TSMC、2025年9月決算と株価急騰──半導体需要が牽引する「強さ」と「課題」
はじめに──世界が注目するTSMCとは
TSMC(台湾積体電路製造)は、世界最大の半導体受託製造企業として、AI・自動運転・モバイルなど幅広い最先端分野を支える存在です。2025年に入ってから、その存在感はより一層高まり、市場や多くの投資家たちから大きな注目を集めています。特に2025年7-9月期の決算発表と株価の動き、その背景にある半導体需要の変化が今、話題の中心となっています。
2025年7-9月期決算──予想を上回る業績
TSMCは2025年7-9月期の決算説明会を10月16日午後に開催しました。ブルームバーグによる市場予想では、総収入が前年同期比34.4%増の315.94億ドル、1株当たり利益(EPS)は31.4%増の2.55ドルと見込まれていました。しかし、TSMCは9月時点の速報値で月間総収入3309.80億台湾ドルを記録し、これを米ドルに換算すると108.96億ドル、四半期合計で330.49億ドルに達し、予想を上回る結果が示されました。
- 9月の単月収入:3309.80億台湾ドル(108.96億ドル換算)
- 7-9月期累計収入:330.49億ドル(前年同期比34.4%増)
- 1株当たり利益(予想):2.55ドル(前年同期比31.4%増)
- EPS、収入成長率は4-6月期よりはやや鈍化
この結果は、AIを中心とした半導体需要の強さがTSMCの業績を後押ししている証です。また、収益の伸び率は前四半期(4-6月期・44.4%増)よりやや鈍化するものの、依然として高い水準を堅持していることから、同社の供給能力と需要対応力が高く評価されています。
TSMCの株価急騰──「必要性」が恐怖を上回る
2025年4月から約半年間で、TSMCの株価(米国預託証券・ADR)は2.2倍に急騰しています。4月8日に一時141.37ドルまで下落したあと、10月9日終値で299.88ドルまで回復。この上昇率は、同期間で99.97%上昇した半導体最大手のNVIDIAや、98.86%上昇した英アーム・ホールディングスおよび3.2倍上昇した日本のアドバンテスト(6857)といった大手とも肩を並べるものです。
株価の急騰には人工知能(AI)ブームが大きく影響しています。AI処理に不可欠な最先端半導体の需要は継続的に拡大しており、市場関係者の間でTSMC株の買い意欲が高まっています。実際、29人のアナリスト中27人が「買い」、2人が「維持」を推奨しており、今後も同社への期待の高さが伺えます。
- TSMC株(ADR)半年で2.2倍上昇
- 目標株価平均:約301ドル
- 株価収益率(PER):29.4倍(2025年10月時点)
AI・半導体需要の拡大が追い風
TSMCの好調な業績の背景にはAI分野を中心とした新規需要の劇的な伸びがあります。半導体受託最大手のTSMCは、米NVIDIAやAMD、ASMLといったグローバルテック企業への納品増加や、クラウド・AIインフラの拡大による受注増に支えられています。
- AI対応チップへの需要拡大
- 5G、自動運転、IoT分野の成長による受託生産増
- 新興国・米国・日本などへのグローバル供給網の拡大
特にAI関係でのGPUや先端プロセス大量受注が每四半期の収入記録を後押ししており、その余波は半導体セクター全体の株価上昇にもつながっています。
TSMC経営陣の見解──伸び続ける受注と慎重な課題意識
TSMCのCEO、魏哲家(C.C. Wei)氏は2025年4-6月期決算説明会で「AI関連需要の強さと生産能力拡大の必要性」を繰り返し強調してきました。同時に、米中対立や関税政策など地政学的リスクへの警戒心も維持しており、不確実性への備えを怠っていません。
- AI需要の強さと増産継続に自信
- 地政学的リスク(米中関係や関税)の注視
- 顧客企業の動向には大きな変化なし、と現状を分析
2025年通期の収入見通しも前年比約30%増に上方修正され、AIブームの持続性に強い自信をのぞかせました。ただし、「前回成長率予想の20%台半ば」からのさらなる上方修正でありながら、先行きには一定の慎重姿勢も維持されています。
オプション戦略活況──決算前の投資家心理
TSMCの決算を控えた市場では、個人投資家・機関投資家の間でもボラティリティ(価格変動性)を活かしたオプション取引が活発化しました。特に「IVクラッシュ」戦略など、短期的な値動きを狙う手法が注目されたのが特徴です。AI・GPU需要の高まりによる本業の強みだけでなく、投資市場においても敏感なマネーの流れが表面化しています。
成長ペースと課題——次の一手は
TSMCの売上成長率は過去1年で非常に高い水準ですが、最新四半期では伸びがやや鈍化する兆しも見られました。それでも、同業他社や関連ハイテク株の中で圧倒的な成績を残していることは、TSMCの技術力と需要予測力の高さを裏付けています。
- 成長率の徐々の鈍化(高水準維持)
- 設備投資・人材確保など、今後の供給能力拡大が課題
- 米中摩擦、地政学リスクが新たな不安要素
今後も世界のAI・デジタルインフラ需要を支え、半導体産業の中心地としてその立場を強化し続けるTSMC。ただし、外部環境のリスクと成長投資の舵取りが重要になっていきます。
まとめ──TSMCはなぜ今これほど注目されるのか
2025年秋現在、TSMCは業績・株価の両面で「AIと半導体の必要性」があらゆる懸念材料を上回る圧倒的な強みを示しています。AI技術の加速度的な進化と共に、半導体受託世界一のポジションを確固たるものにし、その傍らで世界経済の変化や地政学的課題へも機敏に対応しています。
今後のTSMCの一挙手一投足は、日本を含むグローバル経済、そしてテクノロジービジネスの未来に大きな影響を及ぼし続けることでしょう。半導体の供給網、AI技術の波、金融市場のマネーゲーム――すべての中心に、「TSMC」という固有名詞がある現在、その動向からますます目が離せません。