台湾が南アフリカへの半導体輸出を制限した理由とその影響

はじめに

台湾が2025年9月、南アフリカ向けの47品目にわたる半導体の輸出を制限するという異例の措置を発表しました。これは国際社会だけでなく産業界にも大きな衝撃と関心を呼んでいます。なぜ台湾は今回、南アフリカへの芯片(半導体)輸出規制に踏み切ったのでしょうか。本記事では、その背景と今後の展望についてやさしく解説します。

背景:台湾と南アフリカの外交摩擦

発端は2025年7月、南アフリカ政府が台湾の現地窓口機関「駐南アフリカ共和国台北連絡代表処」の名称を一方的に「駐ヨハネスブルク台北商務事務所」と変更したことでした。さらに、首都プレトリアからの移転要求や、格下げ扱いなども重なり、台湾はこれを「主権と国家の尊厳を著しく損なう粗暴な行い」と厳しく反発しました。

台北の外交部(外務省)は「南アフリカ側への厳正な抗議」を公式に表明。そこで南アフリカへの対抗措置として、半導体の輸出制限を含めた検討を開始しました。

なぜ半導体なのか?台湾の半導体産業の重要性

  • 台湾の半導体産業は、世界的にもジリツ的かつ中核的な地位を築いています。
  • IC設計では米国に次ぐ世界第2位、半導体製造や封止・検査(OSAT)でシェアトップを誇り、特にTSMCは最先端の2nmプロセスで2025年に量産開始予定など、技術力でも非常に高い評価を受けています。
  • また、台湾政府は技術革新・人材育成・サイエンスパーク政策など、産業競争力を保つためさまざまな施策を推進しています。
  • したがって、台湾の半導体無くして世界の自動車・電子機器産業の安定供給は難しいほど、サプライチェーンの要となっています。

南アフリカへの輸出制限、その狙いと影響

台湾政府は47品目の半導体および関連部材の南アフリカ向け輸出を2025年11月末以降、禁止すると明言しました。

  • この狙いは主に「南アフリカの主に自動車産業など、半導体依存度の高い現地産業へ直接的な圧力」をかけることです。
  • 南アフリカの自動車製造では、台湾製の半導体チップが欠かせないため、業界全体の生産計画や供給網に大きな混乱をもたらすことが予想されます。
  • 台湾としては「国家の尊厳を守るため、実効性のある手段を取らざるを得なかった」という立場を強調しています。

業界・国際社会の反応と今後の懸念

この発表を受けて、南アフリカの自動車業界は半導体不足による生産停滞やコスト増加への懸念を表明。2021~2022年の世界的な半導体不足による混乱を思い起こす声もあります。

一方、国際社会や日本などの主要自動車メーカーも、台湾発の半導体サプライチェーンの「地政学リスク」に一層注目するようになりました。台湾の半導体技術と供給の安定性はグローバル経済にも直結する重大な課題だと再認識されています。

  • 中国との関係悪化や米中貿易摩擦による半導体規制強化など、既に世界市場は高い不確実性にさらされています。こうした中、台湾の動きはさらなる波紋を呼んでいます。

他国への連鎖・波及リスク

台湾の今回の措置をきっかけとして、他国への半導体需要シフトや、新たな輸出規制合戦の懸念も浮上しています。もし各国が外交問題に絡めて半導体の供給制限に動けば、世界的なサプライチェーンの混乱が増幅するおそれもあります。

台湾の今後の外交方針と半導体政策

  • 台湾外務省は「国際社会の支持を得ながら、主権と産業の利益を守る」とし、今後も必要な時には経済的なカードを切る姿勢を崩していません。
  • また、産業のイノベーションや現地化推進、人材強化などを続行し、それと並行して外交面でも柔軟かつ強固な態度で交渉を進める方針を示しています。

まとめ

今回の「台湾、南アフリカへの半導体輸出制限」は、国家の主権と産業競争力を巡る外交的・経済的せめぎ合いの中で、非常に象徴的かつ重大な動きとなりました。背景には、南アフリカによる現地台湾機関の格下げをはじめとする外交摩擦があり、台湾は国家の尊厳を守るため、世界サプライチェーンの要である半導体輸出制限という強い手段に踏み切りました。

これにより南アフリカのみならず、世界の産業界や各国政府も改めて「半導体サプライチェーンの安定」に対する危機感を強めています。また、今後は同様の事態が他国でも起こる可能性も指摘されており、台湾の動向からますます目が離せない状況です。

今後とも、台湾と南アフリカをはじめ、世界各地での半導体供給リスクや外交関係の動向に注目が集まることでしょう。

参考元