ドル円相場、9カ月半ぶりの高値へ―拡大する円安と根強い動きの背景
円安進行が止まらない―155円台半ばを突破
2025年11月18日、円相場は再び大きな節目を迎えました。東京外国為替市場およびニューヨーク市場でドル円は一時155円台半ばまで上昇。これはおよそ9カ月半ぶりの高値水準となり、多くの市場参加者が円安の流れに強い関心を寄せています。背景には、日本の財政政策や金融政策の動向、加えて米国の経済情勢が複雑に絡み合っています。
財政拡張への期待と日銀利上げ観測の後退
今回の円安進行の大きな要因として、市場では日本政府による財政拡張への期待感が広がっています。高市首相が大型補正予算の策定に前向きな姿勢を示しているほか、直近では首相自らが日銀の植田総裁との会談を控えていることも注目されています。この動きを受けて、「日銀が利上げのタイミングを遅らせる」との見方が市場で強まっており、円売りが先行しました。
日本国内ではここ数期、経済成長の鈍化が続き、直近の四半期でもGDPが6四半期ぶりにマイナスへと転じました。これを受けて景気刺激策が必要との声も高まり、追加の財政措置が期待されています。市場関係者からは、「日銀の利上げが遅れるのでは」といった観測が拡大。これが円売り圧力につながり、ドル円相場を押し上げました。
投機筋も「二進一退」―円安トレンドの投資家心理
円安が続く中で、投機的な動きも活発化しています。為替ディーラーやヘッジファンドなど短期筋の投資家は、急激なポジションの増減を避けつつも、基本的には「円安トレンドが今後も続く」とみる立場が優勢です。一方で、心理的節目である155円や156円といった水準では一旦利益確定の売りも入りやすく、「二進一退」(じわじわ進行と一時的な反発を繰り返す)の状態が強まっています。
- 過去1週間のドル円相場はおおむね154.50円台から155.50円台の間で推移。
- 円安進行中も、時折大きな変動は少なく、比較的適度な値動きが続いている。
- 市場参加者の間では「年初来高値を更新するか」が注目ポイントとなっている。
NY市場での円安、米国経済指標と連携
17日夜から18日にかけてのニューヨーク為替市場でもドル円は上昇。この背景には、米国の景気指標の強さがあります。米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ観測が後退し、米ドルに対して投資家の買い意欲が強まっています。たとえば、NY連銀製造業景気指数が市場予想を大きく上回る結果となり、円に対してドルが優位に取引されました。
また、日本の政治・経済リーダーによる発言や会談などが材料視されやすく、特に日銀総裁が会見などで金融政策の方向性に言及する場面には市場が強く反応します。高市首相による日銀への金融緩和維持要請の観測も、市場心理に影響しています。
日本の追加財政政策が与える影響
円安の要因の一つとして、日本政府が検討中の大型補正予算や財政拡張策の動きがあります。景気の下支えやコロナ禍後の持続的成長を目指して、公共投資や補助金政策、所得補償など多様な分野での予算組み換え・追加支出が議論されています。
しかし、このような財政拡張が市場に「将来的な財政健全性の低下」という懸念を呼び、信認低下から円が売られやすくなることも事実です。財政と金融政策の間のバランスが、今後の為替動向を大きく左右するとみられています。
将来の注目ポイントと市場の見通し
- 日銀の金融政策会合:今後の金利引き上げ時期や緩和修正についての示唆が注目されます。
- 高市首相・日銀総裁会談後の発表:両者の発言が相場に直結する材料となります。
- 米国雇用統計・経済指標:引き続き米ドル買い需要を刺激する可能性があります。
- 心理的節目の水準:155円台後半、場合によっては年初来高値を意識した売買が活発となります。
最新の為替レート情報(2025年11月18日時点)
- ドル円の中心値付近:155.30円台(日中高値155.31円付近まで上昇)
- 過去5営業日の仲値範囲:おおむね154.78円〜155.53円(各都市銀行公表値)
- 円の交換価値は、対米ドルでの下落基調を継続
「適度な変動」が続く意味と、個人・企業に求められる対応
今回の円安進行は、急激な乱高下ではなく「適度な変動」を伴いながら進行しているのが特徴です。「荒れ相場」ではないものの、ジリジリとした円安基調を背景に、個人や企業にとっては為替リスク管理がますます重要となっています。
たとえば、
- 外貨建て資産や海外送金・輸出入取引を行う企業では、先物取引やオプション契約などによるリスクヘッジが推奨されます。
- 個人投資家は外貨預金やFX取引におけるポジション管理を慎重に進めることが重要です。
- 輸入品や海外旅行のコスト上昇を念頭に、消費行動や資産運用戦略の見直しが求められています。
まとめ―円安の「なぜ」を理解する
2025年11月の市場では、ドル円の9カ月半ぶり高値更新が大きな話題となっています。主要因は、日本の財政拡張策や日銀の利上げ時期の後ずれ観測、それに呼応した円売り圧力の強まりです。加えて、米国経済の底堅さや米国側の金融政策動向も複合的に作用し、米ドルへの信任が高まる構図となっています。
「円安が今後どこまで進むのか」「どの水準で反転するか」といった中長期的な見通しは依然として不透明ですが、こうしたマクロ環境を理解することが、為替相場と上手く付き合っていくための第一歩です。


