AIで変わる税務調査 「142人に1人」の時代に知っておきたいこと
最近、「税務調査」や「追徴課税」という言葉をニュースで見かける機会が増えてきました。
国税庁が発表した最新のデータによると、個人の所得税に関する税務調査での追徴税額が1431億円となり、現在の集計方法になった2009年以降で過去最高を更新しました。申告漏れの所得金額は9317億円にも達し、その背景にはAI(人工知能)を活用した効率的な税務調査の広がりがあります。
一方で、「税務調査に入られる可能性はおよそ142人に1人」とも言われています。数字だけを見ると「自分には関係ない」と思ってしまいがちですが、国税庁は「狙うべきところ」をかなり絞り込んで調査を行っているのが実情です。
この記事では、最新のニュース内容をもとに、
- いま日本で何が起きているのか
- どのような人・業種が税務署に注目されやすいのか
- AI時代の税務調査のポイント
- 私たちが気をつけるべき実務的なポイント
を、できるだけわかりやすく、やさしい言葉で解説していきます。
所得税の追徴税額が「1431億円」で過去最高に
まず、今回大きく報じられているのが、個人の所得税に関する追徴税額が1431億円に達し、過去最高となったというニュースです。
国税庁の発表によると、
- 対象期間:2024事務年度(おおむね2023年7月〜2024年6月)
- 所得税の追徴税額:1431億円(前年度比33億円増)
- 過去最高を3年連続で更新
- 申告漏れ所得の総額:9317億円
- 所得税の実地調査件数:4万6896件(前年度比1.3%減)
- 申告漏れ件数(指摘件数):36万8727件
ここでポイントになるのは、
- 調査件数はむしろ少し減っている一方で
- 追徴される金額は増えている
という点です。つまり、「たくさんの人を一斉に調べる」というより、
「重点的に調べるべき人・案件を見極めて、深く調査している」
という方向に動いていると言えます。
AIが税務調査を後押し 「深度のある調査」を的確に
追徴税額が増えている背景として、国税庁はAI(人工知能)の活用を挙げています。
国税庁は、おととし7月からAIを使った本格的な調査を進めており、
- 短期間で申告漏れ所得を把握
- 高額・悪質と見込まれる案件を優先
- 「深度のある調査」を的確に実施
できたと説明しています。
具体的には、
- 過去の申告内容と売上・経費の推移
- 業種ごとの平均的な利益率
- 取引情報や外部データ
など、さまざまなデータをAIで分析し、「申告漏れが多そうな人」「金額が大きくなりそうな人」を機械的に絞り込んでいくイメージです。
結果として、
- 調査の件数自体は減っているのに
- 1件あたりの指摘額・追徴額は重くなりやすい
という状況が生まれています。
「142人に1人」でも油断は禁物 税務署が狙うのはどんな人?
一般的に、個人が税務調査を受ける確率は「およそ142人に1人」ほどと言われます。数字だけを見るとかなり低いように感じますが、AIの活用によって、「どの142人に1人になるのか」がより選別される時代になりつつあります。
税理士の解説などでは、税務署が「追徴課税を搾り取れそうな人」として注目しやすい共通点として、次のようなポイントがよく挙げられます。
- 現金商売が多い業種(売上のごまかしが理論的に可能)
- 高収入なのに、税額が相対的に少ないケース
- 売上の割に経費が過大に見えるケース
- 毎年の申告内容に不自然な変動がある人
- 過去に税務調査で指摘を受けたことがある人
AIが導入されることで、こうした特徴を持つ納税者は、数値的にあぶり出されやすくなります。
つまり、税務調査は「ランダムにやっている」のではなく、
「税務署が“成果の出やすいところ”を狙って調査をしている」
というイメージに変わってきていると考えると良いでしょう。
申告漏れの金額が大きかった業種ランキング
今回の発表では、業種別の申告漏れ所得金額(1件あたりの平均)も話題になりました。
国税庁のデータなどによると、
- 1位:キャバクラ 1件あたり4164万円
- 2位:眼科医 1件あたり3894万円
- 3位:ホステス・ホスト 1件あたり2698万円
- 4位:経営コンサルタント 1件あたり2734万円
- 5位:太陽光発電 1件あたり2142万円
という結果が報じられています。
ここで注意したいのは、
