トランプ政権がFRB統制強化へ ベッセント財務長官が地域連銀総裁の権限制限を提案

トランプ政権は連邦準備制度理事会(FRB)に対する統制をさらに強化する動きを見せています。スコット・ベッセント米国財務長官は、地域連銀総裁の権限を制限する提案を示唆し、ホワイトハウスがFRBに対する影響力を強めようとしていることが明らかになりました。

ベッセント財務長官による権限制限提案

ベッセント財務長官によれば、FRB理事会は地域連銀総裁の決定に対して「拒否権」を行使できるようにすべきだとのことです。さらに注目すべき提案として、地域連銀総裁は勤務する地域に3年間は常住すべきであるという要件の導入を主張しています。これらの提案は、地域連銀総裁の独立性を制限し、中央政府からの統制を強めることを意図したものと考えられます。

この動きは、トランプ政権によるFRB統制強化の一環として位置付けられています。ホワイトハウスは、金融政策の決定過程においてより大きな発言権を獲得しようとしており、次期FRB議長人事の重要性も相まって、政治的な圧力が高まっています。

ホワイトハウスのFRB統制戦略

ホワイトハウスは、FRBの独立性をより制限することで、政権の経済政策目標とFRBの金融政策をより密接に連携させたいという意向を示しています。特に、トランプ政権が推し進める関税政策や通商政策に対して、FRBがより協力的な姿勢を取るようにすることが狙いと見られます。

現在、次期FRB議長の人事も進行中です。ホワイトハウスの国家経済会議(NEC)委員長であるハセット氏が次期議長の有力候補とされており、彼は利下げを支持する人物として知られています。こうした人事配置と合わせて、地域連銀総裁の権限制限が実施されれば、トランプ政権はFRBに対するコントロールを実質的に大幅に強化することができるようになります。

地域連銀総裁の常住要件の意味

ベッセント財務長官が提案する地域連銀総裁の3年常住要件は、一見すると技術的な規則のように見えますが、実質的には大きな意味を持つものです。これにより、地域連銀総裁がその地域の経済事情に深く根ざし、ホワイトハウスから距離を置きにくくなる可能性があります。

従来、地域連銀総裁は一定の独立性を保ちながら、各地域の経済状況に応じた金融政策の提言を行ってきました。しかし、この要件が導入されると、人事配置の自由度が減少し、政治的影響力が増す可能性があります。特に、地域連銀総裁がより長期間同じ地域に留まるとなれば、ホワイトハウスの関係者がその地域に根を張る可能性も高まることになります。

FRBの独立性に対する懸念

FRBの独立性は、米国の金融システムの根幹をなす原則の一つです。中央銀行が政治的圧力から独立して金融政策を実施できることで、インフレーション抑制や金融システムの安定が実現されてきました。

しかし、トランプ政権による一連の提案と行動は、この独立性を脅かす可能性があります。ホワイトハウスが地域連銀総裁の権限を制限し、拒否権を行使できるようにすれば、政治的考慮が金融政策決定により強く影響を与えるようになる懸念があります。

暗号資産とデジタル金融政策との関連性

トランプ政権のFRB統制強化の動きは、同政権が推し進めている暗号資産・デジタル金融に関する政策とも密接に関連しています。2025年1月の大統領令では、政府発行のデジタル通貨(CBDC)が禁止され、民間企業による暗号資産の発展を重視する方針が示されました。

また、7月に成立したGENIUS法は、ドル連動のステーブルコインを銀行と同じレベルの規制の下で発行できるようにするものです。さらに、8月には暗号資産関連企業への銀行口座閉鎖問題を解決する大統領令も出されています。

これらの政策を実行するためには、FRBとの協調が不可欠です。したがって、ベッセント財務長官によるFRB統制強化提案は、こうした暗号資産戦略を実現するための基盤整備という側面も持っています。

経済政策と通商政策の不確実性

トランプ政権の関税政策や通商政策に関しては、継続的な不確実性が指摘されています。FRB議長のパウエル氏も複数の機会で、米国の通商政策の変更をめぐる不確実性は高いと述べています。

こうした政策環境の中で、ホワイトハウスがFRBに対するコントロールを強めようとするのは、経済政策全体の一貫性を高め、政権の経済目標達成を加速させるためだと考えられます。特に、関税政策の実施に伴うインフレ圧力に対応するために、FRBの金融政策決定により直接的な影響を与えたいという思惑がうかがえます。

今後の展開の見通し

ベッセント財務長官による提案が実現されるかどうかは、まだ不確定です。FRBの独立性は法律で保障されており、これらの変更には議会の承認が必要となる可能性があります。しかし、トランプ政権がFRB統制強化に向けた具体的な提案を行ったことは、その政治的意思の強さを示すものです。

今後数ヶ月間、ベッセント財務長官の提案がどの程度進展するのか、そしてそれがFRBの独立性と米国の金融システムにどのような影響を与えるのかが注視されることになるでしょう。同時に、次期FRB議長の人事決定も、政権のFRB統制戦略の重要な要素となっています。

米国の金融市場と世界経済に大きな影響を与えるFRBのあり方について、今後の政治的・制度的な変化がどのように展開するのかは、引き続き重要な関心事項となるでしょう。

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