ビットコイン量子脅威、市場で議論加速─専門家は「管理可能」と評価

量子コンピュータがビットコインに与える潜在的な脅威をめぐる議論が、2026年2月に入り市場で急速に加速しています。マイケル・セイラー戦略エグゼクティブ・チェアマンが量子セキュリティイニシアティブを発表し、一方で大手暗号資産運用企業のコインシェアーズが実質的リスクは限定的であるとの分析を公表するなど、異なる見解が交わされています。

量子コンピュータがビットコインを脅かす仕組み

ビットコインのセキュリティは、楕円曲線デジタル署名アルゴリズム(ECDSA)という暗号技術に依存しています。この暗号は、秘密鍵から公開鍵を生成するのは簡単ですが、公開鍵から秘密鍵を逆算するのは従来のコンピュータでは事実上不可能という「離散対数問題」の難しさを利用しています。

しかし量子コンピュータが十分な性能に達すれば、この離散対数問題を短時間で解くことが可能になります。多くの専門家は、SHA-256は量子コンピュータに対して比較的安全であり、ビットコインの最大の脅威はECDSAの脆弱性にあると指摘しています。

脅威が現実化するまでの時間的猶予

米国防高等研究計画局(DARPA)は、2030年代に重大な脅威が現れる可能性を示唆しています。一方、イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、現在の暗号を解読できる量子コンピュータが2030年までに出現する確率は20%と推定しています。

より詳細な技術分析によると、コインシェアーズは、ビットコインのアドレス生成や署名に使われている楕円曲線暗号「secp256k1」を1年未満で解読するには、現在の論理量子ビット数の1万~10万倍が必要とされると指摘しています。このことから、実効性のある量子技術の登場は「少なくとも10年以上先」になると予測されており、コインシェアーズは現在の技術水準では、ビットコインの暗号鍵を1年未満で破るために現在の量子コンピュータと比べて10~10万倍規模の論理量子ビットが必要だとしています。

セイラー会長の積極的な対応姿勢

マイケル・セイラー氏は最近、ビットコインセキュリティイニシアティブの立ち上げを発表しました。このプロジェクトはサイバーセキュリティと暗号専門家とのグローバルな協力を含み、研究とリスク軽減戦略を策定することになります。量子の脅威は約10年後に現れると予測されていますが、このイニシアティブは将来のアップグレードに備えてビットコインのプロトコルを積極的に準備し、ネットワークのレジリエンスを確保することを目指しています。

セイラー氏の見方は楽観的です。同氏は量子コンピュータがビットコインを破壊せず強化すると述べており、ネットワークが量子耐性アップグレードを受け、アクティブなBTCが移行する一方で失われたBTCは凍結されると述べています。

コインシェアーズの「管理可能」との評価

一方、大手暗号資産運用企業のコインシェアーズは、2月6日に発表した分析レポートで、量子脅威を「予見可能で管理可能」と評価しています。同社は量子技術が理論上もたらすリスクを認めつつも、「実用的な脅威は依然として遠く、工学的な課題として十分に対処可能」との見解を示しています。

重要な点として、コインシェアーズは「量子コンピュータが暗号技術全体を破壊する」という見方は誤解だと指摘しました。SHA-256は量子計算下でも実質的に安全性が保たれ、ビットコインの2100万枚の発行上限やプルーフ・オブ・ワーク(PoW)の仕組みが量子計算によって無効化されることはないとしています。

同社は、量子脅威への現実的な対応策として、ソフトフォークによる量子耐性署名を導入することを推奨しています。これにより、既存のネットワークと互換性を保ちつつ、新たな暗号基準をシームレスに統合することが可能となります。また、所有者自身が自らの判断で、量子耐性アドレスへ資産を移すことでリスクを回避できると提案しています。

3段階の段階的アプローチ

ビットコイン開発者のジェームソン・ロップ氏らは2025年7月、量子コンピュータ攻撃からビットコインを保護するため、従来の暗号化方式を段階的に無効化する提案を発表しました。この提案は3つのフェーズで構成されており、フェーズAはBIP-360実装の3年後に開始され、フェーズBはフェーズAの2年後に発動される予定です。

提案者らは「この提案はビットコインの歴史において根本的に異なるものだが、量子コンピューティングが提起する脅威もまたビットコインの歴史において根本的に異なる脅威である」と説明しています。

警告を発する機関も存在

一方で、米連邦準備理事会(FRB)と米シカゴ連邦準備銀行は2025年11月、「Harvest Now, Decrypt Later(今すぐ収集し、後で解読する)」と題した研究報告書を発表し、量子コンピュータがビットコインの秘密の履歴を解き明かす可能性を警告しています。

市場への影響と機関投資家への メッセージ

2026年2月現在、ビットコインは約1,100万円台で推移していますが、量子コンピュータの脅威が市場心理に影響を与え始めています。コインシェアーズは、機関投資家にとって重要なのは「量子脅威が管理可能で、時間的猶予が十分にある」という点だと結論付けています。

同社は量子コンピュータはビットコインにとって即時の危機ではなく、予見可能な技術課題にすぎないとし、誇張されたリスク論ではなく、ビットコインの基礎的な設計と進化可能性に基づいて評価すべきだと指摘しています。

今後の展開

業界全体としては、量子脅威への対応が進みつつあります。時期尚早な強硬策よりも、段階的かつ検証済みの暗号方式への移行を優先する方針が主流となっています。未検証の暗号方式を導入することで、深刻なバグやビットコインの中立性、不可逆性、分散性を損なう恐れがあるためです。

ビットコインコミュニティは、十分な時間的猶予を活用して、慎重かつ段階的にこの技術的課題に対処していく方針を取っています。専門家や企業のコンセンサスとしては、量子脅威は確かに実在するが、今後数十年の間に対応可能な問題として捉えられています。

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