ソフトバンクグループが約8200億円でABBロボティクス事業を買収

ソフトバンクグループ株式会社は2025年10月8日、スイスの大手電機メーカーABB Ltdのロボティクス事業を総額53億7500万米ドル(約8187億円)で買収すると発表しました。この買収は、同社が掲げる「フィジカルAI」戦略の中核を担う重要な投資として位置づけられています。

買収の概要と今後のスケジュール

今回の買収では、ABBがロボティクス事業をカーブアウトして持株会社を新設し、ソフトバンクグループが子会社を通じて同持株会社の全株式を取得する形となります。買収金額は53億7500万米ドルで、1米ドル152.31円で換算すると約8187億円に相当します。

本買収は2025年10月8日(中央ヨーロッパ時間)付でABBと最終的な契約を締結されましたが、完了には規制当局の承認が必要です。具体的には、EU(欧州連合)、中国、米国を含む必要な規制当局の承認、その他の一般的なクロージング要件の充足を条件としており、買収完了は2026年半ばから後半になる見込みです。

ABBロボティクス事業の実力

買収対象となるABBのロボティクス事業は、産業用ロボット分野において世界トップクラスの地位を確立しています。2024年12月期の売上高は22億7900万米ドル(約3473億円)に達し、世界中で約7000人の従業員を擁する大規模な事業となっています。

ABBロボティクスは、高いブランド力と強固な販売チャネル、そして幅広い顧客基盤を持つことが大きな強みです。エレクトリフィケーションとオートメーションのグローバルテクノロジーリーダーとして、長年にわたって培ってきた技術力と市場での信頼性は、産業界において高く評価されています。

孫正義氏が描く「フィジカルAI」のビジョン

ソフトバンクグループの代表取締役会長兼社長執行役員である孫正義氏は、今回の買収について「ソフトバンクグループの次のフロンティアはフィジカルAIだ」と明確に述べています。

孫氏は「ABBロボティクスとともに、共通のビジョンの基、世界トップレベルの技術と人材を結集し、ASI(人工超知能)とロボティクスを融合させることで、人類の未来を切り開く画期的な進化を実現していく」とコメントしており、この買収が単なる事業拡大ではなく、同社が目指す長期的なビジョンの実現に向けた戦略的な一手であることを強調しています。

ASI実現に向けた4つの投資分野

ソフトバンクグループは現在、人類の進化に資するASI(人工超知能)の実現を目指して、積極的な投資活動を展開しています。その投資戦略は4つの重点分野に集中しています。

AIチップ分野では、AIの処理能力を支える半導体技術への投資を進めています。AIロボット分野では、今回のABBロボティクス事業の買収がまさにその中核となります。AIデータセンター分野では、膨大なデータ処理を可能にするインフラへの投資を行い、そして電力分野では、これらすべてを支えるエネルギー供給体制の構築に取り組んでいます。

今回のABBロボティクス事業の買収により、このうちAIロボット事業が大幅に強化されることになります。ソフトバンクグループは、AIをはじめとする先端分野への投資を通じて、ABBのロボティクス事業の成長を再び加速できるとしています。

ABBロボティクスとソフトバンクの相乗効果

今回の買収の最大のポイントは、ABBロボティクスが持つ製造技術や業界の専門知識と、ソフトバンクグループが持つAI、ロボティクス、次世代コンピューティングにおける最先端の能力を組み合わせることで生まれるシナジー効果にあります。

ABBロボティクスは長年にわたって産業用ロボット分野で培ってきた確かな技術力と、世界中に広がる顧客ネットワークを持っています。一方、ソフトバンクグループは人工知能やディープラーニングなどの最新テクノロジーへの投資と研究開発で先行しています。この両者が融合することで、従来のロボット技術にAIの知能が加わり、より高度で自律的なロボットシステムの開発が可能になると期待されています。

世界的なAIロボット開発競争の激化

今回の大型買収の背景には、米国と中国を中心に世界的に過熱しているAIロボット開発競争があります。人工知能技術の急速な発展により、これまで人間が行っていた複雑な作業をロボットが代替できる可能性が高まっており、製造業だけでなく、物流、医療、サービス業など、あらゆる産業分野でAIロボットの活用が期待されています。

このような状況下で、ソフトバンクグループは約8200億円という巨額の投資を決断しました。これは同社が、AIロボット市場の将来性を高く評価し、この分野でグローバルリーダーとしての地位を確立しようとしていることを示しています。

ABB側の戦略転換

一方、売却側のABBにとっても、今回の取引は重要な意味を持ちます。ABBは当初、ロボティクス部門を独立上場会社として分離する計画を持っていましたが、ソフトバンクグループからの買収提案により、この計画を変更しました。

ABBは売却によって得られる資金を、資本配分の原則に従って活用する予定です。売却完了時には約24億ドルの利益が計上される見込みで、取引コストを差し引いた実質的なキャッシュ収入は約53億ドルと見込まれています。また、2025年第4四半期以降、ロボティクス部門は非継続事業として報告されることになります。

ABBは今後、報告体制を見直して3つの事業領域へ移行する予定です。現在ABBロボティクスとともにロボティクス&ディスクリート・オートメーションを構成しているマシンオートメーション部門は、プロセスオートメーションに統合されることになっています。

株式市場の反応

今回の買収発表を受けて、ソフトバンクグループの株価は切り返しの動きを見せました。市場関係者の間では、この大型買収が同社の事業ポートフォリオに新たな局面をもたらすとして、注目を集めています。

約8200億円という投資額は決して小さくありませんが、ASI実現という長期的なビジョンに向けた戦略的投資として、投資家からも一定の評価を得ているようです。

今後の展望

2026年半ばから後半に予定されている買収完了後、ソフトバンクグループとABBロボティクスがどのような製品やサービスを生み出していくのか、業界内外から大きな注目が集まっています。

特に、ASIとロボティクスの融合によって、どのような革新的なソリューションが誕生するのか、その具体的な成果が期待されています。産業用ロボットの分野だけでなく、将来的には家庭用ロボットやサービスロボットなど、より幅広い領域への展開も視野に入っているものと考えられます。

今回の買収は、ソフトバンクグループにとって、AI技術とロボティクス技術を融合させた新しい事業領域を切り開く重要な一歩となるでしょう。世界中の約7000人の専門人材と、確立された販売チャネル、そして高い技術力を持つABBロボティクス事業を取り込むことで、同社のフィジカルAI戦略は大きく前進することになります。

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