NHK次期会長に井上樹彦副会長が内定 18年ぶりの「生え抜き」トップ誕生へ

NHK(日本放送協会)の次期会長に、現在副会長を務める井上樹彦(いのうえ・たつひこ)氏が内定しました。内部からの登用はおよそ18年ぶりで、長くNHKの報道・編成・経営の現場を歩んできた「生え抜き」のトップが誕生する見通しです。

これまで外部出身の会長が続いてきたNHKにとって、今回の人事は大きな転換点とも言える動きです。現場を知る人物がトップに就くことで、受信料のあり方やインターネット配信、民放との関係など、いまNHKが直面している課題にどう向き合っていくのか、注目が集まっています。

井上樹彦氏とはどんな人物?これまでの歩み

井上樹彦氏は、長年NHKでキャリアを積んできたベテラン幹部です。報道部門や編成部門に携わり、その後は経営企画担当理事や関連会社の経営に関わるなど、番組の中身から経営全般まで幅広い分野を経験してきました。

とくに、

  • 政治部出身で、政治報道の現場を担ってきたこと
  • 編成局長として番組全体の編成に責任を負ってきたこと
  • 経営企画担当理事として中期経営計画の策定などに関わってきたこと
  • 関連会社2社のトップを務め、企業経営にも携わってきたこと

などから、「現場」と「経営」の両方をよく知る人物として知られています。

2023年2月にはNHK副会長に就任し、会長を補佐する立場として、改革の検証や経営全般の舵取りに深く関わってきました。その井上氏が、次期会長として組織のトップに就く流れとなっています。

18年ぶりの内部出身会長 なぜ話題になっているのか

今回の人事が大きく報じられている理由のひとつが、「18年ぶりに内部出身の会長が誕生する」という点です。報道各社は、

  • 「NHK次期会長に井上樹彦副会長が内定 18年ぶり内部出身」
  • 「NHK会長に井上副会長が昇格へ…職員から起用は2005年以来」
  • 「NHK新会長に井上樹彦副会長が就任へ 内部からの起用は18年ぶり」

といった見出しで、この「18年ぶり」「職員からの起用」という点を強調しています。

ここでいう「内部出身」とは、もともとNHKの職員として採用され、そのまま局内でキャリアを積み重ねてきた人材という意味です。最近のNHK会長は、商社や電機メーカーの元トップなど外部出身の経営者が続いており、「経営のプロ」を外から招く形が主流になっていました。

そうした流れの中で、今回は久しぶりにNHKで育った人材がトップに就くことになります。「NHKをよく知る人」「現場感覚を持った会長」の誕生として、受信者や関係者の関心を集めています。

副会長就任時に示した姿勢 「外から見たNHK」を生かす

井上氏は、副会長に就任した際の会見で、自身の経験について次のような趣旨の発言をしています。

  • 関連会社で、民間放送局や有料放送事業者との交渉・連携にあたったこと
  • そこで得た「NHKを外から見た貴重な経験」を生かしたいという思い
  • 「改革の検証と発展に向けて会長を補佐するとともに、NHKが視聴者・国民のみなさまにとって必要不可欠な存在であり続けられるよう尽力する」との抱負

このように、井上氏は「内側」と「外側」の両方からNHKを見てきたことを自らの強みとして挙げています。

また、当時の稲葉延会長も、

  • 中期経営計画の策定に関わるなど、グループ経営全般への幅広い知見がある
  • 関連会社2社のトップを合計6年務めた豊富な経営経験と見識がある
  • 会長を補佐する立場として適任だ

と評価していました。この評価が、そのまま「次期会長」としての期待にもつながっていると見られます。

一方で厳しい評価も 副会長としての「強いリーダーシップ」

一部の報道や評論では、井上氏の副会長としての姿勢に対して批判的な見方も紹介されています。

たとえば、民放キー局との共同事業をめぐる会合で、NHK側がこれまで積み上げてきた議論を転換し、採算性を理由に方針を変えたとされる場面が取り上げられています。こうした中で、

  • 関連会社の運営方針をめぐり「ちゃぶ台返し」とも言える急な方針転換があった
  • 民放側から「裏切られた」「信じられない」といった声が上がった
  • その背景に、副会長である井上氏の強い影響力がある

と指摘する論調もあり、その一部では「NHKの実権を握る副会長」として、かなり厳しい表現で批判されることもあります。

こうした見方はあくまで一部の論評ではありますが、井上氏が意思決定において強い影響力を持ち、時に大胆な判断をするタイプのリーダーである、という印象を与えています。次期会長として、こうしたリーダーシップがどのように発揮されるのかも、注目点のひとつと言えるでしょう。

