パソナ館の「土のかおり」誕生秘話――大阪・関西万博 パソナネイチャーバースとエステーの挑戦

はじめに ―― 万博で体験する「土のかおり」

2025年に大阪・夢洲で開催されている大阪・関西万博。そのなかで注目を集めているのが、パソナグループが手掛けるパビリオン「PASONA NATUREVERSE(パソナネイチャーバース)」です。この会場では、見る・聞くに加え、「土のかおり」というユニークな体験型演出が大きな話題になっています。

その「土のかおり」を実際に製作したのは、家庭用芳香剤で知られるエステー株式会社(代表:上月洋氏)。今回は、パソナグループがどのような思いで「土のかおり」を求め、エステーがどんな試行錯誤を重ねて完成させていったのか、その舞台裏に迫ります。
参考:Lmaga.jp、PR TIMES、パソナグループ公式サイト

パビリオン「PASONA NATUREVERSE」のテーマと狙い

「いのち、ありがとう」というテーマを掲げたパソナのパビリオンは、最先端の医療技術や科学体験を通じて、生命と自然のつながりへの感謝や生きることの意味を来場者に訴えかけています。「iPS心臓」「未来の眠り」といった未来志向の展示に加え、「Wonder Earth」と題した展示コーナーでは、土の中に息づく微生物の世界を体感できるよう演出されています。

ここで特にこだわられたのが「土のかおり」です。パビリオン館長の小沢達也氏は、「人間は自然から生かされ、その循環に包まれているという実感を五感で感じてほしい。そのためには単なる視覚・聴覚だけでなく、嗅覚にも訴えかける必要があった」と語ります。

誕生のきっかけ――パソナとエステーの運命的な出会い

パソナグループはパビリオンでリアルな自然体験を演出するため、市販の土や香りだけでは満足できず、独自の「本物の土のかおり」を創り出す道を探し始めました。そこで白羽の矢が立ったのが、芳香剤や消臭剤で高い技術を持つエステー株式会社でした。

エステーは、企業として嗅覚体験の価値や「香り」の再現性に高い評価がありました。2025年8月29日には、パソナとエステーは今後の包括業務提携を発表し、両社は新たな共創プロジェクトに乗り出すことが公表されます。

製作秘話――「違う、もっと土の匂いにしてくれ」

この「土のかおり」には、パソナ側からの厳しい注文が何度も飛びました。最初にエステーが提供した試作品を香ってみたパビリオンメンバーから返ってきたのは、「違う、もっと土の匂いにしてくれ」という一言。
何度も試作を重ね、「もっとリアルに」「もっと微生物が生息する豊かな土の感じを」というリクエストに応える形で、エステーは微細なバランスで香りをブレンドし続けたのです。

  • 木の根や落ち葉、微生物、生き物、カビ、鉱物――
    それぞれが持つ独特の芳香を細かく再現することにこだわり、単なる「森林の香り」や「大地の香り」とは一線を画したものに仕上げていきました。
  • 土の持つしっとりとした「湿度感」や、太陽の光を浴びた後の独特の匂いなど、「人の記憶のどこかにある土」を追求してブレンドを続けました。

開発メンバーは「私たちが思っていた以上に、土へのイメージや記憶は人それぞれ。誰もが心地よく包まれる“土のかおり”を探しながら、何十回もの調整を繰り返した」と述懐しています。また、感性だけではなく科学的な分析(ガスクロマトグラフによる成分分析など)も取り入れて、きわめてリアルな「土のかおり」に近づけていきました。

「Wonder Earth」――土のなかの世界を五感で体感

パビリオン内の「Wonder Earth」は、光を落とし静かなBGMが流れる空間。土に住む無数の微生物の営みや、生き物たちの世界が映像・音・香りで体現されています。来館者は「土のかおり」に包まれることで、まるで大地にもぐったかのような没入感を味わうことができます。

微生物の世界は、枯れ葉や木の根、鉱物、動物、カビなど様々な要素が複雑に絡み合い循環しています。パソナはこの本物の「自然の循環」の中に身をおき、人間も自然の一部だという感覚を呼び覚ます場にしたかったといいます。

香りがもたらす新たな発見――「嗅覚」が心に残る展覧会に

「香り」は古くから人類の暮らしの中で大切な役割を果たしてきました。懐かしい土地や思い出深い場所のにおいは、記憶と結びつき、心に深く残ります。
万博パソナ館の「土のかおり」もまた、来館者の記憶のどこかに刻まれる存在となっているのです。

  • 多くの来場者が「本当に土のなかに入ったみたい」「懐かしい匂いがして、自然を身近に感じた」といった感想を残しています。
  • 博覧会を体験した子どもたちにとっても、「土=生命の源」という感覚を身体で覚える貴重なきっかけになるかもしれません。

エステーは、これまで家庭用の芳香剤分野で蓄積してきた知見と技術力を生かしながら、「香りをまとう空間創造」という新しい価値創出に挑戦した形となりました。

パソナとエステーの今後――共創プロジェクトの展望

この「土のかおり」製作をきっかけに、パソナグループとエステーはウェルネス事業共創プロジェクトとして新たな事業共同の第一歩を踏み出しました。今後は健康や自然との共生をテーマとした空間演出やサービス創出も視野に入れ、両社は連携を深化させていく予定です。

パソナグループは創業以来「社会の問題点を解決する」ことをミッションに掲げてきました。今回の土のかおりプロジェクトは、「感性や心の健康」とも深く結びつく新しい挑戦として、これからの企業活動に大きな示唆を与えています。

おわりに ―― 大地の匂いを感じて、いのちに感謝する

2025年大阪・関西万博「PASONA NATUREVERSE」の「土のかおり」には、単なる演出を超えた「人間と自然の距離を縮める力」が宿っています。それは、忙しい毎日に忘れがちな自然や生命への感謝、ともに生きているという実感を呼び覚ます特別な体験です。

来場者はこのパビリオンで、未来技術と自然の融和、新しいライフスタイルや社会を考えるヒントをきっと得られることでしょう。

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