寝台特急「サンライズ出雲」東京発24分繰り上げへ ダイヤ改正で変わる“夜の鉄道”事情
JR各社が発表した来春のダイヤ改正で、寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の下り列車(東京発)の発車時刻が24分繰り上げられることになりました。これにあわせて、東海道・北陸の新幹線でも、新たな始発「のぞみ」や「かがやき」臨時便の増発が行われます。どれも、夜間や早朝の輸送を見直しつつ、安全性や利便性を両立させようという動きです。
サンライズ出雲とは?いまや「最後の定期夜行列車」
「サンライズ出雲」は、東京と島根県の出雲市を結ぶ寝台特急で、同じ車両で東京〜高松間を走る「サンライズ瀬戸」とともに、日本で唯一残る定期運行の夜行寝台特急です。 東京〜岡山間は瀬戸・出雲が連結して走り、岡山で切り離されて、それぞれ出雲市方面と高松方面へと向かいます。
現在も根強い人気があり、「いつか乗ってみたい列車」としてもよく名前が挙がる列車ですが、そのダイヤが大きく見直されることになりました。今回のニュースの中心となるのは、この下り(東京発)サンライズ瀬戸・出雲の発車時刻です。
東京発が21時50分→21時26分に 24分の繰り上げ
JR東海などの発表によると、2026年3月14日のダイヤ改正から、下り「サンライズ瀬戸・出雲」(東京→高松・出雲市)の東京駅発車時刻は、現在の21時50分から21時26分へと24分繰り上がります。
あわせて、途中駅の時刻も前倒しされます。
- 横浜・熱海・沼津・富士・静岡・浜松の各駅の出発時刻がおおむね18〜26分繰り上げ
- 一例として、横浜は21時52分発、静岡は23時59分発、浜松は0時54分発に変更と案内されています(現行からの繰り上げ)。
- 浜松駅以西(岡山・高松・出雲市方面)の時刻は変更なし
つまり、「東京〜浜松」までの夜間の走行パターンだけを前倒しすることで、浜松以降の接続や現地到着時刻は極力変えないようにしている、というイメージです。
なぜ発車時刻を繰り上げるの?背景に「夜間保守時間」の確保
気になるのは、「なぜ発車を早める必要があったのか」という点です。JR東海は、その理由として「鉄道施設の持続的な維持管理に向けて、夜間の保守作業時間を拡大するため」と説明しています。
線路や設備の点検・補修といった保守作業は、多くが列車の本数が少ない深夜帯に行われます。とくに東海道線のような幹線では、終電から始発までのわずかな時間に、集中的に作業を行わなければなりません。
サンライズ瀬戸・出雲は夜行列車として夜通し走り続けるため、どうしても保守に使える「列車の空白時間」は限られてしまいます。そこで、東京〜浜松の時間帯を前倒しし、列車が通過しない時間を少しでも長く確保することで、今後の安全運行に必要な保守時間を確保しようとしているのです。
なお、今回の見直しで変更があるのは下り列車(東京→出雲市・高松)のみで、上り列車(出雲市・高松→東京)の時刻は変わりません。 これは、主に保守作業を行いたい時間帯や区間が下り列車のダイヤと重なっているためです。
所要時間はやや増加 それでも「乗りやすさ」を優先
興味深いのは、東京〜出雲市間の所要時間です。現行では約12時間10分ですが、ダイヤ改正後は約12時間34分と、20分強ほど長くなります。
出発を早めているのに所要時間が増えるのは一見不思議ですが、これは一部区間で速度を落としたり、停車時間を伸ばしたりすることで、後続列車との間隔や線路の使用パターンを調整しているためとみられます。 保守時間をきちんと確保しつつ、早朝以降のダイヤ全体のバランスをとるための工夫と言えるでしょう。
利用者から見ると、「東京での出発が早くなるのは少し不便」と感じる人もいるかもしれませんが、その一方で、日本の鉄道の安全を守るための大切な時間を確保する取り組みでもあります。今後も長くサンライズ出雲に走り続けてもらうための、必要な調整といえるでしょう。
東海道新幹線:京都始発の「上りのぞみ」が新登場
今回のダイヤ改正では、在来線だけでなく新幹線東海道新幹線で京都駅始発となる「上り」の『のぞみ』が運行されるというニュースです。東海道新幹線の開業以来、京都発の上り始発「のぞみ」が設定されるのは初めてと報じられています。
