Warner Bros. Discovery、Sling TVとDisneyとも対立――短期視聴プラン「Day Pass」を巡る法廷闘争の行方
2025年9月、Warner Bros. Discovery(WBD)が、米国大手インターネットテレビサービスSling TV(Dish Network傘下)を相手取り、新たな短期視聴プラン「Day Pass」に関する契約違反訴訟を起こしました。同時期にDisneyも同様の訴えを提起し、両メディア大手がSling TVの新サービスに厳しく対抗する動きが鮮明になっています。
Sling TV「Day Pass」登場――その革新性と波紋
Sling TVが2025年後半から提供を開始した「Day Pass」モデルは、ユーザーに1日単位、または短期間(数日単位)で主要テレビチャンネルを低価格で視聴できるという新たな試みです。たとえば「TNT Sports」や「CNN」など、WBDが提供する人気ネットワークをたった5ドルで24時間視聴可能にします。この手軽さから、時間が限られている視聴者や、特定イベントだけを見たい層に大きな注目を集めました。
WBDとDisneyの主張――「契約違反」と業界影響への懸念
- Warner Bros. Discoveryは、「Day Pass」プランが既存の配信契約(ライセンス契約、および再配信に関わる条件)に違反していると主張しています。これまでWBDやDisney、その他大手メディアグループとの契約では、サービスの期間やバンドル内容を厳格に規定しており、「1日だけ」の利用や超短期での再配信は想定されていませんでした。
- Disneyも同様の考えから、Sling TVが実施する「Mini TV Passes」に対して訴訟を起こし、短期間のみ視聴可能な販売手法が業界の公平性や契約秩序を損なうと警鐘を鳴らしています。
- 異例なのは、DisneyとWBDという米国を代表する二大メディア企業が、同時にSling TVを提訴した点です。業界内では「他の配信事業者も追随する恐れが強い」と危機感が広がっています。
なぜ「短期バンドル」が争点に?――背景を読み解く
従来の動画配信(VOD)やネット配信TVモデルでは月額・年額の長期契約が一般的であり、こうした契約は放送権収入=安定収益モデルの基盤を支えてきました。しかし「Day Pass」のような超短期のサービスは、既存契約の前提や価格体系を揺るがす存在です。
- 収益モデルの崩壊懸念:短期間だけの利用が増えると定期課金客が減少し、中長期の収益計画や投資が難しくなります。
- 契約条項違反:多くの配信契約では、期間や視聴単価、プロモーション方法に制限が設けられており、「短期バンドル」は直接の契約違反とみなされる可能性が高いです。
- 他社への波及懸念:今後Sling TV以外にも同様の料金モデルを導入しやすくなれば、業界全体の秩序が崩れてしまうとの恐れがあります。
視聴者・配信プラットフォーム・業界――三つ巴の構図
視聴者からは「短期間・低価格で必要な時だけ利用できる」ことに賛意の声が集まる一方で、配信プラットフォーム側はユーザー獲得のため施策拡大を続けています。
一方、権利元(メディア大手)は収益安定・契約順守を重視し、短期間利用が常態化することを強く懸念しています。
- ユーザー視点:コスパ重視・タイムパフォーマンス重視のニーズが高まる現代において、「必要な時だけ安く見る」スタイルが理想的と評価されています。
- プラットフォーム視点:会員数を増やすためには刷新した料金体系や柔軟なプランが不可欠ですが、強大な権利元との契約問題をクリアしなければなりません。
- 権利元視点:再配信契約・料率・放送権利の独占管理が死活問題であり、訴訟など強硬策を取らざるをえない状況です。
米ストリーミング業界の急速な変化と今後の波紋
2020年代半ば以降、米国ではケーブルテレビ加入者の減少(コードカッティング)と、ストリーミング主流化が加速しています。その流れの中で各社は、収益安定・ブランド力維持と同時に、消費者ニーズ(柔軟な契約、低料金、短期利用)という相反する課題に直面しています。
- 競争激化:Disney、WBD、FOX、NBCなどのメディア大手は独自配信・有料バンドル(複数チャンネルやスポーツパック)で差別化を図る一方、Sling TVやYouTube TV、Fubo、Huluといった新興配信事業者が市場シェア拡大を続けています。
- 訴訟リスク:今回のケース以外にも、Fubo TVが競合他社(Disney、WBD、FOX)を市場独占や反競争行為で訴えるケースも発生しており、法廷闘争が業界標準化の要になる可能性が高まっています。
- 規制当局の注目:このような巨大提訴・業界再編は米司法省(DOJ)やFTC(連邦取引委員会)など、政府規制機関による調査や規制強化につながる恐れも出ています。
まとめ:「視聴の自由」vs「業界秩序」のせめぎ合い
Sling TVが始めた短期バンドルプランは、「見たい時だけ、安く素早くアクセスできる」という現代的な視聴ニーズに合った画期的な一手ですが、それによって課された複雑な配信契約・ライセンス契約の枠組みと鋭く対立する形となりました。Warner Bros. DiscoveryとDisneyがそろって法廷の場に立つという「異例の事態」は、今後の配信業界・法制度に大きな影響を与えるでしょう。
視聴者にとって魅力的な低価格短期プランと、権利元が守りたい契約秩序・安定収益。どちらを重視すべきか、また業界全体で均衡が保たれるのか、その動向から目が離せません。