シェル、ロッテルダムのバイオ燃料プロジェクト撤退──揺らぐ「グリーン燃料」の夢と航空業界の未来

はじめに

近年、「カーボンニュートラル」や「サステナブルな未来実現」のために多くの企業が脱炭素社会への移行を目指しています。航空、運輸、エネルギー分野では、バイオ燃料の活用がその切り札として大きな期待を集めてきました。そんな中、世界的なエネルギー大手シェルによるロッテルダムの大規模バイオ燃料プラント計画が2025年9月、断念されたニュースは、持続可能なエネルギー政策や「グリーン燃料」シフトを夢見る多くの関係者に大きな衝撃を与えました

プロジェクトの概要と歴史

  • 計画されていたプラント: オランダ・ロッテルダムに820,000トン/年のバイオ燃料製造施設を新設する計画。2021年9月に正式承認され、2025年の稼働を目指していました
  • 主な製品: 航空業界向け持続可能航空燃料(SAF)、再生可能ディーゼル(HVO)などを廃棄物由来の原料から生産する予定でした
  • ターゲット分野: 航空運輸・陸運業界の脱炭素化要求に応えると同時に、シェル自体も事業ポートフォリオの「低炭素化」を目指していました

建設中止の背景とシェルの判断理由

シェルは当初、このプラントを「脱炭素の象徴」として位置づけ、30年までに世界の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す動きの一環と位置付けていました。しかし、2024年7月に一時的な建設中断を発表、その後2025年9月に正式なプロジェクト撤退を公表しました

  • 理由1:市場環境の悪化

    近年の原料価格高騰、バイオ燃料市況の不透明感、競合他社の増加──複数の要因が絡み合い、プラントの事業収益性が見込めなくなったためです。シェルの再評価により「十分な競争力を持ち、顧客ニーズ(手頃な価格の低炭素製品)に応えられない」と判断されました

  • 理由2:株主への説明責任と投資ポートフォリオ再編

    シェルは資本効率を重視し、より高収益が期待できる事業への集中に舵を切っています。再生エネルギーや低炭素型事業の見直し、主力である石油・ガス事業への回帰という「戦略的方針転換」の一例とも言えるでしょう

「グリーン燃料」への期待と現実

シェルの撤退は、産業界が期待していた「バイオ燃料による脱炭素化」に大きな疑問を投げかけています。

  • 持続可能航空燃料(SAF)普及の壁:

    SAFは飛行機のCO2排出量削減に直結する画期的技術ですが、商業化までのコスト、価格競争力、十分な原料供給など障壁が多く残されています。大量導入には政府の支援政策、市場全体の拡大が鍵ですが、現状は「供給の安定性」と「採算性」の両立が難しいのが現実です

  • グローバルな競争激化とコスト問題:

    特に中国やシンガポールなどアジア諸国がバイオメタノール/バイオ燃料供給拠点化を進め、ヨーロッパの競争力が相対的に低下しています。輸送・運用にかかるコストや国際的なルール整備の遅れも足かせとなっています。

市場と社会への影響

  • 航空・運輸業界:

    欧州では「持続可能な航空燃料の普及」がEU政策として義務化されつつあります。大手ハブでの供給期待が高まっていただけに、シェルの撤退により今後の供給計画見直しや追加投資の遅れが懸念されています。

  • 再生可能エネルギー産業:

    投資環境の不透明化により、他社の新規参入意欲やドイツ、イギリスなど欧州全体のバイオ燃料プロジェクトに広く影響が及ぶ可能性があります。

  • エネルギー市場全体:

    シェルの「撤退」は象徴的な出来事の一つですが、それでもバイオ燃料やSAFの需要自体は引き続き増加すると見られます。競合他社や新興企業、また国によっては事業化を推し進める動きも健在であり、グローバルな競争局面は続くでしょう

専門家・関係者の声

  • エネルギー経済アナリスト:

    「シェルの決定は短期的にはショックですが、市場原理から見ればやむを得ません。今後は国際的な技術連携や生産コスト低減の取り組みが求められます」

  • 航空業界担当者:

    「持続可能な燃料の大量供給が見込めず、カーボンニュートラル運航へのロードマップが再検討を迫られています」

  • 環境NGO:

    「企業による大型プロジェクトの断念が続くようであれば、規制強化や政府主導の再投資を模索する必要があります」

今後の見通しと課題

脱炭素社会への道のりには、技術革新だけでなく、政策支援、サプライチェーン強化、そして業界全体の協力が必要です。バイオ燃料分野での「夢と現実」をきちんと見極めつつ、中長期的な視点からの戦略的な取り組みが求められています。

  • イノベーションとコスト削減を両立させた新技術開発
  • 国際的な認証制度の普及と推進
  • 国・地域ごとの政策連携、官民共同イニシアチブの拡大

私たちはこれからも「持続可能な社会」実現のため、今一度根本的な課題と向き合い、次の一歩を考えていく必要があります。

参考元