サクラクレパス、「生成AIポスター問題」で謝罪 何が起きたのかやさしく解説
老舗文具メーカーとして知られるサクラクレパスが、海外イベントで使用したポスターをめぐり、生成AI(画像生成AI)の利用とチェック体制の不備を認め、謝罪しました。
この出来事は、「画材メーカーがAIでイラストを作るのか」という強い批判や議論を呼び、SNSでも大きな話題となっています。
問題となったのはスペインのイベント「Manga Barcelona」の販促ポスター
今回の騒動の発端となったのは、スペイン・バルセロナで開催されたサブカルチャーイベント「Manga Barcelona(マンガバルセロナ)」で掲示された、サクラクレパスの画材をPRするための販促ポスターです。
ポスターには、サクラクレパスの水性サインペン「PIGMA MICRON(ピグマ マイクロン)」やゲルインキペン「GELLY ROLL」などを手にした制服姿の少女のイラストが大きく描かれていました。
一見するとよくあるイラスト広告に見えますが、イベント参加者の目は細かな「違和感」に気づきました。
- 少女の左手の指が4本しかないように見える箇所がある
- 右手に持ったペンが不自然に大きいなど、人体や物のバランスがおかしい
- 商品イラストのロゴやデザインが実物と異なる
こうした点から、現地参加者がX(旧Twitter)に写真を投稿し、
「画材の会社がAIでポスターを作ってるなんて」とスペイン語で指摘した投稿が大きく拡散しました。
この投稿をきっかけに、ポスターは「AIで作られたのではないか」という疑惑付きで日本にも伝わり、議論が一気に広がったのです。
ロゴや商品デザインにも問題 サクラクレパスが「不備」を認める
サクラクレパスは12月9日、公式サイトで「該当販促物についての正式見解(第一報)」を発表しました。
この時点では、生成AIを使ったかどうかについてはまだ結論を出していませんでしたが、次のような問題点を自ら認めています。
- ポスターに表示された企業ロゴマークの表記が、社内の表示規定に反していた
- イラスト内に描かれたPIGMA MICRONやGELLY ROLLのデザインが、実際の商品と異なっていた
サクラクレパスは、これらの不備を重く受け止めたとして、
問題のポスターについて使用停止と撤去を決定し、現地のグループ会社に対応を依頼しました。
当初の声明では、生成AIが使われたかどうかについては、
「制作・発注に関わったグループ会社に対して事実確認中」として、明言を避けています。
ただ、この時点で既にSNSでは、「やはりAIではないか」という見方が多数を占めていました。
「生成AIで制作していた」と正式に認めて謝罪
その後の追加調査を経て、サクラクレパスは12月11日、公式サイトで第2報となるお知らせを公開し、
問題のポスターについて生成AIが使用されていたことを正式に認めました。
サクラクレパスの発表によると、
このポスターのイラストは、グループ会社の傘下にある販売子会社が制作したもので、
その過程で生成AIを用いていたことが確認されたとしています。
あわせて、次の点についても説明と謝罪が行われました。
- ロゴや商品表記に誤りがあり、グループ会社内でのデザインチェックプロセスが不十分だった
- クリエイターやユーザーを顧客とする画材メーカーとしての姿勢が問われる結果となり、「不快な思いをおかけした」と謝罪した
- 問題のポスターはすでに使用停止・撤去を要請していると説明
サクラクレパスは今後、グループ全体でチェック体制の強化を図り、再発防止に努めるとしています。
なぜここまで問題になったのか――「画材メーカー」と「生成AI」のギャップ
今回のケースが大きな波紋を呼んだ背景には、単なる「ミス」や「AI使用」以上の、業種特有の事情があります。
サクラクレパスは、絵を描く人・文字を書く人など、クリエイターや表現者を支える画材メーカーです。
そうした企業が、自社商品をアピールする場面で生成AIに頼ったイラストを使っていたことに対し、
「人間のクリエイターを大切にしてほしい」「自社の理念と合っていないのでは」といった感情的な反発が起こりました。
特に、今回のポスターでは
- 指の本数がおかしい
- ロゴが不自然
- 商品デザインが現物と違う
など、生成AI特有の不自然さや、ブランド管理の甘さが目立つ形となり、
「クオリティより手軽さを取ったのではないか」という見方を強める結果にもなりました。
SNSでの反応:批判と理解の声が交錯
ネット上では、この件に対してさまざまな意見が出ています。
- 「画材を扱う会社がAIでイラストを作るのは筋が通らない」
- 「クリエイターを軽んじているように感じる」
- 「せめてロゴや商品デザインは正しく描くべき」
といった批判的な声が多く見られる一方で、
- 「グループ会社の販促レベルで起きた問題で、本社がきちんと対応している」
- 「AI利用そのものを全面否定するのではなく、ルール作りとチェック体制の強化が大事」
といった、冷静に受け止める意見も一定数あります。
今回の騒動は、生成AIの利用と企業のブランド姿勢・倫理観をどう両立させるかを考えるきっかけになっていると言えます。
サクラクレパスが示した今後の対応と課題
サクラクレパスは、今回の問題を受けて「再発防止に向けたチェック体制の強化」を明言しました。
具体的な施策の詳細は今後改めて示される見通しですが、少なくとも次のような点が課題として浮かび上がっています。
- グループ会社・子会社も含めたデザイン監修プロセスの明確化
- 企業ロゴや商品イラストなどブランド要素の最終チェックの徹底
- 生成AIを利用する際の社内ルール作りや、利用可否の判断基準の検討
- クリエイターを顧客とする企業としての姿勢やメッセージの再整理
生成AIは、広告やデザインの現場でも急速に広まりつつある一方で、
今回のようにブランドイメージやユーザーとの信頼関係を損ねるリスクも抱えています。
サクラクレパスのケースは、その難しさを象徴する事例の一つと言えるでしょう。
今回の騒動から見える「生成AI時代」の課題
今回の一件は、サクラクレパスだけでなく、これから生成AIを活用していく多くの企業にとって、いくつかの重要な示唆を与えています。
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1. 「バレなければいい」では通用しない
指の本数や文字の乱れなど、生成AI特有の違和感は、ユーザーの目にすぐに留まり、SNSで拡散されます。
特に、クリエイターやファンが集まるイベントでは、細部まで見られる前提で制作する必要があります。 -
2. 企業の「らしさ」とAI利用のバランス
画材メーカーやクリエイター向けサービスなど、「人の表現」を支える企業にとって、AIの使い方はブランドイメージに直結します。
どこまでAIに任せ、どこからは人の手で行うのか、その線引きが今後ますます問われます。 -
3. チェック体制は「本社だけ」で完結しない
今回問題が起きたのは、グループ会社傘下の販売子会社による制作物でした。
海外拠点や子会社を含めた全体で、ブランドやAI利用に関するルールを共有しなければ、同様のトラブルは再発しうることが示されています。
サクラクレパスは、今回の出来事について「ご不快な思いをおかけした」と何度も謝罪し、
ポスター撤去とチェック体制の強化を約束しています。
ユーザーからの信頼を取り戻せるかどうかは、これからの具体的な行動にかかっていると言えるでしょう。



