冬の味覚カキに異変 瀬戸内で水揚げの9割が死滅も 温暖化と向き合う広島のいま

冬の食卓を彩るカキ(牡蠣)が、いま深刻な危機に直面しています。特に養殖カキ生産量日本一の広島県や、瀬戸内海沿岸の産地では、水揚げされたカキのおよそ9割が死んでいたという海域もあり、「カキが大ピンチ」との声が高まっています。

この異常なカキの大量死について、気象情報会社のウェザーニューズなどが詳しく伝えており、背景には地球温暖化に伴う海水温の上昇高塩分化といった、海の環境変化が大きく関わっているとみられています。

瀬戸内海で何が起きているのか 「例年の3~5割」から「6~9割」へ

カキ養殖では、水揚げしたときにすでに死んでいる割合を「へい死率」と呼びます。通常、へい死率は3~5割程度とされてきました。

しかし、今シーズン水産庁が11月下旬に行った「養殖カキのへい死の状況」についての聞き取り調査では、信じがたい数字が並びました。

  • 広島県中東部・広島湾南部:へい死率6~9割
  • 愛媛県・香川県:へい死率5~9割
  • 兵庫県:おおむね8割が大量死と報告

広島湾周辺では、水揚げしたカキの約9割が死んでいた海域もあるとされ、養殖業者からは「このまま全滅するのではないか」という切実な声があがっています。

原因は「高水温」と「高塩分」 温暖化の影響が海に表面化

こうしたカキの大量死について、水産庁の調査では、共通する要因として「高水温」の影響が挙げられています。

カキは本来、夏場の6〜8月ごろに産卵期を迎え、水温が下がる秋以降に、産卵を終えて身を大きくしていきます。

ところが今夏は、記録的な高水温が長く続き、水温が下がらなかったため、カキが何度も産卵を繰り返す異常な状態になったとみられています。

  • 高水温が続く
  • 一度産卵したあと、再び成熟して産卵
  • 産卵を繰り返すことで体力が極端に消耗
  • 結果として大量死につながったと推定

さらに、今シーズンは雨が少なかったことも重なりました。雨が少ないと、川から海への淡水流入が減り、海水が冷やされにくくなります。その結果、

  • 水温が下がりにくい(高水温が継続)
  • 海水が雨で薄まらず塩分濃度が高い状態が続く

高水温と高塩分という、カキにとって厳しい環境が同時に続いたことが、カキの体に生理的な障害をもたらし、大量死を引き起こしたと専門家はみています。

水産研究・教育機構の研究者も、「これまでに比べて今年は海水温が2度ほど高い」と指摘し、地球温暖化が背景にある可能性を示しています。

生産日本一の広島県で「かつてない事態」

日本一のカキ生産量を誇る広島県でも、状況は非常に深刻です。瀬戸内沿岸の各地でカキの大量死が報告されるなか、広島県内の養殖業者からは、「二十数年やってきて、これほどひどい状況は初めてだ」という声があがっています。

広島湾南部などでは、通常のシーズン前に出荷できる量が大幅に減少し、すでに死んでしまったカキの処理費用なども重くのしかかっています。

国の鈴木憲和農林水産大臣は11月19日に広島を視察し、カキ養殖業者と意見交換を行いました。

その場では、

  • 原因の研究・調査を進めること
  • 国・県・市が連携して、経営面を支えていくこと

などが確認され、国としても緊急的な支援に取り組む姿勢が示されました。

広島県が20億円の支援 いかだの更新費用などを補助

こうした中、広島県はカキ養殖業者を支えるため、総額約20億円規模の支援策を盛り込んだ補正予算案を取りまとめました。ニュースでは、朝日新聞などがその内容を報じています。

主な柱のひとつが、養殖に欠かせないいかだ(筏)を組む費用の補助です。大量死により収入が大きく減ったなかで、いかだの維持・更新費用を自力でまかなうのは難しい業者も多く、県が公的に支援することで、来季以降の生産体制を維持することを目指しています。

また、稚貝の確保や養殖設備の改善など、現場が再び立ち上がるための支援措置も検討されています。瀬戸内のカキ産地にとって、今回の大量死は「一時的な不作」ではなく、構造的な環境変化の一端ともみられており、中長期的な対策が求められています。

横田知事が初めての答弁 カキ養殖の追加支援策を表明

広島県議会では、横田知事が就任後初めて一般質問に答弁し、このカキ大量死問題と養殖業者への支援について、自らの考えを示しました。

知事は、

  • カキ養殖業者への追加的な支援策
  • 国の支援と連携した緊急対策
  • 今後の気候変動を見据えた持続可能な養殖への転換

などを盛り込んだ補正予算案を県議会に提出し、議論を進めています。これにより、今シーズンの損失だけでなく、次のシーズン以降も安定的にカキを出荷できるよう、段階的な支援を行う方針です。

私たちの“冬の味覚”を守るためにできること

カキの大量死は、養殖業者の生活を追い詰めるだけでなく、私たちの食卓にも影響を与えます。冬の鍋料理やカキフライなど、身近な「季節の味」が、これまでのように手軽には楽しめなくなる可能性もあります。

一方で、産地や専門家からは、「今こそカキを食べて応援してほしい」という声も聞かれます。 被害が比較的少ない産地や、なんとか生き残ったカキは、例年以上に貴重な資源となっています。

また、今回のカキの大量死は、地球温暖化が海に与える影響を私たちにわかりやすく突きつけた出来事でもあります。海水温の上昇や高塩分化は、カキだけでなく、さまざまな海の生き物に影響を与え始めていると指摘されており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)なども、海洋の温暖化が近年加速していると報告しています。

カキをはじめとする海産物を、これからも長く楽しんでいくためには、

  • 産地・行政・研究機関が連携した科学的な原因究明と対策
  • 消費者による産地支援(購入や情報発信)
  • 社会全体での温室効果ガス削減など、気候変動対策の加速

が欠かせません。

ウェザーニューズなどの気象・海象データを活用したモニタリングや予測技術も、今後、養殖現場のリスク管理に大きな役割を果たすと期待されています。

「今年の冬は、いつも以上に一粒一粒のカキを大切に味わいたい」──そんな思いが、多くの人に広がることが、瀬戸内の海と生産者を支える一歩になるかもしれません。

参考元