これまで、上りの「のぞみ」は主に新大阪などから東京方面へ向かう列車が中心でしたが、新たに京都駅を始発とする上り便が加わることで、
- 京都からより早い時間に東京方面へ移動したいビジネス客
- 早朝便の飛行機や他路線への乗り継ぎをねらう利用者
などにとって、利便性が高まることが期待されます。
京都は観光都市であると同時に、多くの企業や大学が集まるビジネス・学術都市でもあります。朝早くに東京へ向かうニーズは少なくなく、これまで「新大阪まで一度移動してから」というケースもあったかもしれません。京都始発の「のぞみ」ができることで、京都からのダイレクトなアクセスがさらに強化されることになります。
北陸新幹線:臨時「かがやき」増便で観光・ビジネスを後押し
また、北陸エリアでは北陸新幹線「かがやき」の臨時便増発が予定されています(HAB北陸朝日放送などが報道)。「かがやき」は東京〜金沢間などを結ぶ速達タイプの列車で、停車駅を絞ることで所要時間を短縮しているのが特徴です。
臨時便の増発は、主に観光シーズンや連休、帰省・出張が集中する時期にあわせて行われると見られます。北陸新幹線は延伸により沿線の観光地やビジネス拠点へのアクセス向上に大きな役割を果たしており、利用者の増加にこたえる形で、
- 混雑の緩和
- 座席確保のしやすさの向上
- 東京〜北陸間移動の選択肢拡大
といった効果が期待されます。
北陸は、金沢をはじめとする歴史ある街並み、温泉地、日本海の海の幸など、魅力的な観光資源が豊富な地域です。臨時「かがやき」が増えることで、首都圏からの週末旅行・観光旅行の計画も立てやすくなるでしょう。
夜行列車と新幹線、それぞれが担う役割の変化
今回の三つのニュースは、一見バラバラの話題のようですが、どれも「鉄道ダイヤを見直すことで、安全性と利便性の両立を図る」という共通のテーマがあります。
- サンライズ出雲・瀬戸:夜間保守時間の確保を優先しつつ、夜行列車としての役割を継続
- 東海道新幹線の京都始発「のぞみ」:朝の移動需要に応える新たな時間帯の提供
- 北陸新幹線「かがやき」臨時増便:観光・ビジネスのピーク需要への柔軟な対応
サンライズ出雲は、夜を活かして「寝ている間に遠くまで移動できる」列車として、多くのファンに愛されてきました。一方、新幹線は短時間で都市間を結び、ビジネスや観光のスタイルを変えてきました。今回のダイヤ改正は、夜行列車と新幹線、それぞれの役割を時代に合わせて調整していくプロセスのひとつとも言えます。
利用者への影響と、これからの「サンライズ出雲」との付き合い方
では、実際に列車を利用する側には、どのような影響があるのでしょうか。ポイントを整理すると、次のようになります。
- サンライズ出雲・瀬戸(下り)を利用する人は、東京出発が24分早くなるため、仕事終わり等での乗車を考えている場合、時間に余裕を持った行動が必要になります。
- 一方で、到着時刻は大きく変わらないため、現地での予定自体は組みやすいままです。
- 上りサンライズ出雲・瀬戸を利用する場合は、時刻に変更がないため、これまでどおりの感覚で利用できます。
- 京都始発の上り「のぞみ」ができることで、京都から東京方面への早朝移動の選択肢が増えます。
- 北陸新幹線「かがやき」の臨時増便により、混雑がやわらぎ、繁忙期の座席確保がしやすくなることが期待されます。
サンライズ出雲は、ダイヤの繰り上げにより少しだけ「早寝」が求められる列車になるかもしれませんが、それでも夜を走る寝台特急に揺られて、翌朝には山陰や四国に着いているという旅の価値は変わりません。
鉄道会社が保守時間をしっかり確保しようとしている背景には、「これからも安全にこの列車を走らせ続けたい」という思いがあります。利用者としては、新しい時刻をきちんと確認したうえで、サンライズ出雲ならではの旅情を、これからも大切に味わっていきたいところです。
そして早朝・日中の移動は新幹線が、夜をまたぐ移動はサンライズのような夜行列車が、それぞれの得意分野で私たちの暮らしと旅を支えてくれます。今回のダイヤ改正は、その「役割分担」をより明確にしながら、安全性と便利さを高いレベルで両立させていくための一歩と言えるでしょう。




