日本企業役員の報酬が急上昇 配当含めると217億円も

東洋経済が発表した最新の企業役員データから、日本の上場企業における役員報酬の実態が明らかになりました。年収1億円を超える役員が急増する中、報酬体系の多様化が進んでいることが浮き彫りになっています。

役員報酬ランキングで見える新しい傾向

2025年度の上場企業役員報酬ランキングで注目すべきは、ソフトバンクグループのレネ・ハース氏が初めてトップの座に登りつめたことです。彼の役員報酬総額は49億0400万円に達し、昨年2位から大躍進を遂げました。前年度の34億5800万円から大幅に増加しており、約50億円に迫る水準となっています。

2位にはダイキン工業の井上礼之氏が44億0500万円でランクインしましたが、この金額には取締役退任時に支給される特別功績金43億円が含まれています。3位は昨年まで1位だったセブン&アイ・ホールディングスのジョセフ・マイケル・デピント氏で、43億4900万円の報酬を得ています。デピント氏はアメリカのセブン-イレブンのトップとして活躍する人物です。

特に注目すべきは、役員報酬が10億円を超える役員が19人も存在することです。これは日本企業の経営層における報酬の集中化が進んでいることを示唆しています。一般的なビジネスパーソンの生涯給料の目安とされる2億円以上の報酬を得ている役員は371人に上り、前年度の329人から大幅に増加しました。

配当収入を含めると景色が変わる

しかし、報酬だけが役員の収入ではありません。自社株の保有による配当収入を含めると、報酬体系の全貌がより鮮明に見えてきます。

配当を含めた総収入でランキングを再構成すると、1位になるのはユニクロやジーユーを展開するファーストリテイリングの柳井正氏です。彼の総収入は217億5600万円に達しており、昨年の177億2700万円から40億円以上も増加しています。興味深いことに、彼の役員報酬自体は4億円に過ぎず、残りの213億5600万円はすべて配当収入です。これは大型株主としての彼の地位を如実に物語っています。

2位はソフトバンクグループの孫正義氏で、昨年1位から順位を下げました。彼の総収入は188億7300万円で、役員報酬は1億円、配当収入が187億7300万円となっています。孫氏も柳井氏と同様に、会社が生み出す利益を配当という形で受け取る比率が圧倒的に高いことが分かります。

3位にはソフトバンクグループの宮川潤一氏がランクインし、総額85億0400万円の収入を得ています。興味深いことに、トップ10には3人のソフトバンクグループ関連役員が名を連ねており、この企業グループにおける報酬水準の高さが際立っています。

日本企業の報酬戦略の変化

今回のランキングから読み取れるのは、日本企業における報酬戦略が大きく変わりつつあるということです。従来、日本企業の役員報酬は年功序列や基本給を中心とした堅実な体系が主流でした。しかし、グローバル化の進展に伴い、国際的な競争力を維持するために、より高額な報酬体系が採用されるようになってきました。

特に海外の事業展開が大きい企業では、グローバルスタンダードに合わせた報酬制度の導入が進んでいます。セブン&アイ・ホールディングスやソフトバンクグループなど、国際的な事業を展開する大型企業がランキングの上位を占めているのは、こうした傾向を反映しています。

また、株主価値の向上に対する経営層の貢献度が高い企業ほど、配当による追加的な収入が大きくなる傾向も見られます。柳井氏や孫氏の例からは、単なる給与としての報酬だけでなく、企業の成長に伴う株価上昇の恩恵を大きく受ける構図が浮き彫りになっています。

一般職との報酬格差の拡大

こうした高額報酬の一方で、一般的なサラリーマンとの給与格差は急速に拡大しています。2億円以上の報酬を得ている役員が371人に増加したという事実は、経営層と一般社員との間の収入格差が急速に広がっていることを意味しています。

円安やインフレの影響で経済環境が厳しくなる中、大手企業の経営層の報酬だけが大幅に増加している状況は、今後の労働政策や企業統治に関する議論にも影響を及ぼす可能性があります。

今後の見通し

東洋経済の『役員四季報2025年版』と『役員四季報2026年版』のデータが示すこうした傾向は、日本企業が国際競争の中で、いかに優秀な経営人材を確保・留任させるかに注力していることを物語っています。今後も、グローバルスタンダードに沿った高額報酬体系の導入が進むと予想されます。

同時に、こうした報酬体系が持続可能なのか、また企業の長期的な成長にとって最適なのかについては、株主や従業員、さらには社会全体から検証される必要があるでしょう。企業統治の透明性と説明責任がますます求められる時代となってきたのです。

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