「山手線もいずれ…?」中央・総武線ワンマン運転と遅延問題が投げかける通勤電車のこれから

JR東日本が進めるワンマン運転の拡大が、大きな議論を呼んでいます。平日の遅延率が95%にのぼるとされる「イライラMAX路線」のJR中央・総武線各駅停車で、2027年春から運転士一人だけで列車を動かすワンマン運転が始まると発表されたからです。一方で、同じ首都圏の基幹路線である山手線も、2030年ごろまでにワンマン運転の対象に含まれており、「自分たちの通勤・通学はどうなるのか」と不安の声が少しずつ広がりつつあります。

この記事では、中央・総武線でなぜワンマン運転が導入されるのか、なぜ利用者の不安が強いのか、そして山手線を含めた首都圏の鉄道にどのような変化が予想されるのかを、できるだけやさしく整理してお伝えします。

JR東日本が進める「ワンマン運転」計画とは

まず押さえておきたいのは、今回の中央・総武線だけが特別なのではなく、首都圏全体でワンマン運転を広げる大きな計画の一部だという点です。JR東日本は2024年11月のプレスリリースで、2030年ごろまでに首都圏の主要線区で順次ワンマン運転を導入する方針を正式に示しました。

この計画では、すでに2025年春から常磐線(各駅停車)綾瀬〜取手間と南武線 川崎〜立川間でワンマン運転が始まっています。その「次の段階」として、京浜東北・根岸線、中央・総武線(各駅停車)でのワンマン運転が位置づけられています。

さらに同じ資料の中で、山手線・京浜東北・根岸線・中央・総武線(各駅停車)・埼京・川越線などで、2030年ごろまでにワンマン運転を実施する予定であることも明記されています。つまり、今は中央・総武線が注目されていますが、山手線も近い将来、同じ流れの中にあるということになります。

中央・総武線で始まるワンマン運転の具体的な内容

2025年9月24日付のプレスリリースによると、2027年春からワンマン運転が始まる区間は次のように説明されています。

  • 中央・総武線(各駅停車):三鷹駅〜千葉駅間(10両編成)
  • 京浜東北・根岸線:大宮〜南浦和間、蒲田〜大船間(いずれも10両編成)

中央・総武線については、東京メトロ東西線との直通列車はワンマン運転の対象外であることが、注記として明記されています。あくまでJRの各駅停車として走る10両編成列車が対象になります。

今回のワンマン運転化にあたり、JR東日本は「サステナブルな輸送モードを実現するため」と説明しています。運行コストの抑制や省人化を進める一方で、安全性や輸送の安定を維持・向上させることが狙いです。

「平日遅延率95%」の中央・総武線に広がる不安

とはいえ、利用者の受け止めは必ずしも前向きではありません。中央・総武線各駅停車は、平日の遅延率が驚異の95%に達すると報じられ、「イライラMAX路線の代表」とまで言われています。首都圏でも特に混雑が激しい路線のひとつで、朝夕のラッシュ時には、わずかなトラブルや混雑でも、すぐに遅れが連鎖しやすい状況にあります。

そんな路線で、車掌がいないワンマン運転

  • 安全確認に時間がかかり、かえって遅延が増えるのではないか
  • 混雑時やトラブル発生時の案内や対応はどうなるのか
  • ホーム上での転落やドア挟まりなどの危険は本当に防げるのか

といった不安が高まるのは、自然なことと言えるでしょう。

実際、2025年3月に先行してワンマン運転が始まった南武線では、切り替え後に大きな遅延や安全面への不安から多くの苦情が寄せられていると指摘する声もあります。こうした「先行路線でのトラブル」が、中央・総武線の利用者の不安をさらに大きくしている面もあります。

JR東日本の安全対策と技術的な工夫

もちろんJR東日本も、ただ人を減らすだけでなく、安全性や輸送の安定性を確保するための対策を同時に進めると説明しています。代表的なものを、やさしく整理してみます。

  • ホームドアの整備
    首都圏在来線でのホームドア設置を、関係者と協力しながら進めるとしています。ホームドアがあれば、ホームからの転落や駆け込み乗車による接触事故などのリスクを大きく減らすことができます。ワンマン運転の前提条件として、対象路線の全駅でホームドアを整備する方針も示されています。
  • 乗降確認モニタの設置
    従来は車掌がホームを目視で確認していた部分を、運転席に設置する「乗降確認モニタ」でカバーします。運転士は、このモニタで全てのドア付近の状況を一目で確認し、安全を確かめてからドアを閉め、列車を発車させる形になります。
  • 指令室との通話機能・車内放送機能
    非常時などには、乗客と輸送指令室が直接通話できるシステムや、指令室から直接車内放送を行える機能も導入されます。運転士だけでは対応しきれない事態でも、指令室が状況把握と案内に関わることで、安全と情報提供の両面を支える狙いがあります。
  • 運転士への教育・訓練
    車掌の役割の一部を運転士が担うことになるため、必要な教育・訓練を実施すると明記されています。ドア扱い、非常時対応、案内、機器操作など、これまで以上に幅広いスキルが求められることになりそうです。
  • TASC(定位置停止装置)・ATOの導入
    駅の決められた位置に正確に列車を停止させるためのTASC(定位置停止装置)を整備し、運転士の負担軽減と輸送の安定化を図るとしています。また、京浜東北・根岸線のE233系10両編成には、ATO(自動列車運転装置)も導入し、より安定した運行を目指す計画です。

