高まる鶏肉への不安と暮らしへの影響――「洗う?洗わない?」から価格高騰まで、いま何が起きているのか
ここ数年、日本の食卓でおなじみの鶏肉をめぐって、さまざまな変化や不安の声が広がっています。
「鶏肉って、洗ったほうがいいの?」「最近、むね肉が全然安くない」「郷土料理にも影響が出ているらしい」――。
身近な食材だからこそ、調理方法から価格まで、ちょっとした変化が暮らしや健康への不安につながりやすくなっています。
この記事では、
- 鶏肉は「洗うべきか・洗わないべきか」という衛生面の疑問
- 岐阜・下呂市の郷土料理「鶏ちゃん」にまで影響している鶏肉価格の高騰
- ジムトレーナーやから揚げ店を悩ませるむね肉高騰の現状
といった、最近話題になっているニュースを整理しながら、やさしい言葉でわかりやすくお伝えします。
鶏肉は「洗う?」それとも「洗わない?」――知らないと逆に危ないことも
まずは、多くの人が一度は迷ったことのある「鶏肉は洗ったほうがいいのか」という話題から見ていきます。
ネットやSNS上でも、料理好きの人や料理人のあいだでたびたび議論になっているテーマです。
なぜ「洗ったほうが安心」と思ってしまうのか
生の鶏肉は、見た目や触った感じから「なんとなくぬるぬるしていて気になる」「血のようなものがついていて不安」と感じる方が多く、その結果、
- 水でさっと洗ってから調理したくなる
- 洗わないと雑菌が残りそうで心配
と考えてしまう人が少なくありません。
特に家庭では、「昔から親にそう教わった」「魚もお肉も、まず洗うものだと思っていた」といった理由から、疑問を持たずに洗っている方もいるでしょう。
専門家や料理人が勧めるのは「洗わない」調理
ところが、食中毒対策や食品衛生の観点から見ると、生の鶏肉は原則として洗わずに使うほうが安全とされています。
これは多くの料理人や、食品衛生の専門家が共通して伝えているポイントです。
理由は、大きく次のような点にあります。
- 水で洗っても細菌は完全には落ちない
鶏肉に付着している可能性のある細菌は、表面だけでなく細かい凹凸や筋の部分にも存在するため、水で軽く流した程度では十分に除去できません。 - むしろ水しぶきが危険
シンクで鶏肉を洗うと、水しぶきと一緒に細菌が周囲に飛び散り、まな板・調理台・ふきん・他の食材などに広がってしまうリスクが高まります。 - 加熱すれば細菌は死滅する
鶏肉は中心部までしっかりと加熱すれば、付着しているほとんどの細菌は死滅します。
そのため、重要なのは「洗うこと」ではなく十分な加熱なのです。
こうした理由から、「鶏肉を洗うと安心」というイメージとは裏腹に、洗うことでかえってキッチン全体に細菌を広げてしまう可能性があると言われています。
料理人の中でも、「知らなかったら危なかった」「今までのやり方を見直した」という声が出るほど、意外と知られていなかったポイントです。
家庭でできる、鶏肉を安全に扱うための基本
鶏肉を「洗わない」代わりに、家庭で気をつけたい基本的なポイントを整理しておきましょう。
- 生の鶏肉を触ったら、すぐに手をよく洗う
石けんを使って、指の間や爪のあいだまで丁寧に洗うことが大切です。 - 鶏肉用のまな板・包丁と、野菜・パン用を分ける
可能であれば、色違いのまな板を使うなどして、生肉と生で食べる食材が触れないようにすると安心です。 - 鶏肉は中心までしっかり加熱
目安としては、中までピンク色が残らず、透明な肉汁が出てくる状態になるまで火を通します。 - 調理後はシンクや調理台をこまめに洗浄・消毒
生肉を置いた場所だけでなく、その周囲も含めてきれいにしておくと、二次汚染のリスクを減らせます。
このような基本を押さえておけば、鶏肉を無理に洗う必要はありません。
むしろ「洗わない」「飛び散らせない」「しっかり火を通す」という考え方が、これからの家庭の新しい“常識”になりつつあります。
鶏肉の価格がじわじわ家計を直撃――岐阜・下呂市の郷土料理「鶏ちゃん」にも影響
次に、食卓にとって切実な問題となっている鶏肉の価格高騰について見ていきます。
特に岐阜県・下呂市など東海地方の一部地域で親しまれている郷土料理「鶏ちゃん(けいちゃん)」にも影響が出ているというニュースが伝えられています。
「鶏ちゃん」とはどんな料理?
