米国経済の二面性が浮き彫り:製造業の弱さとサービス業の堅調が対照的
2025年11月の米国経済指標が発表され、経済の先行きを巡る議論が活発化しています。特に注目されるのは、PMI(購買担当者景気指数)とISM製造業景況指数の結果に見られる、製造業とサービス業の明らかな明暗の分かれです。これらの指標は、米国経済が今後どのような展開を迎えるのかを判断する上で、極めて重要な情報となっています。
製造業の停滞が顕著に
まず製造業の状況を見てみましょう。S&Pグローバルが発表した11月の製造業PMI確報値は51.9となり、前月の52.5から0.6ポイント低下しました。ただしこの数値は、拡大を示す50を4ヵ月連続で上回っており、完全な悪化とは言い切れません。しかし、より詳細なISM製造業景況指数を見ると、状況はより厳しいものが浮かび上がります。
米供給管理協会(ISM)が発表した11月のISM製造業景況指数は48.2と、市場予想の49.0を下回り、7月以来の最低水準となりました。50未満というのは、製造業が収縮局面にあることを意味します。前月の48.7からもわずかに悪化しており、改善予想に反する結果となったのです。
詳細項目を見ると、その弱さがより明確になります。新規受注は47.4(前月49.4)と大きく低下し、雇用も44.0(前月46.0)と低い水準にとどまっています。これらの数値は、企業が先行きの需要に対して慎重な姿勢を示していることを示唆しています。一方、生産は51.4(前月48.2)と改善し、在庫も48.9(前月45.8)と増加傾向を見せており、企業が生産を続けつつも販売に対して不安を抱えている状況が伺えます。
サービス業は堅調を維持
これとは対照的に、サービス業は非常に堅調な動きを見せています。11月のサービス業PMIは55.0となり、前月の54.8から0.2ポイント上昇して高い水準を維持しました。さらに驚くべきことに、サービス業は34ヵ月連続で50を上回る拡大局面が続いており、安定した成長が継続していることがわかります。
サービス業の新規受注は55.6(前月53.6)と上昇し、堅調な国内需要が背景にあると分析されています。これは、米国の消費者がサービス支出を積極的に行い続けていることを反映しています。雇用についても、サービス業は50.9(前月51.4)とわずかに低下したものの、依然として50を上回る拡大が続いています。
総合PMIは期待を上回る
全体的な経済活動を示す総合PMIは、11月に54.8となり、前月の54.6から0.2ポイント上昇しました。市場予想の54.5を上回る結果です。この指数は、34ヵ月連続で50を上回っており、米国経済全体としては依然として拡大局面にあることを示しています。
総合新規受注は55.0(前月53.6)と、サービス業主導で高い水準に上昇しており、需要の強まりが確認できます。ただし、総合雇用は51.0(前月51.3)とわずかに低下し、雇用の拡大ペースが鈍化していることが示唆されています。
価格圧力の複雑な動き
インフレ関連指標も興味深い動きを見せています。総合投入価格指数は63.1(前月60.0)と大幅に上昇し、総合産出価格指数も56.0(前月54.7)と上昇しました。これは企業がコスト増加を段階的に価格に転嫁していることを示しています。
ただし、投入指数の上昇幅に比べて産出指数の上昇が抑えられており、企業のマージン悪化を示唆しています。特にサービス業では、投入価格指数が63.3(前月59.6)と大きく上昇している一方で、産出価格指数の上昇は55.9(前月54.0)と限定的です。このため、サービス業のマージン悪化を伴うインフレ圧力の強まりが懸念されています。
市場への影響と今後の展望
これらの指標発表は、外為市場に即座に反応を引き起こしました。ISM製造業景況指数が予想を下回ったことで、ドル売りが発生し、ドル・円は154円67銭の安値まで下げています。ユーロ・ドルやポンド・ドルも同様に反落しました。
経済指標全体の基調を見ると、10月と11月の総合PMI平均は54.7となり、7月から9月期の54.5から上昇しており、米国の民間需要の拡大ペースが小幅加速していることが示されています。製造業が52.2(7月から9月期51.6)、サービス業が54.9(同54.8)とともに上昇しており、拡大ペースの加速が確認されているのです。
この複合的な経済データは、米国経済の現状を理解する上で非常に重要です。製造業の停滞とサービス業の堅調という対照的な動きは、経済構造の変化を反映しているとも言えます。今後、これらの指標がどのように推移するかは、米国の金融政策決定に大きな影響を与える可能性があります。特に12月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ判断に注目が集まっています。
結論:注視すべき経済の方向性
11月の米国経済指標は、全体としては拡大基調が続く一方で、製造業の軟弱性が懸念材料となっています。サービス業の堅調さが経済全体を支えている状況は、消費者の支出意欲が比較的健全であることを示していますが、製造業の新規受注や雇用の弱さは、今後の経済成長に対する慎重さを示唆しています。インフレ圧力が依然として存在し、企業のマージン悪化が進行しているという点も見過ごせません。これらの複合的な要因は、今後の経済政策の方向性を決める上で、極めて重要な判断材料となるでしょう。



