メモリ価格が高騰中──レノボとデルのPC値上げから見える「AI時代のメモリ不足」
いま、パソコン用メモリの価格が世界的に急激な高騰を見せており、その影響がいよいよ一般ユーザーにも本格的に及び始めています。とくに、Dell(デル)やLenovo(レノボ)といった大手PCメーカーが、ノートPCやサーバー製品の15〜20%前後の値上げを予定していることが報じられ、話題になっています。
背景にあるのは、生成AIやクラウドサービス向けのメモリ需要の急増です。データセンターやAIサーバーが膨大なDRAMやLPDDRを必要としているため、従来以上のペースでメモリが消費され、一般向けPCに回る分が足りなくなりつつあります。
本記事では、
- なぜメモリ価格がここまで高騰しているのか
- レノボ・デルなどPCメーカーの値上げ動向
- 今、PCを買うなら16GB / 32GB / 64GBどれを選ぶべきか
- LPDDR不足とノートPC・スマホへの影響
といったポイントを、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
レノボとデルがPC値上げへ:その理由は「DRAMショック」
まず、大きなニュースとなっているのが、DellとLenovoによるPC価格の値上げです。
報道によると、
- Dellは2025年12月中旬をめどに、ノートPCやサーバーなどを15〜20%程度値上げする計画
- Lenovoも2025年末から2026年初頭にかけて段階的な価格改定を見込む動きが伝えられている
こうした動きの主な要因は、
- DRAM(メインメモリ)の契約価格が急騰していること
- AIサーバー向けの需要が膨れ上がり、PC向けメモリの供給が逼迫していること
にあります。
実際、2025年後半以降のDRAM価格は、メーカーとの契約ベースで前月比50〜100%上昇といった、通常では考えにくいレベルの値上がりが指摘されています。 このコスト上昇分が、時間差を伴って完成品PCやBTOマシンの価格にも転嫁されつつある状況です。
なぜここまでメモリが高騰しているのか?
今回のメモリ高騰には、いくつかの要因が複合的に絡んでいます。
AIサーバー・データセンターがメモリを「大量消費」
最も大きな要因は、生成AIブームです。チャットボットや画像生成AIなどを動かすためのデータセンターでは、GPUだけでなく、隣り合う形で大量のDRAMやHBM、さらにLPDDRといったメモリが搭載されます。
市場調査会社のCounterpoint Researchによる分析では、
- 2025年のメモリ価格は年間で約50%上昇
- 2025年第4四半期だけでさらに約30%上昇
- 2026年初頭にかけて最大20%の追加上昇の可能性
があるとされており、AI関連需要が価格上昇を強く押し上げている構図が見て取れます。
LPDDR不足:ノートPCやスマホ向けメモリも逼迫
もうひとつ深刻なのが、LPDDR(低消費電力DRAM)不足です。これは主に、
- ノートPC
- タブレット
- スマートフォン
- 一部の超小型PCや組み込み機器
で使われる省電力タイプのメモリで、オンボード実装されるケースが多く、後からユーザーが増設できないのが特徴です。
AI機能を搭載したスマホやPCが増える中で、このLPDDR需要も急増しており、DRAM全体の供給バランスをさらに崩しています。 結果として、ノートPC向けのメモリコストも上がり、完成品PCの価格上昇につながっています。
DDR5メモリは数カ月で「2〜3倍以上」の値上がり
自作PC向けのDDR5メモリも、2025年秋以降で急激な価格上昇が確認されています。
- DDR5メモリは2025年9月頃から値上がりが目立ち、11月時点で2〜3倍以上になった製品もある
- 高クロック・大容量モデルほど在庫が逼迫し、価格上昇が顕著
- DDR4でも、32GB(16GB×2)構成が値上がり前の約3倍水準に達した例がある
こうした値動きは、単なる一時的なセール前後の上下というより、構造的な供給不足によるトレンド転換に近い印象を与えています。
「メモリ高騰の今、買うべきは32GBか64GBか?」問題
この状況で多くのユーザーが悩んでいるのが、今からPCを買う・組むなら、メモリ容量をどうするかという点です。
PC関連メディアでは、「16GBはもうキツイのではないか?」というタイトルで、32GBと64GBのどちらを選ぶべきかを特集する記事も出ています。
ここでは、いくつかの使い方別に、考え方の目安を整理します。
16GBはどこまで戦えるのか
まず、いま主流だった16GBメモリですが、状況は徐々に厳しくなっています。
- ブラウザで複数タブを開きつつ、Office系ソフトや動画視聴を行う程度なら、依然として16GBでも動作は可能
- ただし、ブラウザ+オンライン会議+簡単な画像編集などを同時に行うと、メモリ使用量が逼迫しやすい
- 最近のゲームタイトルでは、推奨メモリが16GB以上となるケースも増え、余裕が少ない場面が出てくる
メディア記事でも、「今後数年を見据えると、16GBはそろそろ心もとない」という見方が紹介されています。 とはいえ、価格が高騰している現状では、予算次第で選択せざるを得ない人も多いのが実情です。
32GBは「快適ライン」──多くのユーザーの現実的な落としどころ
現時点でのおすすめのバランスとして多く挙げられるのが、32GBです。
