「スマホ新法」全面施行へ──私たちのスマホ生活は何がどう変わるのか
2025年12月、「スマホ新法」と呼ばれる新しい法律がいよいよ全面施行されます。
正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」で、「スマホソフトウェア競争促進法」とも呼ばれています。
「AppleやGoogleが規制される」「アプリストアが増える」「課金方法が自由になる」といったニュースを目にし、不安や期待を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、最近話題となっている以下のニュース内容を踏まえながら、
- スマホ新法で何が変わるのか
- AppleとGoogle、Epic Gamesなどをめぐる議論は何を意味するのか
- アプリ事業者のアンケートから見える「売上」や「課金」への影響
- 一般ユーザーとして何に気をつければよいのか
を、なるべく専門用語をかみくだいて、やさしい言葉で解説します。
スマホ新法とは?──目的と対象をやさしく整理
スマホ新法は、スマホの世界で強い力を持つ巨大IT企業の「囲い込み」をゆるめ、競争を促すための法律です。
スマホのOS(iOSやAndroid)やアプリストア(App Store、Google Play)、ブラウザ、検索エンジンなどの「特定ソフトウェア」を対象にした、事前規制型の法律として位置づけられています。
主なポイントは次の通りです。
- 正式名称:スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律
- 目的:アプリストア市場などの寡占状態を是正し、公正な競争を促進すること
- 監督機関:公正取引委員会
- 対象となる「特定ソフトウェア」:モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン
- 指定事業者:Apple、iTunes、Googleの3者が指定済み
つまり、スマホ新法は「スマホユーザーひとりひとり」に直接義務を課す法律ではなく、主にAppleやGoogleのような巨大プラットフォーマーを縛るルールです。
その結果として、ユーザーやアプリ事業者の選択肢が増えたり、条件が改善されることが期待されています。
いつから何が変わる?──施行スケジュールのおさらい
スマホ新法は、段階的に準備が進められてきました。
- 2024年6月:スマホ新法が国会で成立・公布
- 2024年12月19日:事業者指定に関する規定が先行施行
- 2025年3月26日:公正取引委員会がApple、iTunes、Googleを指定事業者に指定
- 2025年5〜6月:運用ガイドライン案公表・パブリックコメント募集
- 2025年12月18日頃:全面施行(いわゆる「スマホ新法」本格スタート)
全面施行により、これまで「準備段階」だったルールが実際の運用として本格的に動きはじめ、アプリストアの開放や課金ルールの変更などが現実のサービスに反映されていくことになります。
スマホ新法で変わること1:アプリストアの「閉じた世界」がゆるむ
これまで、スマホでアプリを入手する場合、
- iPhone:基本的にApp Storeのみ
- Android:Google Playが中心(一部メーカーストア等を除く)
という「1つのストアにほぼ独占された状態」が続いていました。
スマホ新法では、AppleやGoogleに対して、自社ストアだけを事実上強制するような行為を禁止し、第三者が運営するアプリストアや配布チャネルを認める方向にルールを整えています。
この結果として、
- App Store・Google Play以外からのアプリ配布が広がる可能性
- ストア間で手数料やサービス内容の競争が起きる可能性
- 特定ジャンルに特化したアプリストア(ゲーム特化、ビジネス特化など)が出てくる余地
