(てんぴょうほうもつふで)」と「縹縷(はなだのる)第1号」も公開されています。これらは天平文化の華やかさを今に伝える貴重な史料であり、奈良時代の仏教文化の繁栄を物語っています。
正倉院宝物が伝える国際性
今年の正倉院展で展示される宝物は、調度品、服飾具、仏具、文書など多岐にわたり、正倉院宝物の全体像をうかがうことができるラインナップとなっています。これらの宝物が特に印象的なのは、その国際性の豊かさです。
ペルシャ製のガラス器である瑠璃坏をはじめ、シルクロードを通じてもたらされた品々は、奈良時代の日本が世界に開かれた国際都市であったことを雄弁に物語っています。遣唐使によってもたらされた大陸の文物、西アジアから伝わった工芸品など、当時の都・平城京がいかに国際色豊かな文化の中心地であったかを、これらの宝物を通じて実感することができます。
約1300年を超えて守られてきた文化遺産
正倉院宝物の最も驚くべき点は、約1300年という長い時間を経ても、その多くが良好な状態で保存されていることです。校倉造の建築様式による適切な湿度管理、そして代々の管理者たちの献身的な努力により、これらの宝物は今日まで守り伝えられてきました。
毎年秋に開催される正倉院展は、こうした先人たちの努力の成果を広く一般に公開し、日本の貴重な文化遺産を次世代に継承していくための重要な役割を果たしています。77回目を迎える今年の展覧会も、その伝統を受け継ぎながら、新たな発見と感動を来場者に提供しています。
展覧会の主催と協力体制
第77回正倉院展は、奈良国立博物館が主催し、読売新聞社が特別協力、DMG森精機が特別支援を行っています。また、NHK奈良放送局、奈良交通、奈良テレビ放送、仏教美術協会、読売テレビなどが協力しており、地域全体で文化財の公開事業を支える体制が整えられています。
来場者へのアドバイス
正倉院展は毎年多くの来場者で賑わう人気の展覧会です。特に週末や祝日は混雑が予想されるため、事前に日時指定券を購入し、余裕を持った計画を立てることをおすすめします。また、金曜日、土曜日、日曜日、祝日は午後8時まで開館しているため、夕方以降のレイト割を利用した観覧も検討する価値があります。
展示室内では、一つ一つの宝物をじっくりと鑑賞できるよう、時間に余裕を持って訪れることが大切です。音声ガイドや解説パンフレットも用意されているため、これらを活用することで、より深く宝物の魅力を理解することができます。
奈良の秋を彩る文化イベント
正倉院展は、単なる文化財の展覧会というだけでなく、古都・奈良に秋の訪れを告げる風物詩としても親しまれています。奈良公園内に位置する奈良国立博物館周辺は、紅葉の美しい季節を迎えており、展覧会の鑑賞と併せて奈良の秋の風情を楽しむことができます。
第77回正倉院展は11月10日(月)まで開催されます。約1300年の時を超えて守られてきた宝物の数々を、ぜひこの機会に直接ご覧になってはいかがでしょうか。詳しい情報や日時指定券の購入については、奈良国立博物館の公式ウェブサイトまたはハローダイヤル(050-5542-8600)でご確認ください。




