SGLT2阻害薬が関節リウマチ予防に期待、最新研究で明らかに

2型糖尿病の治療薬として広く使用されているSGLT2阻害薬に、自己免疫性リウマチ性疾患の発症リスクを低減する効果がある可能性が、大規模な研究によって示されました。2025年10月15日にBMJ誌に発表されたこの研究結果は、医療関係者の間で大きな注目を集めています。

韓国の大規模研究が示した予防効果

韓国の全国データベースを用いた集団ベースのコホート研究では、成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用が、自己免疫性リウマチ性疾患のリスクに与える影響が詳細に評価されました。研究チームは、SGLT2阻害薬を新規に開始した患者群とスルホニル尿素薬を開始した患者群を比較することで、興味深い結果を導き出しました。

分析の結果、SGLT2阻害薬がリウマチ性疾患のリスクを11%低下させることが明らかになりました。ハザード比は0.89と算出され、この効果は年齢や性別などのサブグループ間でも一貫して認められました。特に注目すべきは、炎症性関節炎のリスクが顕著に低下した一方で、全身性の自己免疫疾患には明確な影響が見られなかった点です。

SGLT2阻害薬の多彩な治療効果

SGLT2阻害薬は、正式にはナトリウム-グルコース共輸送体-2阻害薬と呼ばれ、もともとは2型糖尿病の血糖コントロールを目的として開発された薬剤です。この薬は腎臓に存在するSGLT2タンパク質を阻害することで、尿中に排泄されるグルコースの量を増加させ、血糖値を低下させる仕組みを持っています。

しかし近年の臨床試験により、SGLT2阻害薬には血糖降下作用以外にも複数の有益な効果があることが次々と明らかになってきました。心血管保護効果や腎保護効果、体重減少効果に加えて、免疫調節作用を持つことが確認されており、2024年現在では糖尿病だけでなく慢性腎臓病や心不全の治療薬としても広く使用されています。

基礎研究が裏付ける抗炎症メカニズム

SGLT2阻害薬が自己免疫性リウマチ性疾患のリスクを低減するメカニズムについては、基礎研究レベルで抗炎症作用が確認されています。これらの薬剤が持つ免疫調節効果が、炎症性の関節疾患の発症を抑制している可能性が示唆されています。

ただし、臨床的な意義は大きいものの、リウマチ性疾患自体がまれな疾患であるため、絶対的なリスク差は比較的小さいという点も指摘されています。研究では、治療必要数(NNT)が15,385と算出されており、これは約1万5千人を治療することで1人の発症を予防できる計算になります。

実臨床での適用に向けた課題

今回の研究結果は画期的ではありますが、研究者たちは慎重な姿勢を示しています。SGLT2阻害薬には既知の有害事象も存在するため、新たに発見された予防効果と既存のリスクを慎重に比較検討する必要があります。

特に注意すべき副作用として、正常血糖ケトアシドーシスの報告があり、適正使用が強く求められています。また、高齢者への使用については、サルコペニアやフレイルを助長する可能性も指摘されており、個々の患者の病態や社会背景に応じて慎重に検討することが推奨されています。

BMIによる効果の違いも明らかに

東京大学の研究グループによる2025年2月の発表では、SGLT2阻害薬の腎保護作用に対する体格指数(BMI)の影響が初めて明らかにされました。日本の大規模医療データベースを解析した結果、SGLT2阻害薬の腎保護作用は幅広いBMI範囲の2型糖尿病患者で認められ、特にBMI高値の患者においてその効果が増強されることが示されました。

この知見は、実臨床においてSGLT2阻害薬を処方する際の患者選択の指針となる重要な情報といえます。医師が治療方針を決定する際に、患者の体格も考慮要素の一つとして活用できる可能性が広がりました。

市場規模の拡大と今後の展望

SGLT2阻害薬の市場は着実な成長を続けており、2024年には世界市場規模が19.2億米ドルと評価されています。2025年から2034年にかけては20.4億米ドルから38.6億米ドルへと成長すると予測されており、その背景には糖尿病以外の適応拡大が大きく寄与しています。

エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジンといった代表的なSGLT2阻害薬は、すでに非糖尿病患者における心不全や慢性腎疾患の治療でも規制承認を得ており、医師が一つの治療で複数の合併症に同時に対処できる利点が評価されています。

さらなる検証が必要

今回の韓国での研究結果は非常に有望ですが、研究者たちは他の集団や異なる医療環境での追加検証が必要だと強調しています。特に長期的な追跡調査や、GLP-1受容体作動薬との比較研究(現時点では両者に差は見られていません)など、さらなるエビデンスの蓄積が求められています。

また、自己免疫性リウマチ性疾患の予防という新たな適応については、今後の臨床試験や実臨床でのデータ収集を通じて、より確実な証拠を積み重ねていく必要があります。医療現場では、この予防効果を期待しつつも、個々の患者の状態に応じた適切な判断が重要となります。

リウマチ治療薬の開発動向

SGLT2阻害薬の予防効果に注目が集まる一方で、関節リウマチの治療薬開発も活発に進められています。製薬企業各社は独自の候補化合物の開発を進めており、新たな治療選択肢の提供に向けた取り組みが続いています。

リウマチ性疾患の治療において、予防と治療の両面からアプローチが進展していることは、患者にとって大きな希望となっています。SGLT2阻害薬による予防効果の発見は、既存の糖尿病治療薬に新たな価値を見出す画期的な成果といえるでしょう。

医療現場への影響

今回の研究成果は、糖尿病治療とリウマチ性疾患予防という二つの観点から、SGLT2阻害薬の処方判断に影響を与える可能性があります。特に糖尿病とリウマチ性疾患の両方のリスクを持つ患者に対しては、SGLT2阻害薬が有力な選択肢となることが期待されます。

ただし、すべての患者に適用できるわけではなく、副作用のリスクや個別の病態を十分に考慮した上で、医師と患者が相談しながら最適な治療方針を決定することが重要です。今後の研究の進展により、より詳細な使用指針が確立されることが期待されています。

参考元