など、ユーザーにとっての「選べる幅」が増えることが期待されています。
一方で、ストアが増えると、
- セキュリティ水準がストアによってばらつく可能性
- 審査がゆるいストアを狙った悪質アプリ(マルウェア、詐欺アプリなど)のリスク
も指摘されており、「自由度」と「安全性」のバランスをどう取るかが、今後の大きな課題になります。
スマホ新法で変わること2:アプリ内課金・決済の「縛り」がゆるむ
これまで、多くのアプリ事業者は、
- アプリ内課金はAppleやGoogleが用意する決済システムを必ず使う
- アプリ内から自社サイトなど外部の決済ページへのリンクを貼ることが制限される
といった条件のもとでビジネスを行ってきました。
スマホ新法では、こうした「自社課金システムの利用強制」や「外部リンクの制限」を禁止事項として定めています。
その結果、
- アプリ提供者は自社の決済システムや、他社の決済サービスを選べるようになる
- アプリ内から自社ウェブサイトへ誘導し、そこで課金・販売を行うことも可能になる
- プラットフォーム側手数料の影響が小さくなり、料金体系の見直しや値下げ、特典付与などの工夫がしやすくなる
といった変化が見込まれています。
一方で、決済の入り口や方法が増えることで、
- ユーザーがどこで支払っているのか分かりにくくなる可能性
- 詐欺的な課金ページへ誘導するなどの悪質なビジネスが紛れ込むリスク
も懸念されており、「公式っぽいデザインだから安心」とは限らない時代になっていくことが指摘されています。
スマホ新法で変わること3:ブラウザ・検索エンジン・デフォルト設定の自由度アップ
スマホ新法には、アプリストアや課金のほかにも、次のようなルールが盛り込まれています。
- 特定のブラウザエンジンの利用を強制することの禁止
- 検索結果で自社サービスを優先的に扱うことの禁止
- デフォルト設定の変更や「チョイススクリーン」(初期設定時に検索エンジンなどを選ばせる画面)の義務付け
- 取得データの開示義務や、データポータビリティ(他サービスへデータを持ち運ぶ)のための措置義務
これにより、
- スマホを初期設定するときに、検索エンジンやブラウザなどを自分で選ぶ画面が表示される可能性
- 特定のブラウザだけが有利になる構造が弱まり、ブラウザ間の競争が進む可能性
- 自分のデータを他サービスに持ち出しやすくなることで、サービス乗り換えがしやすくなる
といった変化が想定されています。
Epic Games vs Apple / Google──「味方」「悪役」という単純な図式で語れるのか
スマホ新法の背景には、Epic GamesとApple/Googleの対立など、世界各地でのアプリストアをめぐる争いがあります。
あるインタビューでは、Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOが、「Appleは悪、Googleは開発者を理解している味方」といった趣旨の発言をし、Google側を評価するようなスタンスを見せたことが報じられています。(IT系メディア報道より)
ただし、実際には、
- Epic GamesはAppleだけでなくGoogleともアプリストアの手数料やルールをめぐって法廷で争ってきた経緯がある
- 両社とも自社エコシステムを守ろうとする大企業であり、単純に「善悪」で区別できるものではない
- スマホ新法は、特定の企業を罰するためではなく、構造としての競争環境を改善するための法制度である
といった点を踏まえる必要があります。
スウィーニーCEOの発言は、開発者の立場から見た不満や期待を象徴するコメントとして受け止めつつも、「どちらか一方が絶対的な味方」というより、各社のビジネスモデルと規制との関係を冷静に見ることが重要だと言えるでしょう。
Reproの事業者調査:スマホ新法は「アプリ売上の半分以上」に影響?
