スター精密を巡るTOB(公開買付け)と上場廃止の全容
スター精密が注目を集める理由
スター精密は、工作機械やプリンターなどの精密機器を開発・製造する日本の中堅メーカーです。長年にわたり、静岡県を代表する上場企業として知られてきました。そんな同社が、2025年11月、大規模な経営転換を迎えることとなり、投資家や地域社会を中心に大きな注目を集めています。
TOBとは?スター精密に迫る買収劇
「TOB(Take Over Bid)」とは、日本語で「公開買付」と呼ばれ、ある企業の株式を市場外で一定価格でまとめて買い集める行為を指します。今回の主な買い手となったのはTPPグループならびにタイヨウ・パシフィック運営ファンドです。彼らは、スター精密を非公開化し、より機動的な経営体制を確立することを目的としてTOBを実施しています。
買付価格のインパクト〜1株2,210円の意味
2025年11月に発表されたTOBの買付価格は1株あたり2,210円。この価格は、発表時点の市場株価にプレミアムを加えた水準です。対象となる株数は約1,480万株で、これが成立すればスター精密は市場から姿を消し、完全な非公開企業となります。
- 買付期間:2025年11月13日〜12月25日
- 買付予定株数の下限:14,800,700株
- 目的:完全子会社化および非公開化
TPPグループとタイヨウ・パシフィック運営ファンドとは何者か?
TPPグループおよびタイヨウ・パシフィック運営ファンドはいずれも、アジアを中心に積極的な投資活動を展開する資産運用会社です。特にタイヨウ・パシフィックは過去にも日本企業への投資事例が多く、長期的な企業価値向上を重視する方針で知られています。
- TPPグループ:アジア・パシフィック地域でビジネス再編投資に強み
- タイヨウ・パシフィック:日本企業の成長支援や経営改革ノウハウを有する
上場廃止の背景と、非公開化のメリット・デメリット
スター精密は今回のTOBによって、完全子会社化が成立すれば上場廃止となります。上場企業が上場廃止・非公開化を選ぶ背景には、以下のような経営上の事情があります。
- 短期的な株価変動に左右されず、長期的な視点で経営判断ができる
- 買収防衛策が可能となり、外部からの影響を抑えることができる
- 経営陣による抜本的な構造改革や事業再編を進めやすくなる
- 一方で、資金調達の多様性や社会的な信用といった上場のメリットは失われる
TOB成立によるスター精密への影響
TOB成立後、スター精密の経営にどのような変化が起きるのでしょうか。まず、外部投資家が株主構成を握ることで、短期間での大胆な経営再編や新規事業への投資が期待されます。上場時代に比べて情報開示義務も緩和されるため、中長期の成長戦略を描くことができます。日々の株価や四半期決算に縛られず、成長投資に集中できる経営環境が整うと考えられます。
しかし、その一方で、上場企業としての透明性や資金調達力、信頼性といった恩恵は制限されることになります。非公開化で得られる変化や恩恵と、失うメリットの双方があるのです。
地域経済や従業員、取引先への影響
スター精密は地域社会との結びつきが強い企業です。今回の上場廃止は、「地元優良上場企業」の一つが姿を消すことを意味します。これに対し、地元経済や従業員、取引先企業へどのような影響が及ぶか憂慮する声も聞かれます。
- 従業員:雇用環境や福利厚生に大きな変化が起きる可能性は高くないものの、非公開化後の経営戦略次第で人員の再配置や組織再編があり得ます。
- 取引先:これまでの商流が基本的に継続される見通しですが、事業再編や新規事業参入の可能性もあります。
- 静岡経済:地元証券市場の活性化や雇用創出に貢献してきた存在だけに、上場廃止は象徴的なニュースとなりました。
投資家への影響と今後の手続き
今回のTOBは市場価格にプレミアム(上乗せ幅)を加えた水準で行われているため、投資家側にとっては売却時にメリットが大きい取引となっています。今後、買付期間(2025年12月25日まで)に株主が応募すれば、1株2,210円で買い取ってもらえます。
一方、TOB成立後はスター精密の株式は市場で売買できなくなります。投資家が保有する株式が強制的に買い取られ、対価が支払われることで、所有関係のクリアランスが行われます。非公開化後は企業業績への直接的な投資の機会は失われますが、完全子会社化による経営効率向上に期待する声も少なくありません。
市場全体への波及効果と注目点
日本国内では、ここ数年、海外ファンドによる上場企業の買収(TOB事例)が相次いでいます。背景には、企業価値が十分に評価されていないと考える海外投資家の視点や、日本の資本市場の成熟・国際化が挙げられます。中でも、国内リート(不動産投資信託)や製造業で割安感が強い企業がターゲットとなる傾向が見られます。
- TOBを通じて企業が構造改革を進めやすくなること
- 市場全体の企業価値の見直しやガバナンス強化が進む可能性
- 投資信託や機関投資家の運用成績に波及していること
スター精密の今後と、関係者のメッセージ
今後、スター精密は新たな株主の指導のもとで、新しい成長フェーズに入ることとなります。経営陣は「より自由で長期的な経営判断ができる企業となり、中長期のビジョン実現に集中する」としています。一方で、「上場企業としての透明性や伝統を大切にしつつ、地域社会との絆も守っていく」ともコメントしています。
従来の上場企業時代の強みを活かしつつ、経営の新たな舵取りに挑むスター精密の今後に、引き続き注目が集まっています。