NHKが直面する課題 新会長は何に向き合うのか

井上氏が会長に就任すれば、NHKは大きな転換期の中で新たな一歩を踏み出すことになります。いまNHKを取り巻く環境には、次のような課題が指摘されています。

  • 受信料制度への信頼回復
    受信料の値下げや制度見直しが続くなかで、「なぜ払うのか」という根本的な疑問にどう答えるのかが問われています。視聴者にとって納得感のある説明と運営が必要です。
  • インターネット時代への対応
    若い世代を中心にテレビ離れが進む一方、NHKはネット配信の強化を進めています。放送とネットをどう組み合わせてサービスを提供するのか、そのバランスを取ることが大きなテーマです。
  • 民放との関係づくり
    地方局支援やインフラの共同利用など、民放との協力は避けて通れません。一方で、先述のように共同事業をめぐる対立が報じられることもあり、どう信頼関係を築き直すかが課題となります。
  • 公共放送としての中立性と信頼
    政治との距離の取り方や報道姿勢は、常に厳しい目で見られています。政治部出身の井上氏がトップとなることで、「政治からの独立性」をどのように示していくかが問われます。

井上氏は、関連会社での経験を通じて「外からNHKを見た視点」を持っていると語っています。その視点をどのように生かし、これらの課題に対応していくのかが、新体制の評価を大きく左右すると考えられます。

「内部出身会長」に寄せられる期待と不安

18年ぶりの内部出身会長ということもあり、期待と不安の両方の声が聞かれます。

期待されている点としては、

  • NHKの組織文化や仕事の流れをよく理解しており、現場の声を反映しやすい
  • 受信者からの批判や信頼低下の要因を、これまでの経験からつかんでいる可能性が高い
  • 外部出身のトップでは難しかった、きめ細やかな改革ができるのではないか

といった点が挙げられます。

一方で、

  • 組織の中で長くキャリアを重ねてきたことで、大胆な構造改革がしにくいのではないか
  • 既存の人間関係やしがらみが、かえって改革の足かせになる可能性はないか
  • 政治や官庁との距離感が、これまで以上に問われるのではないか

といった不安も指摘されています。

井上氏が副会長時代、経営企画や関連会社のトップとして「改革」を掲げてきたことを考えると、内部出身でありながら経営の効率化や事業の見直しに積極的なタイプだと見る向きもあります。今後は、その姿勢が「公共放送としての使命」とどう両立していくかが大きな焦点になりそうです。

今後の手続きと視聴者への影響は?

今回の報道は、あくまで「次期会長に内定」「昇格へ」「就任へ」という段階のものです。今後は、NHKの経営委員会による正式な任命など、所定の手続きが進められたうえで、新会長としてスタートする流れとなります。

視聴者の生活に直ちに大きな変化が起きるわけではありませんが、

  • 今後の受信料の扱い
  • ネット配信サービスの拡充や番組の見せ方
  • ニュースやドキュメンタリーなど、報道・制作の重点分野

といった中長期的な方向性には、会長の方針が色濃く反映されます。

井上氏はこれまで、「NHKが視聴者・国民の皆さまにとって必要不可欠な存在であり続けられるよう尽力する」と繰り返し述べてきました。その言葉どおり、視聴者にとってわかりやすく、納得感のある改革が行われるのかどうか。今後の一つひとつの発言や施策に、これまで以上に関心が集まることになりそうです。

まとめ 公共放送の未来を左右する重要な人事

今回の「NHK次期会長に井上樹彦副会長が内定」というニュースは、単なるトップ人事の話題にとどまりません。

  • 18年ぶりの内部出身会長であること
  • 報道・編成・経営、そして関連会社まで経験してきた「NHK一筋」のキャリアであること
  • 副会長として強いリーダーシップを発揮してきたとされる一方で、一部からは厳しい評価も受けていること

などから、NHKの今後の方向性を占ううえで、非常に重要な節目と見る向きが多くなっています。

受信料の問題やネット時代の公共放送のあり方に、明快な答えを出すことは簡単ではありません。だからこそ、現場と経営の両方を経験してきたトップが、どのようなビジョンと具体策を示していくのかが問われています。

視聴者一人ひとりにとっては、ニュースやドラマ、教養番組など「日々の番組」がNHKとの一番身近な接点です。新会長のもとで、その内容や届け方がどのように変わっていくのか、今後の動きを温かく、そして厳しく見守っていくことが大切になってきそうです。

参考元