TSMC熊本第2工場、AI半導体へ舵切り 4ナノ検討で広がる地域経済と環境の課題

台湾の半導体大手TSMC(台湾積体電路製造)が、日本・熊本での事業展開をさらに加速させています。
当初は自動車や産業機器向けを中心とした「6ナノ」「7ナノ」世代の生産を予定していた熊本第2工場について、より先端的な「4ナノ」プロセスを生産する方向で検討していることが報じられました。
背景には、世界的なAI半導体需要の急増があります。

一方で、TSMC進出の「追い風」を受けて、熊本県内企業の採用活動が台湾で行われるなど、国際的な人材獲得の動きも始まっています。
さらに県は、半導体工場の稼働で水需要の増加が見込まれる中で、「地下水保全」を次期環境基本計画の重点課題に位置付ける素案をまとめるなど、環境面での議論も進んでいます。

TSMC熊本第2工場、6・7ナノから4ナノへ計画見直し

TSMCは世界最大規模の半導体受託製造企業であり、NVIDIAなどの主要テクノロジー企業のAI向け半導体を手掛けています。
近年、生成AIやデータセンター向けの高性能チップ需要が急拡大しており、TSMCは本社の2ナノライン増設など、先端プロセス能力の増強を急いでいます。

こうした流れの中で、日本・熊本に建設中の第2工場の位置付けにも変化が出てきました。
報道によると、熊本第2工場は当初、6ナノ・7ナノ世代の量産を想定して設計が進められていました。ところが、AI需要の高まりを踏まえ、より高度な4ナノチップ生産に切り替える方針が検討されているとされています。

4ナノ世代は、すでにスマートフォンや一部の高性能用途で広く使われているプロセスですが、依然として「先端プロセス」に分類される重要な技術領域です。
一般的に、ナノメートルの数字が小さいほど、チップ上のトランジスタを微細に配置でき、高性能かつ省電力な半導体を実現できます。そのため4ナノへの転換は、熊本拠点をAI・高性能計算向け生産の一角として位置づける動きとも受け取れます。

もっとも、設計を4ナノ前提に変更するとなると、工場レイアウトや設備仕様の見直しが必要になり、2027年とされてきた稼働開始時期が遅れる可能性も指摘されています。
一部報道では、熊本第2工場の建設現場で、いったん重機が撤去されるなど、計画の見直しに伴う動きも伝えられています。

第1工場の成熟プロセスと、第2工場の役割分担

TSMCの熊本第1工場は、すでに28ナノと16ナノといった、いわゆる成熟プロセスの生産を担う拠点として位置付けられています。
2024年末からは28ナノの量産が始まっており、自動車向けマイコンや産業機器、民生機器向けなど、幅広い用途を支える半導体が生産されています。

成熟プロセスとはいえ、TSMCは汎用品ではなく、RF(高周波)や高電圧対応、イメージセンサなど、付加価値の高い特殊プロセスに注力しており、単純な供給過剰には陥りにくいとの見方も示しています。
こうした第1工場の役割と比べると、第2工場がAI需要に対応した4ナノの先端ラインを持つことになれば、「成熟+先端」の両輪で熊本拠点の位置づけが一段と高まることになります。

TSMC効果で熊本企業の採用が台湾へ 合同面接会を開催

TSMC進出に伴い、熊本では人材需要が急増しています。
製造現場だけでなく、設備保守、部品供給、物流、IT、事務など、サプライチェーン全体で人手不足感が強まっており、「TSMC効果」は県内企業の採用の現場にも波及しています。

そうした中、熊本県内の企業が台湾で合同面接会を開く動きが報じられています。
企画したのは就職支援会社で、TSMC関連投資で高まる技術系・製造系人材需要に応えるため、台湾現地での対面面接の場を設ける試みです。
TSMC本体だけでなく、その周辺で事業展開する企業にとって、台湾は高度人材の宝庫であり、今後も同様の取り組みが広がる可能性があります。

合同面接会では、熊本県内の製造業、エンジニアリング企業、設備関連企業などが参加し、日本での働き方や待遇、生活環境などを説明しながら、長期的に日本でキャリアを築きたい人材の獲得を目指します。
TSMCで培われた技術やノウハウを持つ人材を受け入れることで、県内産業全体のレベルアップや国際化にもつながると期待されています。

半導体と水の問題 熊本県が「地下水保全」を重点課題に

一方で、半導体工場は大量の水を使用する産業として知られており、熊本県では環境面の議論も活発になっています。
熊本は全国でも珍しく、水道水のほぼ全量を地下水に依存している地域であり、その豊かな地下水は「水の都」としての熊本の特徴でもあります。

こうした状況を踏まえ、熊本県は策定中の「第7次環境基本計画」の素案で、「地下水保全」を重点課題として位置づけました。
TSMCを含む大型工場の進出で、工業用水の需要増加が見込まれる一方、気候変動や少雨傾向などによる水資源への影響も懸念されており、地下水の持続可能な利用が重要テーマになっています。

素案では、地下水の涵養エリア(水がしみ込むエリア)の保全や、農地・森林の役割の再評価、揚水量のモニタリング強化などが課題として挙げられています。
また住民や企業と連携し、節水対策や水循環への理解を深める取り組みを進めることも検討されています。

地域に求められる「産業と環境の両立」

TSMCの熊本進出は、雇用や税収、関連企業の立地など、地域経済にとって大きなメリットをもたらす一方で、水資源や環境への負荷という課題も抱えています。
そのため、県としては「TSMCの恩恵を最大限生かしつつ、地下水をはじめとする環境をどう守るか」が重要なテーマとなっています。

今後は、以下のような取り組みが鍵になると見られます。

  • TSMCや関連企業による節水設備・リサイクル水利用の徹底
  • 県と企業、住民との間での情報共有と対話の場づくり
  • 地下水位や水質の継続的なモニタリングとデータ公開
  • 土地利用や都市計画と連動した涵養エリアの保護

TSMC側も、世界各地での拠点整備において現地政府の支援やインフラ整備との連携を重視していることを明らかにしており、日本でも同様に、地域と協調した形での事業運営が求められる状況です。

AI需要が変える半導体拠点の姿

今回の4ナノ検討は、単なる工場仕様の変更にとどまらず、「どの国・どの地域で、どのレベルの半導体を生産するのか」という、世界的なサプライチェーン再編の一部 TSMCは、台湾を中心に2ナノやそれ以降の先端プロセスの量産を計画しつつ、米国や日本、欧州に生産拠点を分散させる戦略を取っています。

熊本拠点が成熟プロセス+4ナノという構成になれば、日本は自動車・産業向けだけでなく、AI・データセンター向けを支える一角に位置付けられる可能性があります。
それは同時に、地域が担う役割と責任も一段と重くなることを意味します。

TSMCの動きにあわせて、熊本県内企業は海外人材採用に踏み出し、県は地下水保全を掲げて環境政策を見直しています。
産業振興と環境保全、国際競争と地域社会の暮らし——そのバランスをどう取っていくのかが、これからの大きなテーマになりそうです。

参考元