サントリーにおける「インテリジェンス部隊」の実像とその挑戦――新浪剛史氏が語る未来志向の経済安保

はじめに

近年、企業の経済安全保障が強く求められるようになっています。その背景には、グローバルな地政学リスクや、サプライチェーン分断、国際的な通商摩擦、そして急激な経済環境の変化など複合的な要因があります。サントリーは、こうした複雑で予見困難な時代の流れを先読みし、柔軟に対応するために「インテリジェンス部隊」と呼ばれる専門部署を設置しました。この動きは、経済安全保障を経営の中核に据え、グローバル競争環境を勝ち抜くための最先端の戦略的アプローチとして国内外の関心を集めています。

サントリーがインテリジェンス部隊を設置した理由

サントリーがインテリジェンス専門部隊の設置に動いた最大の理由は、企業自身が時代の変化やリスクを的確に分析し、自力で意思決定できる力を強化するためです。特に、米国のトランプ政権による関税強化など予想困難な国際経済の動きが頻発する今、経済安全保障対策は待ったなしの状況となっています。外部環境に左右されず持続的に事業を運営する力が、まさに「企業が主役」の経済安保時代に不可欠となっているのです。

経済安全保障と企業の役割――「経済安保、企業が主役」時代の到来

  • かつて経済の安全保障は国家がリードする印象があったが、近年では企業自らが主体となってリスク調査や対策を講じる必要性が高まっている。
  • 多国籍展開やグローバルサプライチェーンの強化に伴い、情報収集やインテリジェンス活動が欠かせない時代になってきた。
  • 適切なデータ分析と先見力を育成し、変化に迅速に対応できる組織体制が経営の生命線となっている。

「007のようなスパイ活動を行なうわけではありません」――インテリジェンス部門の実像

部隊とはいうものの、「インテリジェンス」とは特殊なスパイ活動を意味するのではありません。実際、サントリーの新浪剛史氏は「007のようなスパイ活動を行なうわけではありません」と明言しています。サントリーのインテリジェンス部門は、むしろ「事実に基づく分析・予測力」を重視した組織です。具体的には以下の役割を担っています。

  • 国際情勢や産業動向、法制度改正といった大局的な情報を広く収集。
  • データやファクトをもとに経営リスクを分析、危機管理体制を構築。
  • 国内外の専門家ネットワークや企業間連携を活用し、先見性をもった提言を経営層に届ける。

このように、サントリーのインテリジェンス部隊は「知の総合力」に優れた組織であり、機密情報を盗み出す活動というよりは、オープンなデータやパートナーとの連携による分析と提言を重視しています。

トップダウンで推進――新浪剛史氏のリーダーシップ

サントリーのインテリジェンス部隊設置は、経営トップである新浪剛史氏の強力なリーダーシップの下で進められました。新浪氏は「企業自らが主体的に世界の流れを読む」ことの重要性を繰り返し強調しています。外部からの受け身的な情報収集だけでなく、組織横断的な知見の集約と、戦略的な意思決定へとつなげる仕組みづくりに心血を注いできました。

さらに、インテリジェンス部隊の実効性を高めるためには、トップの明確なビジョンだけでなく社員一人ひとりが危機意識と先見性を持つことも不可欠とし、ボトムアップの意見集約にも取り組んでいます。これが「サントリーらしいオープンな風土」であり、強い統合ガバナンスの根幹をなしているのです。

「インテリジェンスは特定の肩書きや部門を超える力」――組織を支える人材戦略

  • インテリジェンス活動は単なる「部署」や「肩書き」に依存したものではない。
  • 多様な専門性と国際感覚を持った人材が、現場・管理職・経営層の垣根を超えて知見を共有し合う仕組みが必要。
  • 人材育成や情報リテラシーの強化が重要なテーマであり、社員の学び続ける姿勢が組織全体の先見力を引き上げている。

サントリーでは、ノウハウや知識を部門間で迅速に共有したり、国際的視野を持つ人材のリクルートや育成に積極的です。そのなかで「データ活用」や「ファクトに基づく議論」を会社全体に根付かせる文化形成も進めています。

インテリジェンス活動の実際――トランプ関税への先手、サプライチェーン最適化

具体的な成果の一つが、米国・トランプ政権による急激な関税政策に対するサントリーの「先手の対応」です。米国市場に依存する比重が大きく、グローバルサプライチェーンの一端を担うサントリーにとって、関税動向は生命線とも言える重要課題です。
インテリジェンス部隊では、ただ世界のニュースを追うだけではなく、複数のシナリオを想定し継続的にリスク分析を進めてきました。その結果、必要なサプライチェーンの見直しや、調達・販売ルートの最適化を他社に先駆けて実現するなど、事業継続と競争優位の両立につなげています。

課題とこれからの展望――人材力とデータ力の強化

サントリーのインテリジェンス部隊を率いる新浪剛史氏は、人材とデータの両面における課題も隠さず指摘しています。

  • 高度な分析力と情報リテラシーを持つ人材の確保・育成は、他企業でも課題となっている。
  • 国際情勢の不透明化が進む中で、データ収集やエビデンスベースの思考が重要性を増している。
  • AIや最新のデジタル技術を活用し、より精緻な予測やシナリオ分析を実現するインフラの整備が必須。

今後サントリーはさらに「開かれた知」の組織づくりに努めるとともに、多様なバックグラウンドを持つ人材交流、グローバルパートナーとの連携強化を通じて、世界レベルでの経済安全保障のモデルを構築していく方針です。

他社への波及と国内外での評価

  • サントリーのインテリジェンス部隊設置は、国内他大手企業にも強い影響を与えている。
  • サプライチェーンマネジメントや事業継続戦略の強化に向けて、様々な産業分野で同様の動きが加速している。
  • 国際的にもサントリーの事例は高く評価され、グローバル企業の経営事例として研究対象となっている。

まとめ――経済安保時代の羅針盤として

私たちが暮らす現代社会は、まさに「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」の時代です。サントリーのインテリジェンス部隊は、そのような時代の変化を機敏に読み解き、企業が持続的に発展するヒントを示してくれます。体制整備やデータ活用、人材育成など、国内企業が今後乗り越えなければならない課題は山積しています。しかし、リスクを「恐れるべき脅威」ではなく、「乗り越えるべき課題」として見つめ直し、知の結集で新しい答えを導き出す姿勢が、経営の羅針盤となることでしょう。

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