東北大学の変革と地元志願者減少――デジタル革新と地域との関係性に迫る

はじめに

東北大学は、国内有数の総合大学として長い歴史を持つ教育・研究機関です。近年、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に対する取り組みが全国の大学で注目されていますが、東北大学もその先頭に立ち、新たな学務情報システム「GAKUEN」シリーズのノンカスタマイズ導入による業務改革を推進しています。一方、学生の志望動向には大きな変化が現れており、地元(東北地方)からの志願者割合が激減し、関東圏からの志願者が増加している実態が明らかになりました。

東北大学のDX推進の背景――GAKUEN導入

近年、大学業務の効率化や事務負担軽減、経営の高度化を目的としたDX推進の声が高まっています。東北大学ではこの流れを受け、パッケージ型学務情報システム「GAKUEN RX」シリーズを2024年9月から本格稼働させました。特徴は、従来のような大規模カスタマイズを行わず、「標準機能に業務自体を合わせる」というノンカスタマイズ方針です。

  • GAKUENは、大学の事務・教務をトータルサポートするシステムで、全国400校以上に導入実績があります。
  • システム導入にあたり「カスタマイズしないことこそが最も安定した運用体制につながる」という哲学に基づき、各部門が自ら業務見直しに取り組みました。
  • 情報部のデジタル変革推進課を中心に、全学的な合意形成と推進体制が構築され、円滑な移行が実現しました。
  • 学内説明会などを活発に実施し、現場の不安や混乱(=ハレーション)についても丁寧に対応が進められました。

このアプローチにより、システム導入初期の大きな混乱もなく、履修登録やシラバス検索など学生の日常的な手続きが大幅に円滑化しました。さらに、コスト削減効果や学務データの一元管理による高度なデータ活用も進んでいます。API連携による公式アプリ「東北大アプリ」も運用準備が進められ、学生・教職員・保護者にとってより利便性の高いサービスが期待されています

東北大学が目指す「コネクテッドユニバーシティ」戦略

DXを推進する背景には、教育・研究・社会連携の高度化と意思決定の迅速化という大学全体の戦略があります。東北大学は、『コネクテッドユニバーシティ戦略』に基づき、さまざまな学務・経営データの統合解析を通じて、戦略的な大学運営を加速させようとしています。

  • 学生ポータル、履修支援、成績管理、統計分析など、あらゆる大学運営に必要な情報を一元管理。
  • 現場に即した柔軟な業務運用とデータに基づいた意思決定を両立し、教育現場の負担軽減とサービス品質向上を目指しています。

このシステム移行は、全国の高等教育機関でも注目を集めており、2025年6月にはセミナー形式で全国から過去最多493名がオンライン・現地参加を果たしました。東北大学の経験は、今後の大学DX推進におけるロールモデルとして広がりを見せています

変化する東北大学の受験事情――「地元離れ」が鮮明に

ところが、大学運営の近代化や教育改革が進む一方で、学生募集の現場には深刻な課題が浮かび上がっています。それが「地元志願者の著しい減少と都市圏志願者の増加」です。

  • 東北地方出身の東北大学志願者は、全体の約3割まで激減
  • 一方で、関東圏からの志願者が4割となり、地元比率を逆転
  • 特に首都圏の中高一貫校出身者による志願が増えている

これは、全国的に「地方大学離れ」「首都圏志望志向」が加速している状況を象徴するものです。また、首都圏の中高一貫校からの受験が活発化していることも、地域構造の変化・学歴志向の多様化・競争激化という社会的背景を反映しています。

志願者比率の変動要因――なぜ「地元離れ」が起きているのか

このような地元志願者の減少には、さまざまな要因が絡み合います。

  • 地元人口の減少や少子化による受験生母数の減少
  • デジタル化・国際化により、出身地を問わない進学志向の強まり
  • 首都圏進学校(中高一貫校など)において東北大学がより魅力的な進学先として認知
  • 地元受験生が「大学生活=都市圏」という価値観を志向しやすい

特に、東京都や神奈川県など大都市圏の中高一貫校出身者は、全国有数の大学へ進学すること自体に積極的です。また、大学進学に伴う経済的負担や下宿・単身生活への不安から、「地元志向」の学生が減少する傾向が続いています。

首都圏志望者増加のポジティブな側面

一方で、この「首都圏からの志望増加」は、東北大学が全国的知名度・ブランド力を着実に高めてきた結果とも評価できます。DXや教育改革の成果が日本全国、さらには海外にも広まり、多様な出身地域の学生が集う「グローバルユニバーシティ」に成長しつつあることの証でもあります。

  • 全国から質の高い学生が集い、学業・研究における多様性や国際競争力が向上
  • 地域出身学生との交流が活性化し、キャンパスの刺激や発展につながる
  • 地元企業や自治体にも新たな連携やイノベーション期待が生まれやすい

課題と今後へのまなざし――「地域密着」と「全国化」の両立

ここで重要なのが、地元との繋がり・地域密着型大学の価値をいかに維持・発展させるかという課題です。大学としては、単なる「志願者数の変動」という数字の問題だけでなく、地域社会とどう連携し、共に成長していくかという視点が求められます。

  • 地元高校との教育連携や進学支援、リクルート活動の再強化
  • 東北地方の産業・地域課題解決への大学としての貢献強化
  • 卒業生ネットワークや地元企業との協働による、地域「再投資」モデルの醸成
  • 在学生・新入生向けの東北地方体験やボランティア活動等の積極的なプログラム展開

こうした地域密着型の取り組みと、全国・世界からトップレベルの学生を受け入れる「開かれた大学経営」の両立が今後の焦点といえます。

まとめ

東北大学は学務情報DX化で全国をリードしつつ、志願者動向では「地元離れ・都市圏志望志向」という大きな変化に直面しています。デジタル化された効率的な大学運営による利便性や魅力向上と、地域に根ざした大学の役割とのバランスをとりながら、今後も新しい時代の高等教育モデルを模索し続けることが求められます。

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