米国労働市場、求人は横ばいも雇用調整は増加 離職率は低下
米国労働省が発表した10月の労働市場の転職・離職・求人動向(JOLTS)報告書によると、米国の求人数は770万人をわずかに下回る水準で、前月からほぼ横ばいの状態が続きました。一方で、レイオフ(解雇・雇用調整)の件数はやや増加し、労働市場は「全体的には安定しているものの、一部で緊張感が高まっている」という様相を見せています。
求人数は770万人をわずかに下回る
2025年10月の米国の求人数(job openings)は、769万件となりました。これは、9月の770万件とほぼ同じ水準で、市場予想とも大きくずれることなく、労働市場の「底堅さ」を示す結果となりました。
9月には求人数が大きく増加し、市場の注目を集めたため、10月はその勢いがやや落ち着いた形です。しかし、依然として770万件近い求人が存在しているということは、労働者一人あたりに複数の求人がある状況が続いていることを意味します。
求人数がこれほど高い水準で推移している背景には、特定の業種での人手不足や、経済全体の需要の強さがあると考えられます。特に、医療、介護、物流、IT関連などでは、人材確保が依然として難しい状況が続いています。
レイオフ件数はやや増加、雇用調整の動きが目立つ
一方で、注目すべき点は、レイオフ(解雇・雇用調整)の件数がやや増加したことです。10月のレイオフ件数は、前月から増加し、労働市場の一部に「雇用調整」の動きが広がっていることを示唆しています。
これは、一部の企業がコスト削減や事業構造の見直しを進める中で、人件費の見直しも行っている可能性を示しています。特に、テクノロジー、メディア、小売、金融など、コロナ禍後に急成長した分野では、成長ペースの鈍化に伴い、人員整理の動きが目立っています。
ただし、全体としてはレイオフの増加幅は大きくなく、「労働市場が急激に悪化している」とまではいえない状況です。むしろ、求人数が依然として高い水準にあることから、失業した人が比較的早く再就職できる環境が整っているともいえます。
離職率は低下、転職意欲がやや冷めている
もう一つの注目点は、離職率(quits rate)が低下したことです。離職率とは、労働者が自らの意思で職を辞める割合を指し、労働市場の「強さ」を測る重要な指標とされています。
離職率が高ければ、労働者が「次の仕事が見つかる」と自信を持って転職できる状況であり、労働市場が強いことを意味します。逆に、離職率が低下すると、労働者が「次の仕事が見つかるか不安」と感じ、転職をためらう傾向が強まっていることを示します。
10月の離職率は、前月から低下し、労働者の転職意欲がやや冷え込んでいることがうかがえます。これは、景気の先行き不透明感や、インフレ・金利の高止まりが、労働者の心理に影響を与えている可能性があります。
ただし、離職率がゼロに近づいたわけではなく、依然として一定数の労働者が転職を選んでいるため、「労働市場が完全に冷え込んでいる」とまではいえない状況です。
労働市場は「安定」だが、一部に「緊張感」
総合的に見ると、米国の労働市場は、「全体的には安定しているが、一部に緊張感が高まっている」という状況です。
- 求人数は770万件近い高水準で推移し、労働者に選択肢がある状況が続いている。
- レイオフ件数はやや増加し、企業の雇用調整の動きが目立っている。
- 離職率は低下し、労働者の転職意欲がやや冷え込んでいる。
このように、求人数は「rise(上昇)」したわけではありませんが、依然として高い水準で「rise(上昇)」した9月の勢いを維持している形です。一方で、レイオフの増加や離職率の低下は、労働市場の「強さ」がやや鈍っていることを示しています。
今後の見通しと市場の注目点
今後、市場が注目するのは、この「安定と緊張感」のバランスがどう変化するかです。特に、以下の点が重要になります。
- 求人数の推移:770万件近い水準が維持されるか、それとも徐々に減少に転じるか。
- レイオフの動向:レイオフが一時的な調整にとどまるか、それとも広範な雇用調整に発展するか。
- 離職率の変化:離職率がさらに低下し、労働市場の「強さ」が弱まっていると判断されるか。
これらの指標は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策判断にも大きく影響します。労働市場が強すぎるとインフレ圧力が高まり、金利の引き上げ圧力が強まります。逆に、労働市場が弱すぎると景気後退のリスクが高まり、金利の引き下げ圧力が強まります。
そのため、FRBは、「求人数が高水準で推移しつつ、レイオフが急増せず、離職率も急激に低下しない」という「ちょうどよいバランス」を望んでいます。今回のJOLTS報告書は、そのバランスがやや崩れかけているが、まだ許容範囲内にある、という状況を示しているといえるでしょう。
労働者と企業にとっての意味
この状況は、労働者と企業にとって、それぞれに意味を持っています。
労働者にとっては、
- 依然として求人が多く、転職のチャンスは残っている。
- ただし、離職率の低下やレイオフの増加を踏まえると、無理な転職やリスクの高い転職は避け、慎重な判断が求められる。
- スキルアップや資格取得など、自分の市場価値を高める取り組みが、より重要になっている。
企業にとっては、
- 人材確保は依然として難しい状況が続くため、採用戦略の見直しが必要。
- 一方で、コスト圧力が高まっているため、労働生産性の向上や業務の効率化が求められる。
- 従業員の定着を促すための福利厚生や働き方の見直しも、重要な課題となっている。
まとめ:求人は「rise」したわけではないが、高水準で安定
2025年10月の米国労働市場は、求人数が770万人をわずかに下回る水準で横ばい、9月の「rise(上昇)」からやや落ち着いたものの、依然として高い水準を維持しています。
一方で、レイオフがやや増加し、離職率が低下したことで、労働市場の一部に緊張感が高まっていることも事実です。全体としては「安定」しているものの、「強さ」がやや鈍っている状況が読み取れます。
今後は、この「安定と緊張感」のバランスがどう変化するかが、景気や金融政策、そして労働者・企業の判断に大きな影響を与えることになります。引き続き、求人数、レイオフ、離職率といった指標の動向に注目していく必要があります。




