パリ発着の夜行列車に大きな転換期——パリ・ベルリン間「復活」と「廃止」の波紋

ヨーロッパの鉄道が注目される背景

近年、環境への意識の高まりや、都市間の移動手段としての利便性の高さから、ヨーロッパでは鉄道網の発展が進んでいます。その中心にあるのが、さまざまな国をまたぐ国際列車夜行列車です。特にパリを出発点とするパリ・ベルリン間の列車は、旅行者はもちろん、欧州内出張者、交通インフラ関係者からも大変注目を集めてきました。

2024年の明るいニュース:TGVパリ・ベルリン直行便の誕生

2024年12月16日、長年待望されてきたパリ・ベルリン間TGV直行便がついに開通し、フランス・パリのレスト駅を朝出発すれば、同日の夕方にはドイツのベルリン中央駅に到着できるようになりました。その所要時間は約8時間。より低炭素で快適、そして速い移動を実現したとして、多くの人から歓迎されました。この路線はSNCF(フランス国鉄)とDB(ドイツ鉄道)が日中の定期便として運行しており、今後の欧州鉄道の新たな指標ともなりました。

  • 初日のTGV直行便はパリ発午前9時55分、ベルリン着午後6時3分
  • 観光客やビジネス利用者双方のニーズにマッチ
  • 航空路線より低炭素かつ中距離移動に適した選択肢
  • 2026年にはさらにパリ・ミュンヘン間にも直通便新設予定

夜行列車にも期待が高まる

こうした中、既存の夜行列車(ナイトトレイン)の人気も再び高まってきました。例えば、かつてのパリ・ベルリン、パリ・ウィーン間の夜行列車は、日中移動が難しい人々や、旅情を楽しみたい旅行者にとって大事な選択肢でした。明かりを落とした車両の中で揺られながらヨーロッパを横断する特別な体験は、大人から子供まで鉄道の魅力として語り継がれています。

突然の逆風――夜行列車の廃止発表

しかし、2025年秋、業界に大きな波紋が走ります。SNCFおよびオーストリア連邦鉄道(ÖBB)は、パリ・ベルリン間およびパリ・ウィーン間の夜行列車運行を2025年12月14日で終了することを発表。背景には、フランス政府による財政補助金の打ち切り、および採算性の問題がありました。

  • 夜行列車は近年復活・注目を集めていた
  • フランス政府が年間数百万ユーロを補助金として拠出してきた
  • 同時に、ITやロジスティクスの大規模投資、車両の老朽化問題も
  • 急な路線断絶に対し、旅客や利用推進団体らによる抗議・再開運動も拡大

ナイトジェット(NightJet)提携解消の影響

夜行列車の多くは「ナイトジェット」ブランドで提供されてきましたが、フランス国鉄(SNCF)はこの共同運行からも撤退を決めました。これにより、多国間で人々を移動させる路線が一部、途絶えたり縮小したりする事態となっています。

民間企業による新たな取り組みと未来への希望

そうした中で注目されるのが、民間鉄道事業者による夜行列車復活への挑戦です。2026年には新たなパリ・ブリュッセル・ベルリン夜行列車が登場する計画、さらにパリ発ベルリン行き、最低59ユーロ~という手頃な価格から利用できる新規夜行便も民間会社によって始まる予定です。こうした新サービスの動きは、需要に応えるための工夫と鉄道移動活性化への熱意の証しでもあります。

  • 新夜行列車は民間による競争力向上、サービス多様化を促進
  • 59ユーロからの切符価格設定で幅広い層に開かれた選択肢へ
  • 主な新ルート:パリ – ブリュッセル – ベルリン
  • 利用促進のための地域集会や市民運動も盛り上がりを見せている

ヨーロッパの「夜行列車文化」とその意義

多くの鉄道ファンやヨーロッパ市民にとって、夜行列車は単なる移動手段以上の存在です。「鉄道でゆっくりと目的地へ向かう」という文化は、旅そのものに価値を見いだす欧州の風土を象徴します。加えて、航空便に比べてCO₂排出量が少ないため、持続可能な社会を目指す現在の欧州においては、鉄道移動の復権がますます重視されています。

現実の課題――採算性・投資・政策の壁

こうした理想の裏には、大きな課題も横たわっています。現行の夜行列車は、補助金が打ち切られると採算割れとなりやすく、運行事業者が路線維持を諦めざるをえない状況が続いています。設備や車両の老朽化、サービスレベルの維持、インフラ再生工事やデジタル投資など長期資本必要額も莫大です。そのため、「便利さ」「移動体験」「環境性能」という〈理想〉と「費用・経営」という〈現実〉との間で、大きな調整が求められています。

市民と地域の声:「夜行列車を守ろう!」

フランスのナンシー(Nancy)など地方都市では、夜行列車の復活や、路線の維持を訴える市民集会や署名活動が活発に行われています。単なる観光や友人訪問だけでなく、学生や通勤者、高齢者の移動手段としても夜行鉄道は不可欠。そうした声は、鉄道会社や政府にも強く届き始めています。
このような地域の声や利用者のニーズを反映しつつ、今後は新事業者との協力や革新サービスによる「持続可能な地域鉄道モデル」の確立が期待されます。

  • 地域社会や都市のつながり、エコツーリズムの振興にも影響
  • 地方自治体関与、利用者団体による政策提言活動も活発化

まとめ――今後の夜行鉄道のゆくえ

パリ・ベルリン間の夜行列車をめぐる2025〜2026年の動きは、ヨーロッパの鉄道政策と移動文化、持続可能なインフラのあり方について多くの教訓を残すものとなりました。国際協力や地域社会の声、新たな民間参入など、逆風の中にもさまざまな希望の芽が生まれています。

夜行列車を惜しむ声・再開を求める声が大きい中、事業者や政策担当者、地域社会、利用者が手を取り合い、ヨーロッパらしい「環境にやさしい、心豊かな鉄道旅行文化」を守り育てていけるのか。今後の動向に大いに注目が集まっています。

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