トヨタ「スープラ」生産終了――47年の歴史と“最後の進化”

歴史に幕を下ろすFRスポーツの象徴

トヨタ「スープラ」という名を聞けば、1970年代末から続く日本スポーツカーの象徴としてその名を思い浮かべる方も多いでしょう。そのスープラが、2026年3月をもって再び生産終了となることが、2025年10月24日トヨタより正式発表されました。47年にわたって自動車ファンを魅了し続けた名車に、ついに幕が下ろされるのです。

スープラ誕生から生産終了までの軌跡

初代スープラは1978年、輸出仕様「セリカXX」としてのデビューを皮切りに、その後トヨタスポーツの中心的存在となりました。1990年代、第三・第四世代(A70、A80型)は高性能&個性派FRとして評価が高まり、1993年登場のA80型は「湾岸ミッドナイト」など多くのメディアにも登場、日本のみならず海外でも高い人気を獲得します。しかし、環境規制や市場環境の変化で2002年にA80型の生産終了――この時点で一度スープラの歴史の幕が下りたのです。

その後、スープラ復活を望む声は絶えず、2019年、実に17年ぶりとなる5代目(A90型)がリリースされました。BMWとの共同開発による現行GRスープラは、最新の技術やデザインで「現代の王道FRスポーツ」として新たなファン層を獲得しました。

  • 初代A40/50型(1978-1981)
  • 2代目A60型(1981-1986)
  • 3代目A70型(1986-1993)
  • 4代目A80型(1993-2002)
  • 5代目A90型(2019-2026予定)

生産終了の背景と理由

今回発表されたスープラA90型の生産終了には、いくつかの重要な背景があります。世界の自動車産業は今、「カーボンニュートラル」への転換期。EUをはじめとする環境規制が強化され、大排気量・高出力の純内燃機関スポーツカーは、規制適合が極めて難しい時代を迎えています。

さらに、安全性基準の強化や、A90型の開発・生産がBMW傘下のマグナシュタイア社で行われてきたことに関連し、BMWとの契約満了、そしてBMW「Z4」などの兄弟車種も同時期に生産終了となることなどが、今回の生産終了に影響しています。これらは企業としては避けて通れない“時代の要請”でした。

最後の進化――A90ファイナルエディションの登場

スープラの集大成として、2025年3月に「A90 ファイナルエディション」が発表され、150台の数量限定で発売されました。専用ボディカラーや特別なエアロパーツ、大幅な性能向上パーツを纏い、出力は324kW(441PS)に達するなど、レーシングカーのテクノロジーが随所に取り入れられた“究極”の一台となっています。

このファイナルエディションは、抽選申し込みも多く、国産スポーツカー&スープラファンの愛情をあらためて証明したイベントとなりました。

品質トラブルによる出荷延期の波紋

ところが、このファイナルエディションは当初、2025年10月より納車予定とされていましたが、品質上のトラブルが発生。納車時期の見通しが立たず、多くのファンや購入者に動揺が広がりました。詳細なトラブルの内容は明らかにされていませんが、歴史のフィナーレを飾るにふさわしい品質を確保すべく、出荷スケジュールの再調整が行われている状況です。

  • 当初2025年10月から納車開始予定
  • 品質上の問題で出荷延期が発生
  • ファンや購入者にとっては期待と不安が交錯

内燃機関スポーツカーの到達点としてのスープラ

A90型スープラは直6ターボを搭載したFRレイアウト、軽量かつ高剛性ボディ、そして洗練されたサスペンションやエレクトロニクスといった現代技術の粋を集め、「ドライビングプレジャー」を徹底追求したモデルでした。特にBMWとの共同開発により、欧州名車と比べても遜色ないハンドリングやパフォーマンスを備えています。

トヨタ自らが「スープラは“スポーツカーの象徴”」と語るように、単なる移動手段を超えたエモーションを、A90スープラは多くのユーザーに与えてきました。「この車でなければ味わえない」と言わしめる“官能の走り”は、内燃機関スポーツカーがたどり着いた一つの到達点だったと言えるでしょう。

未来を見据えて――スポーツカーのこれから

このスープラの生産終了は、日産GT-R(2025年8月終了予定)等と相まって、“本格FRスポーツ”が市場からますます姿を消す時代の象徴でもあります。今後はEV化など、クルマの在り方そのものが抜本的に変わろうとしていますが、それでも「走ること」「運転すること」の歓びを追い求めた一台が、「スープラ」という名に結実していました。

スープラを愛した全ての人々にとって、2026年3月の生産終了はまさに時代の区切り。しかし47年にわたるスープラの歴史は、これからもクルマ好きの心に強く刻まれ続けることでしょう。

歴代スープラの系譜と名場面

  • 1978年 初代A40/50型 セリカXX輸出仕様として誕生
  • 1993年 A80型 伝説的な高性能・個性、現在も世界的な評価
  • 2002年 生産終了 一度歴史に幕
  • 2019年 A90型 復活、BMWと共同開発で現代的FRスポーツへ進化
  • 2025年 A90ファイナルエディション 発表(150台限定)
  • 2026年3月 生産終了 47年の伝説的歴史に幕

イベントや今後の動向にも注目

2025年4月の「オートモビルカウンシル2025」などでは、A90ファイナルエディションと共に歴代スープラが展示され、大きな話題となりました。このようなイベントは、スープラの歴史や魅力を次世代に伝えていく大切な機会となっています。

今後、現行の新車在庫や中古市場でのスープラの動向、そして限定車の希少価値の高まりなど、クルマ好きには引き続き注目すべき話題が続くでしょう。

スープラからのメッセージ

トヨタが公式発表で伝えた「たくさんのお客様にご愛顧いただき、誠にありがとうございました」という言葉。
それは、スープラにかかわる全ての人々——開発者、ドライバー、ファンたちの「走る歓び」への共感と連帯の証です。

最後の一台まで、スープラは“究極のスポーツカー”という使命を持ち続け、そして新しい時代の幕開けへと静かにバトンを渡していきます。

参考元