マーケティングツールを提供するReproは、「スマホ新法とアプリ外決済・課金についての事業者調査」を実施し、スマホ新法がアプリ売上に与える影響についての結果を公表しています。
報道によれば、
- 多くの事業者が、スマホ新法による決済手段の多様化や手数料負担の変化を注視している
- アプリ売上の50%以上に影響が出る可能性を認識している事業者も一定数存在する
- 自社サイトへの誘導や、アプリ外課金の活用を検討する声も上がっている
など、ビジネス面でかなり大きなインパクトとしてとらえられていることがうかがえます。
この調査結果は、スマホ新法が単なる「法律の話」ではなく、アプリ提供者とユーザーのあいだのお金の流れや価格設定そのものに影響する可能性が高いことを示しています。
ユーザーにとってのメリットとリスク──「自由」と「自己防衛」がセットの時代に
ここまで見てきた内容を踏まえると、スマホ新法によって、ユーザーには次のようなメリットが期待されています。
- アプリストアやブラウザ、検索エンジンなどの選択肢が増える
- アプリ事業者が自由に決済手段や価格戦略を選べるようになり、ユーザーにも値下げや特典という形で還元される可能性
- デフォルト設定を自分で選ぶ機会が増え、自分に合ったサービスを選択しやすくなる
- データポータビリティの強化により、サービス乗り換え時のデータ移行がしやすくなる
一方で、リスクや注意点も無視できません。
- 公式ストア以外のアプリ配布チャネルにおけるセキュリティリスク(マルウェア、フィッシングなど)
- 決済手段が増えることで、どの窓口が本当に安全なのか見分けづらくなる可能性
- 「ポルノアプリがiPhoneに?」といった形で、コンテンツ規制の枠組みが変わることによる青少年保護への懸念
- 設定画面やチョイススクリーンが複雑になり、ITに不慣れな人ほど戸惑いやすくなるおそれ
スマホ新法は、「自由度アップ」と引き換えに、ユーザー側に求められる自己防衛の重要度も高める法律だと言えます。
一般ユーザーは何をすればいい?──「スマホ新法」時代の5つの心得
では、全面施行を迎えるにあたって、一般のスマホユーザーが特別にやるべきことはあるのでしょうか。
現時点で、法律上ユーザーに新たな義務が課されるわけではありません。
ただし、これからのスマホ環境で安全かつ賢くサービスを利用するために、次のようなポイントを意識しておくと安心です。
-
1. アプリの入手元をよく確認する
App StoreやGoogle Play以外からもアプリが手に入るようになっても、
・運営会社が信頼できるか
・レビューや評価、ストアの審査方針がしっかりしていそうか
を確認し、安易にインストールしないようにしましょう。 -
2. 決済画面のURLや運営者情報に注意する
アプリ外決済が増えると、「本当にその企業の正規サイトか」を自分で見分ける必要性が高まります。
・アドレスバーのドメイン
・会社概要や特定商取引法の表記
などを確認する習慣をつけると安心です。 -
3. 子どものスマホにはフィルタリングやペアレンタルコントロールを活用
コンテンツの幅が広がることで、青少年保護の観点からは保護者の見守り機能がより重要になります。
OSや通信事業者が提供するフィルタリング設定、ペアレンタルコントロール機能を活用しましょう。 -
4. デフォルト設定の選択肢を「なんとなく」で決めない
初期設定時に検索エンジンやブラウザ、アプリストアなどを選ぶ画面が出てきた場合、
・プライバシー保護方針
・使いやすさや信頼性
を一度調べてから選ぶと、自分に合った環境を作りやすくなります。 -
5. アップデート情報や公式の注意喚起に目を通す
公正取引委員会やOS提供元、キャリア、信頼できるメディアからの情報は、今後も随時アップデートされていきます。
「なんとなく怖いから全部拒否」「なんとなく便利そうだから全部OK」ではなく、公式情報をもとに落ち着いて判断する姿勢が大切です。
スマホ新法は「ゴール」ではなくスタートライン
スマホ新法は、AppleやGoogleのような巨大プラットフォーム企業の力を適切にコントロールしつつ、市場全体として健全な競争とイノベーションを促すことを目的とした法律です。
その影響は、Epic Gamesのような大手ゲーム会社から、小規模なアプリ開発者、マーケター、そして私たち一般ユーザーにまで広く及びます。
一方で、法律が施行されたからといって、すぐに理想的な世界が訪れるわけではありません。
新しいルールのもとで、各社の対応やビジネスモデル、ユーザーの使い方が少しずつ変化し、その結果として「より良いスマホ環境」に近づけていけるかどうかは、これからの運用と私たちの選択にかかっています。
スマホ新法の全面施行は、スマホを取り巻くエコシステムが「プラットフォーマー任せ」から「ユーザーと事業者がより主体的に選び取る」時代へ移行していく、ひとつの大きな節目と言えるでしょう。



