UBS、スイスから歴史的転換へ――アメリカ拠点強化の最前線

はじめに

近年、世界の金融業界における動向は目まぐるしく変化しています。その中でも特に注目されているのが、スイスを本拠地とする世界最大級の金融グループUBSがアメリカでのビジネス拡大を狙い、新たに米国での銀行免許(ナショナルバンクチャーター)の取得を申請したというニュースです。2025年11月に発覚したこの話題は、スイスのみならずグローバルな金融業界に大きな波紋を広げつつあります。本記事では、UBSがこのような歴史的決断に至った背景、戦略的意図、今後の影響について、わかりやすく解説します。

UBSとは?

UBS(ユービーエス)は、スイスのチューリッヒに本拠を置き、全世界で数百万人の顧客を抱えるグローバル金融グループです。特にウェルスマネジメント(資産運用)分野においては世界最大規模を誇り、2023年のクレディ・スイス買収により、その地位を一層強化しました。これまでスイスの厳格な規制と金融の伝統を基盤としてきたUBSですが、近年はアメリカ市場を含む海外での存在感強化が経営戦略の大きな柱となっています。

今回のニュースの概要

  • 2025年10月末、UBSグループは米国でのナショナルバンクライセンス(全国銀行免許)の取得に向けて正式に申請を行いました。これは、米国内の金融サービス拡大を目的とするもので、UBS Bank USAという子会社を通じて行われています。
  • これまでもUBSはユタ州に拠点を置く形で州レベルの銀行免許を持ち、一部の銀行商品や資産運用サービスをアメリカ国内で展開していましたが、今回の申請は全米規模で本格的な銀行業務を行うことを意図したものです。
  • 社内メモによれば、「米国のクライアントは多額の預金を保有しているが、日常的な銀行ニーズでは主に他行に依存していた」ことが申請の背景にあるとされています。

UBSが米国全国銀行免許にこだわる理由

米国ナショナルバンクチャーター(National Bank Charter)とは、米通貨監督庁(OCC, Office of the Comptroller of the Currency)が発行する免許で、発行された銀行は全米50州で幅広い銀行サービスを提供できるようになります。これにより、UBSは以下のような点でビジネスモデルの大幅な刷新を図ろうとしています。

  • サービスの拡大:従来は資産運用・投資アドバイス、証券担保ローンやカード発行など一部サービスに限定されていましたが、今後は預金口座(普通預金・当座預金)、各種ローン、決済サービスなど幅広い商品を提供することが可能になります。
  • 顧客利便性の向上:UBSの富裕層顧客は資産管理はUBS、日常的な銀行取引は他行と、複数行を使い分けるケースが多く見られました。今後は銀行口座と資産運用口座の一元管理が可能となり、顧客満足度の向上が見込まれます。
  • 収益多角化と競争力強化:アメリカ市場での銀行サービス拡充により、新たな収益機会が拡大し、特に富裕層市場での競争力強化が期待されます。

アメリカで期待される新サービスの例

今回の申請が認可されれば、UBS Bank USAでは次のような質の高いサービスが更に拡充される予定です:

  • 総合口座サービス: 資産運用口座、預金、決済、カード、ローンなどを一体で管理。
  • 多様なクレジット・デビットカード: UBS Visa Infiniteカード、UBS Cash Rewardsカード等、顧客ニーズに応じたカードラインナップ。
  • 魅力的な住宅ローンおよび不動産融資: 専任バンカーによる個別相談と迅速な審査。
  • 柔軟な証券担保ローン: 保有資産を活かした戦略的な資金調達が可能。
  • ワンストップ金融アドバイス: あらゆる資産状況とライフプランに合わせた総合的サポート。

スイス本国に与えるインパクト

この動きについて、報道では「スイス離れ」や「本拠の移転」を指摘する声も見受けられますが、現段階でUBSがスイスを離れて本社を移転する計画は確認されていません。むしろ、スイスに本拠を置きつつ、アメリカ市場でのプレゼンスをさらに高めようとするグローバル戦略の一環と解釈できます。

UBSは「スイスの伝統を大切にしながら、世界で最も大きなマーケットにより深く関与する」ことで、持続的成長を図ろうとしているのです。今後もスイスでの法人登記や雇用は維持される見込みです。

米国側の動向――トランプ政権との関係

また、一部で報じられているように、米国トランプ政権との強いパイプや優遇策がこの決断の背景にあるとの話も取り沙汰されています。ただ、公開されている情報ではその具体的な内容への言及はなく、申請や承認プロセス自体は米連邦規制当局(OCCなど)が公正厳格に行うものです。

富裕層ビジネスにおけるUBSの野望

なぜUBSはここまでアメリカ市場にこだわるのでしょうか。最大の理由は、世界中の富がアメリカに集中し、特にウェルスマネジメント分野の成長余地が圧倒的だからです。

  • グローバルな富裕層市場において、米国は名実ともに最重要拠点です。アメリカの富裕層クライアントが持つ莫大な金融資産を、より直接的に、自社のサービスで取り込む狙いがあります。
  • クレディ・スイス買収を経て、資産運用業界トップの地位を固めたUBSにとって、グローバル金融業界での存在感を一段と高める「最後の一手」が、全米での銀行サービス拡充と言えるでしょう。

申請・承認の流れと今後の見通し

UBSは2025年10月下旬に申請を完了し、現地当局(米国通貨監督庁:OCC)の審査を経て、2026年中の認可取得が見込まれると社内で伝えています。これは、もし実現すればスイスの銀行としては初めてのケースとなる見通しです。

審査は米国当局による厳格なプロセスとなり、資本の健全性、コンプライアンス体制、マネーロンダリング対策、情報セキュリティなど多岐にわたる項目がチェックされますが、UBSがグローバルに積み上げてきた実績と規模を考えれば、順調に進行するとする声が優勢です。

市場関係者の反応と懸念点

現地メディアや市場アナリストは「国際金融センターとしてのスイスのプレゼンス」「アメリカ金融業界における競争激化」「規制上の障壁や顧客データ保護問題」といった観点から注目しています。特に、伝統的なスイス金融と米国型イノベーションとの融合がどう機能するのか、その動向が注目されています。

  • 規制対応力: アメリカでは連邦・州レベルで金融機関への監督が厳しく、欧州系金融グループにとっては新たなチャレンジとなります。
  • グローバルリスク: アメリカ発の制度変更や地政学リスクにも迅速に対応できる体制構築が求められます。
  • プライバシー・データ管理: 米国の顧客データ管理規制も強務化されており、世界各地の顧客データを保護しつつ利便性も両立させるノウハウが問われます。

まとめ:グローバル戦略の転換点に立つUBS

UBSの今回の決断は、単なる「新たな免許申請」以上の意味を持っています。富裕層ビジネス、世界的金融拠点のシフト、米国金融市場との連携強化など、各方面に影響を及ぼす歴史的な動きと言えるでしょう。今後もUBSおよび国際金融界全体の動向に注目が集まります。

UBSがどのように米国での新サービスを展開し、グローバル金融業界でどのようなリーダーシップを発揮していくのか――その答えを見届けるのはまだこれからです。金融の未来を占う重要なニュースとして、引き続き注視していきましょう。

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