大阪ガス、AI活用で製造業のDXを推進—業務効率化から品質管理まで広がる取り組み

大阪ガスが、人工知能(AI)技術を活用した業務効率化と製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に本格的に取り組んでいます。同社は複数のAIシステムを開発・導入し、製造現場の品質管理から顧客対応まで、幅広い業務領域での効率化を実現させようとしています。

製造業向け「成分推定AIシステム」で品質管理を革新

大阪ガスが最近開発した注目すべき技術が、「成分推定AIシステム」です。このシステムは、製造業における品質管理の在り方を大きく変える可能性を秘めています。

従来の品質管理では、製品の成分を測定するため、製造現場から品質管理室へ製品を運搬し、専門の分析機器での検査を待つ必要がありました。この過程には時間がかかり、検査結果が出るまでの間、生産ラインは停止を余儀なくされることもありました。

成分推定AIシステムの最大の特徴は、リアルタイム・非破壊・非接触で成分を推定できることです。その場ですぐに成分推定ができるため、品質管理室への運搬や分析待ちの時間が大幅に削減されます。さらに、測定対象物を傷つけない「非破壊」かつ「非接触」の自動計測により、検査に伴う製品の廃棄ロスや、接触による破損・汚染リスクも低減します

もう一つの重要な特徴は、AI活用により、状態変化や品種違いを汎用的なAIモデルで対応できる点です。従来の手法では、生米から蒸米への状態変化や品種が切り替わるたびに、個別の検量線を作成する必要がありました。しかし本システムは、複雑な相関関係を捉えるアルゴリズムを活用することで、汎用的なAIモデルを構築しており、状態変化や品種変更のたびに検量線を作り直す手間がなくなります

このシステムの導入により、従来「人の勘と経験」に頼っていた原料・製造物などの状態把握が定量化され、これに基づいて生産設備を制御することで、安定的な商品の製造が可能となります。さらに、時間と手間がかかる工程管理を自動で行うことができ、生産現場のDXが実現するのです。

ガス機器設置工事の品質確認でAIが活躍

大阪ガスマーケティングは、施工品質の確認業務にAIを導入する取り組みも進めています。「施工品質チェックのAIモデル」は、2024年10月に発表され、2025年11月には日本ガス協会の「2025年度 技術賞」を受賞しました

このAIモデルは、施工後の品質確認にAIによる自動判定を導入し、撮影した写真を基に9項目をリアルタイムで判定します。これまでは、ヒューマンエラーによる施工不良を防ぐため、「施工後のセルフチェックと管理者によるダブルチェック」を実施していましたが、件数が多く労務負担が大きいため、すべてのエラーを完全に防止することは困難でした

現場のデータを活用したこのAI判定モデルは、約4,600枚分の実写真データを用いてディープラーニングを活用し、物体検出技術と判定ロジックを組み合わせて開発されました。施工後の写真から即時に締め付け状態やシール材の塗布状況を判定でき、不良の早期発見と迅速な是正が実現します。

このツールの導入により、年間10万件以上のガス機器設置工事で迅速な点検が可能になり、確認作業の精度と効率が向上し、管理者の負担軽減と施工品質の向上が実現しています

生成AIで顧客サービスも進化

大阪ガスマーケティングとNTT Comは、生成AIを活用した音声自動応答サービスの試験運用を開始しました。このサービスは、顧客からの電話での問い合わせに対して、生成AIが自動で回答を生成し、音声で返答します

従来の音声自動応答ソリューションは、予め設定したシナリオで応対するのみでしたが、このシステムではシナリオレスで応対が可能です。大阪ガスマーケティングが用意するFAQをもとに学習を行い、より幅広い顧客からのお問合せに対応することができます。

生成AIを活用することで自動応答での自己解決率が向上し、混雑時などもお待ちいただくことなく、お客さま対応が実現します。今後、NTT Comの独自技術で最適化した音声認識、AIエンジン、音声合成機能と、大阪ガスの業務手配システムなどを連携させることで、将来的には電話応対から受付内容の手配までの全業務プロセスの自動化実現を目指しています

DX推進の背景と今後の展望

大阪ガスがこのように複数のAIシステムを開発・導入している背景には、製造業全体のDX推進を支援し、日本の産業競争力を強化したいという狙いがあります。

成分推定AIシステムについて、大阪ガスは販売パートナーのさらなる拡大を目指し、幅広い製造業のDX推進を支援する方針を示しています。このシステムは、食品業界をはじめとした様々な製造業での活用が期待されており、「職人の技」をAIがサポートする形で、品質の安定化と生産効率の向上を実現させようとしています。

大阪ガスグループ内では、2025年4月に新設された「DX業務改革部」など、現場の業務改善とDXを専門的に推進する体制も整備されており、社内全体での効率化の取り組みも活発化しています。

これらの取り組みは、単なる業務効率化にとどまらず、人材不足という社会課題の解決にも貢献するものとして評価されています。AIが定型的な判定作業や顧客対応の一部を担当することで、人間はより創造的で高度な業務に集中でき、働き方改革の推進にもつながるのです。

大阪ガスの一連のAI活用事例は、日本の産業界全体に対して、デジタル技術の有効な活用方法を示す重要なモデルケースとなりつつあります。

大阪ガス公式プレスリリース「大阪ガス、製造業のDXに向けた『成分推定AIシステム』を開発」

NTT Com公式プレスリリース「大阪ガスマーケティングとNTT Comが生成AIを活用した音声自動応答ソリューション」

EXEO公式プレスリリース「大阪ガスマーケティングと共同開発『施工品質チェックのAIモデル』」

EXEO Digital Solutions公式プレスリリース「施工品質チェックのAIモデルが日本ガス協会『2025年度 技術賞』を受賞」

参考元