- 「キャバクラ」や「ホステス・ホスト」は現金取引が多い
- 「眼科医」や「経営コンサルタント」は高額な売上・報酬になりやすい
- 「太陽光発電」は減価償却や各種経費計上が複雑になりやすい
といった特徴があることです。
税務署としては、
- 売上の一部が申告されていない可能性
- 経費の計上が過大になっている可能性
を疑いやすく、それだけ調査の対象に選ばれやすい業種と言えます。
無申告者への追徴も過去最高 「申告しない」は特に狙われる
今回の発表では、無申告者に対する追徴税額が252億円となり、これも現在の集計方法になった2009年度以降で最高となったことも明らかになりました。
無申告とは、
- 本来、確定申告をする必要があるのに
- 申告そのものをしていない状態
を指します。
国税庁は、
- 銀行口座の入出金
- クレジットカード決済
- マイナンバーに紐づく各種情報
など、多くの情報をもとに「申告していない人」も把握しやすくなっています。
AIの活用により、
- 収入はあるはずなのに申告していない人
- 副業収入やネット収入などを申告していない人
を絞り込み、重点的に調査することが容易になってきています。
「少しぐらいバレないだろう」「副業だから大丈夫だろう」という感覚は、今の時代では非常に危険です。
「追徴課税を搾り取れそうな人」の共通点
ニュースや税理士の解説などを踏まえると、税務署が「追徴課税を取りやすい」と考えやすい人には、次のような傾向があると言えます。
- 現金取引が多く、売上をごまかしやすい業種(飲食店、風俗関連、自由診療の多い医療など)
- 高所得でありながら、税負担が比較的少なく見える人
- 売上や利益の推移が、統計的な平均から大きく外れている人
- 大きな赤字が連続していたり、経費が不自然に多い人
- 不動産や投資、太陽光発電など、税務が複雑な取引を多く行っている人
- 無申告、または過去に重加算税などの指摘を受けたことがある人
AIは大量のデータから「平均からのズレ」を検出するのが得意です。そのため、
・統計から見て不自然な数字を出している人
・過去の申告と比べて極端な変化がある人
ほど、リストアップされやすくなると考えられます。
税務調査に備えて「普通の人」ができること
ここまで読むと、不安が大きくなってしまうかもしれませんが、多くの人にとってもっとも大切なのは、
「きちんと申告し、証拠を残しておくこと」
です。
具体的には、次のような点を意識しておくと安心です。
- 帳簿や領収書をきちんと保管する
売上帳、経費の領収書、請求書、通帳のコピーなどを、できれば7年間は整理して保管しておきましょう。 - 現金の管理をあいまいにしない
現金商売の場合は、日々の売上や出金を正確に記録し、「レジと帳簿が合っている状態」を保つことが大切です。 - 副業・ネット収入も漏れなく申告する
フリマアプリ、動画配信、アフィリエイト、投げ銭など、ネット経由の収入も、継続的で規模が大きい場合は課税対象になります。 - 不明点は専門家に相談する
医師、コンサルタント、不動産投資家、太陽光発電事業者など、税務が複雑になりやすい業種の方は、税理士に早めに相談しておくと安心です。 - 「これはさすがにまずい」と思うグレーな処理は避ける
AIやデータ連携が進んでいる今、「バレないだろう」という発想はリスクが高くなっています。
AI時代の税務調査とどう付き合うか
AIの導入によって、税務署の調査は、
- よりピンポイントに対象を絞る
- より深く掘り下げる
方向に進んでいます。
一方で、
- 普通に正しく申告している人にとっては、大きな問題にならない
- 記録と説明がきちんとしていれば、調査が入っても落ち着いて対応できる
という面もあります。
大切なのは、
- 「税務署に狙われないようにする」のではなく
- 「いつ調査されても説明できる状態を作っておく」
という考え方です。
今回のニュースが示しているのは、
- AIなどの技術に支えられながら
- 「高額で悪質な申告漏れ」を重点的に是正していく
という、国税庁の明確な姿勢です。
「142人に1人」という確率に過度におびえる必要はありませんが、同時に、「自分だけは大丈夫」という根拠のない安心も危険です。
日々の取引をきちんと記録し、わからないことは早めに専門家に相談する――その積み重ねこそが、AI時代の税務調査へのいちばんの備えになると言えるでしょう。