「鶏ちゃん」は、鶏肉を一口大に切り、味噌やしょうゆをベースにしたタレに漬け込んでから、野菜と一緒に鉄板やフライパンで焼き上げる料理です。
シンプルながら、ごはんにもお酒にも合う味つけで、家庭料理としても、飲食店のメニューとしても親しまれています。
比較的安価だった鶏肉を使い、野菜もたっぷりとれることから、「お手頃でボリュームある郷土料理」として長年愛されてきました。
鶏肉価格の上昇で、お店も家庭も苦しい状況に
しかし、ここ最近の鶏肉価格の高騰によって、「鶏ちゃん」を提供する飲食店や、家庭の食卓にまで影響が出ています。
世界的にも鶏肉価格は上昇傾向にあり、アメリカ農務省(USDA)のデータをもとにした統計では、2025年の鶏肉価格の平均が2024年より高い水準で推移していることが示されています。
国内でも、鶏肉全体の価格はここ数年でじわじわと上がっており、「以前のような安さでは仕入れられない」という声が飲食店から相次いでいます。
鶏肉をメインに扱うメニューは、原価の影響を受けやすく、価格調整を迫られている状況です。
岐阜・下呂市の「鶏ちゃん」を出すお店でも、
- 原材料である鶏肉の仕入れ値が上がり、利益が出にくくなった
- タレに使う調味料や、付け合わせの野菜なども値上がりしている
- 値上げをしたくても、観光客や地元客の負担を考えると大きくは上げづらい
といったジレンマを抱えていると報じられています。
郷土料理は、「その土地の味を手ごろな価格で楽しめる」ことも魅力のひとつですが、原材料費の高騰がその前提を揺るがしつつあるのが現状です。
なぜ鶏肉の価格が上がっているのか
鶏肉価格の高騰には、いくつかの要因が重なっています。
- 飼料コストの上昇
鶏のエサとなるトウモロコシや大豆などの価格が、世界的な需給バランスの変化や為替の影響などで高止まりしています。 - エネルギーや物流コストの増加
飼育環境の維持や輸送にかかる燃料代の上昇も、コスト増の要因になっています。 - 健康志向による需要の増加
高たんぱく・低脂質な鶏肉、特にむね肉は、ダイエットや筋トレをする人たちのあいだで人気が高まり、その需要増も価格を押し上げる一因とされています。
こうした背景があるため、単純に「一時的な高騰」と言い切れない状況になっていることが、多くの関係者から指摘されています。
「安いはずのむね肉」が高い――ジムトレーナーやから揚げ店の悲鳴
鶏肉の中でも、とくに「家計の味方」だったむね肉の価格上昇が大きな話題となっています。
もも肉より安く、脂肪分も少ないことから、家庭はもちろん、ジムでトレーニングをする人たちや、スポーツ選手にも愛用されてきました。
むね肉の卸売価格は過去最高水準
日本国内のデータを見ると、むね肉の卸売価格は2025年に入り急速に上昇し、過去最高水準に達していると報じられています。
2010年ごろには「とても安い食材」というイメージが強かったむね肉ですが、近年はもも肉との価格差が大きく縮まり、「以前ほどお得感がない」と感じる人も増えています。
実際に、あるスーパーでは、むね肉の販売価格が前年より20円ほど上がったとされています。
かつては100gあたり50円を切ることもあった地域で、「今は100gあたり100円前後が当たり前になりつつある」という声も紹介されています。
ジムトレーナーの悩み「お客さんに勧めにくくなった」
むね肉の値上がりがとくに響いているのが、ジムトレーナーや筋トレ愛好者です。
これまで、
- 安くて高たんぱく
- 脂質が少なくヘルシー
- 調理しやすく、まとめ買いもしやすい
といった理由から、「筋肉をつけたいなら鶏のむね肉」というアドバイスが一般的でした。
しかし、価格が上がったことで、
- 「毎日むね肉を食べる」ことの経済的負担が増えた
- ジム側も「安くて続けやすい食材」としてすすめにくくなっている
