「環境性能割」2年間停止へ エコカー補助金見直しと合わせた“ちぐはぐ”な車税制を読み解く
自動車を購入するときにかかる「環境性能割」という税金について、政府・与党は今後2年間、課税を停止(凍結)する方針を固めました。
同じタイミングで、電気自動車(EV)向けの国の購入補助金は増額される一方、新たに「EV重量税」の導入が検討されており、負担が増える側面もあります。さらに、燃料電池車(FCV)への補助は大幅に減らされる方向です。
こうした一連の見直しは、米国との自動車関税をめぐる合意や、国内自動車産業の支援策とも絡み合っています。
環境性能割とは? 自動車購入時にかかる「ご祝儀税」のようなもの
まず、今回のニュースの中心にある「環境性能割」から確認しておきましょう。
環境性能割は、自動車を購入したときにかかる自動車税の一種で、車の燃費性能や排ガス性能など「環境性能」に応じて税率が決まる仕組みです。
もともとの名称は「自動車取得税」でしたが、環境への配慮をうたって「環境性能割」として組み替えられ、エコカーほど税率が低く、逆に環境性能が低い車ほど高くなる設計がされています。
・自動車や軽自動車を新車・中古車を問わず購入したときに課税される
・燃費基準などを達成したエコカーは非課税または軽減される
・環境性能が低い車ほど、購入時の負担が重くなる
このように、環境性能割は「エコな車を選べば税金が安くなる」という、購入時のインセンティブとしての役割を担ってきました。
環境性能割の2年間停止へ 背景にある「米国関税」と産業支援
今回の見直しでは、この環境性能割について、政府・与党の税制改正論議の中で「2年間、課税を停止する」案が示されました。
具体的には、自動車税・軽自動車税の環境性能割について、今後2年間は税率を0%とし、事実上税負担をなくす方向です。
この背景には、ニュース内容にもある通り、米国による日本車への関税問題があります。米国が日本とEUから輸入される車に対し高関税を課す構えを見せ、日本の自動車産業は輸出面で圧迫を受けています。その一方で、日本国内での販売にも大きな負担がかかっては、メーカーや販売店の体力がさらに削がれてしまいます。
そこで政府は、国内の自動車販売を下支えするための対策として、購入時にかかる環境性能割の課税をいったん止め、自動車産業全体の売れ行きを支援しようとしているのです。
「米国関税に苦しむ自動車産業を支えるため、国内では負担を軽くする」という構図です。
一方でエコカー補助金はどう変わる? EVは40万円増、FCVは大幅減
環境性能割とは別に、エコカー補助金(CEV補助金など)も大きく見直されます。政府は、EVや燃料電池車などのエコカーを購入した人への補助金制度を、2026年1月から見直す方針を固めたと報じられています。
報道によると、補助金の上限は次のように変更される方向です。
- 電気自動車(EV):上限額を40万円増額し、130万円に
- 燃料電池車(FCV):上限額を105万円減額し、150万円に
- 補助金は、平均車両価格のおおむね2割相当に統一する方針
つまり、EVについては購入支援をより手厚くし、FCVは「高すぎる支援を整理する」方向にかじを切る形です。
これにより、EVとFCVの補助のバランスが見直され、「どちらかだけが過度に優遇されないようにする」という公平性を重視した政策転換と解説されています。
なお、エコカー補助金そのものは2年間延長される方針が示されており、その一方で減税基準(エコカーとして認めるハードル)は今より厳しくなるとされています。
「エコ」と名乗れる車の基準を引き上げることで、本当に環境性能の高い車に支援を集中させる狙いがあります。
環境性能割は止めるのに、EV重量税は導入? 「ちぐはぐ感」の正体
ここで、ニュース内容2にある「EV重量税」導入の話が出てきます。
一部報道では、EV向け補助金を増額する一方で、EVはバッテリーを搭載する分車重が重くなり、道路への負荷も大きくなるとして、重量に応じた税(いわゆるEV重量税)を新たに課す検討が伝えられています。
・EV購入時には補助金が増える
・しかし保有・走行に応じて、新たに重量税などの負担が増える可能性
このため、「支援したいのか、負担を増やしたいのかが分かりづらい」という指摘もあり、政策全体が「ちぐはぐ」「一貫性に欠ける」と感じる人も少なくありません。
さらにややこしいのは、環境性能割が2年間停止される一方で、エコカー減税自体は延長されるものの、ガソリン車やハイブリッド車については減税基準が厳しくなることです。
つまり、
- 車購入時の環境性能割はゼロ(2年間)
- しかし、エコカー減税のハードルはアップ
- EVには補助金増額だが、EV重量税構想で負担増の可能性
といった具合に、同じ「環境」と「自動車」をめぐる政策が、方向が揃っていない印象を与えているのです。
「公平性」をどう考える? EV・FCV・ガソリン車のバランス
政府が補助金見直しで重視するとされるキーワードが「公平性」です。
日米の関税合意などを受け、特定のメーカーや特定の車種だけが不当に有利にならないよう、また消費者間の負担のバランスをとることが狙いとされています。