これらの対策は、ワンマン運転=危険ではなく、技術と設備でリスクを抑えながら、限られた人員で運行を維持していく、という発想に基づいています。ただし、「設備や機械が整っても、人が減ることへの心理的な不安」は、そう簡単には消えないのも現実です。

なぜJRはワンマン運転を急ぐのか

ワンマン運転の背景には、鉄道会社を取り巻く厳しい現実があります。少子高齢化や人口減少で、長期的には利用者数の頭打ちや減少が見込まれる一方、安全投資や老朽設備の更新、人件費などの負担は重くなるばかりです。

JR東日本は、「より効率的でサステナブルな輸送モードを実現するため」と表現していますが、これは裏を返せば従来の人員配置のままでは、安定したサービスを続けるのが難しくなってきているということでもあります。特に首都圏では、

  • 朝夕のごく限られた時間帯に輸送需要が集中する
  • 車両・人員・設備をそのピークに合わせて確保する必要がある
  • 一方で、日中や深夜は余裕が出やすい

といった「ピーク依存型」の構造が強く、いかに少ない人員で安定運行を維持するかは避けて通れない課題になっています。その一つの答えが、設備とデジタル技術で安全を担保しながら車掌を省略するワンマン運転なのです。

山手線へのワンマン運転拡大と、これからの不安

今回の中央・総武線のワンマン化により、「次は山手線はどうなるのか」という関心も高まっています。JR東日本はすでに、2030年ごろまでに山手線でもワンマン運転を実施する予定であると公表しています。

山手線は、首都圏の中でも特に利用者が多く、ビジネス・観光・通学などあらゆる目的の乗客が乗る「東京の顔」と言える路線です。その山手線でワンマン運転が行われるとなれば、

  • ホームドアがほぼ整備済みとはいえ、さらなる安全対策は十分か
  • ラッシュ時の混雑と遅延を、ワンマン体制で本当にさばけるのか
  • トラブル時の案内や誘導はどうなるのか

といった点が、改めて注目されることになるでしょう。

すでにJR東日本は、首都圏在来線でのホームドア設置を進める方針を打ち出しており、山手線の多くの駅ではホームドアが稼働しています。こうした事前の設備投資があるからこそ、山手線もワンマン運転の対象に含められていると見ることができます。

利用者に求められる「新しい通勤マナー」

ワンマン運転が広がる中で、私たち利用者側にも新しい行動や意識が求められていきます。例えば、

  • 駆け込み乗車をしない
  • ホームドアや黄色い線の内側で待つ
  • 非常ボタンや通話装置の場所を日頃から確認しておく
  • トラブル時には駅係員や案内に従い、冷静に行動する

といった、いわば「基本中の基本」とも言えるマナーや行動が、これまで以上に重要になります。ワンマン運転は、ただ「車掌を減らす仕組み」ではなく、設備・運転士・指令室・利用者が一体となって安全を守る仕組みでもあります。

中央・総武線の「イライラMAX」とまで言われる遅延問題や不安の声は、単にJR東日本だけの課題ではなく、私たち一人ひとりの乗り方や時間の使い方も含めた、社会全体の問題を映し出しているとも言えます。

おわりに:山手線の行方を見つめながら

中央・総武線各駅停車で2027年春から始まるワンマン運転は、首都圏におけるJR東日本の大きな転換点になります。すでに常磐線・南武線でワンマン運転が導入され、今後は京浜東北・根岸線、そして山手線や埼京線などにも広がっていく計画です。

「遅延率95%」「イライラMAX路線」といった強い言葉が飛び交う中で、安全面や利便性への不安が高まるのは当然です。一方で、ホームドアやモニタ、指令室との連携、運転士への訓練といったさまざまな取り組みも進められています。

これから数年の間に、中央・総武線での経験や教訓が積み重ねられ、その結果が山手線を含む他路線のワンマン運転のあり方にも大きな影響を与えていくでしょう。私たち利用者としては、不安や疑問をそのままにせず、情報を確かめながら、必要な改善を鉄道会社に求めていくことも大切になってきます。

「いつもの通勤電車」が少しずつ姿を変えていく中で、安全で、時間に余裕のある移動のしかたを、社会全体で考える時期に来ているのかもしれません。

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