大阪医科薬科大学、ウイルス感染力を自動解析するソフトウェア「plaQuest」を開発
大阪医科薬科大学の研究グループは、2025年12月2日、病原ウイルスの感染力を効率的に数値化できる新しい自動解析ソフトウェア「plaQuest（プラークエスト）」を開発したと発表しました。このソフトウェアは、抗ウイルス薬の開発研究において大きな期待を集めています。
プラークアッセイ法の課題を解決
ウイルスの感染力を調べるために、研究者たちは従来「プラークアッセイ法」という手法を使用してきました。この方法では、ウイルスに感染した培養細胞に無数に現れる小さなプラーク（穴）を目視で数えて、ウイルスの感染力を測定します。
しかし、この手作業によるカウント方法には大きな課題がありました。薬剤試験など多量のサンプルを一度に扱う実験では、膨大な労力が必要になります。さらに、研究者によってプラークの識別方法やカウント方法に違いが生じ、その結果が測定結果に影響を与えることもありました。こうした作業者による個人差が、研究結果の信頼性や再現性を低下させる要因となっていたのです。
研究チームと開発の背景
今回の研究を主導したのは、大阪医科薬科大学医学部生物安全実験研究室の鈴木陽一特務教授と、微生物学・感染制御学教室の中野隆史教授の研究グループです。作業負担の軽減と結果の均一性を目的として、彼らはウイルスプラークを自動的に識別しカウントするソフトウェアの開発に取り組みました。
このプロジェクトの結果として誕生したのが「plaQuest」です。このソフトウェアは、細胞培養プレートに作られたウイルスのプラークを自動的に識別し、カウントします。従来の手作業に比べて、格段に効率的でありながら、正確性を兼ね備えています。
高い相関性が確認された検証結果
研究チームはplaQuestの有効性を検証するため、複数のテストを実施しました。その結果、研究者が目視でカウントしたプラークの数と、plaQuestが自動カウントしたプラーク数との間に高い相関が見られました。このことは、ソフトウェアが研究者の手作業と同等、あるいはそれ以上の精度で測定できることを示しています。
さらに重要な点として、plaQuestは複数の危険な病原ウイルスに対する阻害剤の有効濃度を効率的に測定できることも実証されました。具体的には、チクングニアウイルス、新型コロナウイルス、そしてデングウイルスといった病原ウイルスに対する阻害剤の評価試験において、その有用性が確認されています。
抗ウイルス薬開発への貢献
プラークの形成はウイルスの感染力の指標となります。つまり、プラークが多いほどウイルスの感染力が強いということです。plaQuestは、この重要な指標を正確かつ迅速に測定できるため、ウイルス阻害薬の開発研究での活用が大いに期待されています。
従来のプラークアッセイ法にplaQuestによる自動カウント機能を組み入れることで、抗ウイルス薬の開発プロセスはより効率的に進めることができるようになります。同時に、解析技術の標準化と再現性の向上にも直結します。これは、医薬品開発において非常に重要な改善です。
研究成果の発表
この研究成果は、2025年4月に国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。国際的な評価の場で認められたことは、plaQuestの科学的価値と信頼性の高さを物語っています。
社会への影響と将来の展望
plaQuestは、単なる研究ツールとしてだけでなく、社会全体へ大きな影響をもたらす可能性を秘めています。ウイルス感染症の治療や予防に関する研究を着実に前進させることが期待されるからです。
新興感染症やパンデミック対策の重要性が世界的に認識される中、より迅速で効率的な抗ウイルス薬開発は急務となっています。plaQuestのような革新的なツールは、そうした課題の解決に大きく貢献するでしょう。
研究チームは、plaQuestが抗ウイルス薬の開発を目的とした研究に大変有用なツールであることが示されたと述べており、今後の活用が広く期待されています。このソフトウェアが医学研究の現場に広がることで、人類がより多くの感染症に対抗する力を得られるようになるのです。
大阪医科薬科大学の研究への貢献
大阪医科薬科大学は、医学と薬学の融合による先進的な研究で知られています。今回のplaQuestの開発は、そうした大学の研究姿勢を象徴するプロジェクトといえます。基礎研究の成果を実用的なツールとして社会に還元することで、医学研究全体の質の向上と発展に貢献しているのです。
このような革新的なソフトウェアの開発は、日本の医学研究における国際競争力を高めるとともに、感染症対策における日本の立場をより強固なものにしていくでしょう。