- 一般的なオフィスワーク+ブラウジング+動画視聴なら十分な余裕
- 写真編集や簡単な動画編集、軽めのクリエイティブ作業まで無理なく対応
- 最新ゲーム+配信ソフト+ボイスチャットなど、複数アプリを同時に使うユースケースにも向く
記事でも、32GBを基準ラインとして検討することが推奨されており、「16GBからの増設を考えるなら、32GBを目標にする価値は高い」といった論調が目立ちます。
ただ問題は、まさにこの大容量帯のメモリ価格高騰が特に激しい点です。
- DDR5-5600の16GB×2(計32GB)が、2025年12月時点で3倍以上に値上がりした例
- 32GBを超えるキットは在庫が薄く、値上げ幅もさらに大きい傾向
という現状もあり、「本当は32GB以上ほしいが、予算的に16GBで我慢せざるを得ない」というユーザーも増えています。
64GBはどんな人向けか
64GB以上のメモリは、主に以下のような用途を想定した「ヘビーユーザー向け」です。
- 4K/8Kクラスの本格的な動画編集
- 大規模なRAW現像や高解像度写真を大量に扱うワークフロー
- 仮想マシンを複数立ち上げての検証・開発環境
- ローカルでの機械学習・AI推論環境の構築
こうした用途では、32GBでも足りなくなる場面があり、64GB以上が現実的な選択肢になります。 しかし、前述の通り、今は大容量メモリほど価格高騰と在庫不足が顕著です。
結果として、
- 本職クリエイターやエンジニアなど、どうしても必要な人だけが64GB以上を選ぶ
- 趣味レベルの編集やゲーム配信なら、32GBで妥協しつつ、状況が落ち着けば将来的に増設を検討する
といった「優先度に応じた割り切り」が必要になってきています。
LPDDR不足がもたらす「後から増設できない」問題
デスクトップPCの場合、将来メモリを増設するという選択肢がありますが、ノートPCやタブレットでは事情が異なります。
近年の薄型ノートPCでは、メモリがLPDDRとしてマザーボードに直接実装されているケースが増えており、ユーザー側での交換・増設ができません。 つまり、
- 購入時に16GBを選ぶと、そのPCは一生16GBのまま
- 将来、アプリが重くなってもメモリだけ増やすことができない
という制約があります。Counterpoint Researchによるレポートでも、AIブームによるLPDDR不足が指摘されており、ノートPCのコスト上昇とスペック構成に影響を与えているとされています。
そのため、「長く使うつもりのノートPCなら、最初から32GB構成を選んだほうが安心」という見方が強まっています。
今の状況で、一般ユーザーはどう判断すればいい?
ここまで見てきたように、メモリ価格は
- 2025年に大幅な値上がりを経験し
- 完成品PCにも15〜20%の値上げとして波及しつつあり
- 2026年初頭にかけて、なお最大20%前後の上昇余地が指摘されている
という厳しい局面にあります。
その中で、一般ユーザーがPCやメモリを選ぶ際の「現実的な考え方」の一例を挙げてみます。
- ライトユーザー(文書作成・Web・動画視聴中心)
予算が限られているなら16GBでも実用は可能。ただし、3〜5年先まで同じPCを使うつもりなら、余裕を見て32GBを検討。 - ゲーム・趣味の動画編集・写真編集を行うユーザー
なるべく32GBを目標にしたいライン。64GBは本格運用向けなので、価格との相談。 - プロクリエイター・開発者・AI関連の検証を行うユーザー
64GB以上も視野に入るが、価格高騰と在庫状況をこまめにチェックし、必要なタイミングで確保する戦略が重要。 - ノートPC購入予定者
LPDDR搭載モデルは後から増設できないケースが多いため、長期利用を前提に最初から32GB構成を検討する価値が高い。
「今すぐ買うか、様子を見るか」の難しい判断
メモリ市場については、「2025〜2026年にかけて不安定な状態が続く可能性」が指摘されており、短期間で劇的に価格が下がる見込みは立てにくいとされています。
一方で、メモリのような半導体製品は、過去にも「高騰と下落を繰り返すサイクル」を経験してきました。ただ、今回の特徴は、
- AIデータセンター向けの構造的な需要増
- 一部メーカーのコンシューマ向け事業撤退などによる、ブランド選択肢の減少
といった要素が重なっている点です。そのため、「一時的な高騰だから待てば安くなる」と断言することは難しくなっています。
こうした状況では、
- 「今、PCが必要かどうか」
- 「必要なら、どの程度のスペックが本当に要るのか」
を改めて整理し、必要なときに必要な分だけ投資するという考え方が現実的です。
まとめ:AI時代の「メモリ」はもはや主役級の部品に
かつてPCパーツの中で、メモリは「とりあえず安いときに多めに買っておく」という感覚で見られることも多い存在でした。しかし、
- AIサーバー需要によるDRAM・LPDDRの逼迫
- 大手メーカーによるPC価格の15〜20%値上げ
- 自作向けDDR5メモリの数カ月で2〜3倍以上の値上がり
- 「16GBはもう厳しいかもしれない」とされるほどのソフト・OSの肥大化
といった現状を踏まえると、メモリはもはや、PC選びにおける最重要コンポーネントのひとつ
これからPCを購入・自作・アップグレードしようとしている人は、CPUやGPUだけでなく、メモリ容量とその価格動向にも、これまで以上に注意を向ける必要がありそうです。