今回の変更が、各車種にどのようなメッセージを送っているかを整理すると、次のようになります。
- EV:補助金上限が40万円増額され、130万円に。
→「これからの主力」として購入を後押しする姿勢。 - FCV:補助金上限が105万円減の150万円に。
→高額すぎる支援を整理し、EVとのバランスをとる方向。 - ハイブリッド車やガソリン車:エコカー減税の基準が一部で5%引き上げられ、ハードルが厳格化。
→「従来型」の車には安易な減税を行わず、本当に環境性能の高い車へ誘導。
また、環境性能割そのものを一時的に止めることで、自動車産業全体へのショックを和らげつつも、個別の補助金・減税制度を通じて、少しずつEVシフトを後押ししていく。その過程で、車種間の「優遇されすぎ・冷遇されすぎ」をならしていこうという思惑が透けて見えます。
消費者にとってのメリット・デメリット
こうした政策変更は、実際に車を購入しようとする私たちにとって、どのような影響があるのでしょうか。主なポイントを整理してみます。
1. 環境性能割2年間停止の影響
環境性能割が2年間凍結されると、車を購入するタイミングによって、次のような違いが出ます。
- 凍結期間中に購入すれば、環境性能割の負担はゼロ
- これまで環境性能割がかかっていた車種では、数万円単位の負担軽減になる場合も
- エコカーであればもともと負担が小さいため、恩恵はガソリン車などの方が相対的に大きい
とくに、ハイブリッド車やコンパクトカーなど、「エコカーまではいかないが、一般的なガソリン車よりは燃費が良い」という車を検討している方にとっては、購入費用が抑えやすくなる可能性があります。
2. EV購入を検討している人への影響
EVを購入しようとしている場合、次の点がポイントになります。
- 国の補助金上限が130万円に拡大する見通しで、購入費用の負担が軽くなる
- 自治体の補助金と組み合わせると、さらに負担軽減が期待できる(自治体ごとに異なる)
- 一方で、EV重量税の導入などにより、長期的な維持費が増える可能性も
短期的には「買うときは得」、中長期的には「維持費でバランスを取る」ような設計になるかどうかが、今後の議論の焦点になるでしょう。
3. FCVやハイブリッド車を考えている人への影響
FCV(燃料電池車)に関しては、補助金の大幅減額が検討されており、「これまでが手厚すぎた」と評価する向きもあります。
その結果、実質的にEVがより有利になり、FCVは「一部の用途に絞られた選択肢」として落ち着いていく可能性があります。
ハイブリッド車については、エコカー減税の基準が厳しくなるため、これまで減税の対象だった車が、対象外になるケースも出てきそうです。
ただし、環境性能割が凍結されることで、購入時全体の負担がトータルでは大きく変わらない、あるいは軽くなる場合もあり得ます。
なぜこんなに複雑なの? 税と補助金が入り乱れる理由
今回のニュースを見て、「減税したり増税したり、補助金を増やしたり減らしたりで、結局どうしたいの?」と感じた方も多いと思います。
複雑に見える背景には、次のような事情があります。
- 環境目標(CO2削減)を達成するために、EVなどへのシフトを進めたい
- 一方で、自動車産業は日本経済の柱の一つであり、急激な負担増は避けたい
- 米国との関税問題など、国際的な駆け引きも考慮せざるを得ない
- 消費者の負担が急に増えないよう、段階的に制度を切り替えたい
その結果、ある税を減らしつつ、別の税を強化したり、補助金で埋め合わせたりといった、「複数のツールを同時に動かす」やり方になってしまうのです。
環境性能割の2年間停止は、そうした中で「とりあえず購入時のショックを和らげる」意味合いが強い施策と言えます。
これから車を買う人が注意したいポイント
最後に、これから数年のうちに車の購入を検討している方に向けて、今回のニュースから読み取れるポイントを整理しておきます。
- 購入タイミング
環境性能割の凍結は「2年間」と区切られています。
この期間内に購入することで、従来よりも購入時の税負担が軽くなる可能性があります。 - 車種選び
EVに対する補助金が手厚くなる一方、FCVや一部ハイブリッド車の優遇は相対的に薄くなる流れです。
「将来どんな税や補助の見直しがあり得るか」も含めて、少し長い目で車種を選ぶことが大切になります。 - 情報収集の重要性
エコカー補助金や税制は、毎年のように見直しが行われます。
購入前には、国や自治体の最新情報をディーラーや公式サイトで必ず確認するようにしましょう。
環境性能割の停止、EV補助金の増額、EV重量税構想、そしてFCV補助の縮小――。
一見バラバラに見えるこれらの動きは、「環境」と「産業」を両立させながら、徐々に電動化へとシフトしていこうとする、試行錯誤の途中経過とも言えます。
これから車を選ぶ私たちにできるのは、「今のルール」を正しく理解しつつ、自分のライフスタイルに合った車とタイミングを、じっくり検討していくことです。税や補助金は、その判断を助けてくれる一つの材料として、冷静に活用していきたいですね。