- 利用者から「前より食費がかかるようになった」という声が出ている
などの悩みが聞かれるようになっています。
筋トレやダイエットは、継続がとても大切ですが、食費の負担が増えると続けにくくなる方も少なくありません。
から揚げ店・チキン南蛮店も値上げに苦悩
むね肉やもも肉を大量に使用するから揚げ店やチキン南蛮専門店も、価格高騰の影響を強く受けています。
あるチキン南蛮専門店では、むね肉の仕入れ価格が大きく上がり、「この15年間で初めての厳しい状況」と話しています。
さらに、ウクライナ情勢などの影響で調理油の価格も高騰しており、揚げ物を扱う店は、肉と油の両方でコスト増という二重の負担を抱えています。
その結果、
- 定食や弁当の価格を、ここ数年で複数回値上げせざるをえなかった
- それでも利益は以前ほど出にくく、お店側は綱渡りの経営状態
- 常連のお客さんの中には、来店頻度を減らしたり、より安いメニューを選んだりする人も増えた
といった影響が出ていると報じられています。
年末年始にも影響が? 食卓の鶏肉事情
福岡をはじめとした各地では、「年末年始の鶏肉が高くなりそうだ」という見通しが伝えられています。
クリスマスにはフライドチキンやローストチキン、お正月には煮物や鍋料理など、年末年始は特に鶏肉の出番が増える時期です。
価格高騰により、
- 大人数分を用意しづらくなった
- 例年より量を控えたり、ほかの食材と組み合わせてかさ増ししたりする家庭が増えた
- 飲食店では「特別メニュー」の価格設定に悩むケースが多い
といった傾向も見られます。
一方で、鶏肉そのものの人気は依然として高く、「少し高くても、特別な日にはやっぱり鶏料理を食べたい」という声も根強くあります。
高騰のなかでも、家庭でできる工夫
鶏肉の価格高騰は、すぐに解決する問題ではないからこそ、家庭でできる小さな工夫が重要になってきます。
- まとめ買いして冷凍保存
セールの日や比較的安いタイミングで購入し、小分けして冷凍しておくことで、日々の負担を少し軽くできます。 - 部位を上手に使い分ける
むね肉が高いときには、手羽元やささみなど、比較的価格が安定している部位を活用するのも一つの方法です。 - 野菜や大豆製品と組み合わせてかさ増し
鶏肉の量を少し減らしても、豆腐・厚揚げ・野菜などと組み合わせることで、満足感のある一品に仕上げることができます。 - 下味冷凍で無駄を減らす
味付けしてから冷凍しておけば、忙しい日でも簡単に調理でき、食材を余らせにくくなります。
こうした工夫を取り入れながら、安全な扱い方と上手な節約の両立を目指していくことが、これからの鶏肉との付き合い方のポイントになりそうです。
「安くて身近」だからこそ、正しい知識と情報が大切
鶏肉は、家庭料理から外食、郷土料理まで、私たちの暮らしに深く根づいた食材です。
だからこそ、
- 「洗う・洗わない」といった基本的な衛生知識
- 価格高騰の背景や、業界・地域への影響
- 家計にやさしく、かつ安全に食べ続けるための工夫
といった情報を、落ち着いて知っておくことが大切になります。
目先の値段の変化だけを見ると、不安や不満が大きくなってしまいがちですが、その裏側には、世界的な飼料価格や物流、食の好みの変化など、さまざまな要因が複雑に関わっています。
ニュースや専門家の発信に耳を傾けながら、一人ひとりができる範囲で工夫していくことが、これからの食卓を守る一歩につながっていきます。
鶏肉を「洗うかどうか」という身近な話題から、「郷土料理への影響」や「ジムトレーナーや飲食店の悩み」まで――。
いま、日本のあちこちで起きている変化は、私たちの暮らしのすぐそばで進んでいます。
それぞれの立場での工夫や努力を知ることで、食材への見方も、少しずつ変わっていくのかもしれません。



